はじめての迷宮の話④
「にーちゃん、いくつ?」
ユンは干し肉をむしゃむしゃと食べながら尋ねた。
「にーちゃんも、よく見たらまだ子供だよね?」
「まあね。僕は八歳だ」
「八歳!? はちか、じゃあ……」
ユンは指折り数えている。フロイが助け舟を出した。
「やっつよ」
「やっつだ!」
「そうだよ」
僕はフードを取った。物置は暗い。所かまわず発生する燐光のおかげで顔はおぼろげに見えるが、はっきりとは見えない。近づきすぎなければ、顔を覚えられるようなことは無いだろう。
「あれ? にーちゃん、誰だ? 村人じゃないよな?」
「……?」
ユンの言葉に、フロイがさっとこちらを振り向いた。さては、フロイの方は村人の顔をあまり覚えていないのではないか?
とりあえず、僕は微笑んだ。怪しまれてはいけない。
「そうだよ。僕の父は導主様の友達でね。一緒についてきたんだ」
「「導主様の!?」」
ユンとフロイはそろって目を輝かせた。
「すごい! 導主様の知り合いの人に会えるなんて!」
「導主様ってどんな人なんですか!?」
ものすごい食いつきだ。そこまで興味を持たれるとは、正直思っていなかった。どうしよう。導主様なんて、名前だけでどんな人物なのかよく知らない。ゲームで敵として倒したような気がする、くらいのふわっとした記憶と知識しかない。
「え、えーと、僕も導主様にはお会いしたことがないんだ」
「「……」」
僕の言葉で、途端に二人とも表情が険しくなった。極端すぎるだろ。
「あー、でも、導主様の息子のイニチェ様とは友達……かな」
そう言えなくもない。
「「イニチェ様と、お友達!?」」
予想通り、二人は目を輝かせた。
「すごいすごい! 私たちの期待の星のイニチェ様とお友達だなんて!」
「へ? ああ、そうそう、期待の星なんだ、彼は」
「初代導主様の教えを若干五歳でそらんじたって、聞きました。本当ですか!?」
「ちょっと違うね。……四歳だったよ」
「わあ! さすがイニチェ様」
こうなるともう止まらない。僕は二人のリアクションがあまりに面白くて、「友達のイニチェ様」についてあることないこと盛りまくって話した。
導主様と違って、イニチェには一度会っている。そのイメージがある分、話しやすかった。
その時だった。
ばーん!とすさまじい音を立てて、小屋の扉がひらいた。
「ユン! フロイ! 出てこい! ここにいるのはわかってるぞ!」
稲妻のような大声が轟いた。僕はユンとフロイの二人が座ったままニ十センチくらい飛び上がるのを目にした。大笑いしたいくらい滑稽だったが、それどころではない。僕の方が二人より何十倍もピンチだからだ。
ここはやや奥まっている。まだ入り口からは見えない位置だ。まだ見られていない。隠れてやり過ごさなければ。
僕はまず、アルテミスを起動し、ユンの手を取った。
【反転重力:浮遊】。
重力魔術でユンとフロイを浮かせ、三人で天井に張りついた。
二人は驚きのあまり目を丸くして、目玉が飛び出さんばかりだったが、それでも声を漏らしたりはしなかった。自分とお互いの口を押えて、声を出さないようにしている。
あとはこのまま、あの大声の男が立ち去るのを待つだけだ。
心配なのは、魔力切れだが……まあ五分間くらいならもつ。この小屋はそれほど広くないし、隠れるところも多くない。五分もかからず探し終わるはず。たぶん大丈夫だろう。
「ユン! フロイ! 出てこい! 十数えるうちに出てこなきゃあ、晩メシはなしだぞ!」
「……っ」
ユンが何か言ったようだが、フロイがぐっとユンの口を押えて黙らせた。ナイスだ。
「……」
大声の男は扉を閉め、ゆっくりと小屋の中に入ってきた。歩を進めて、ユンがさっきいた場所、つまり僕らのほぼ真下に立った。食べかけの干し肉が放り捨てられている。ユンがさっき落としたらしい。
あれも魔術で天井に張りつけておけばよかったな。
「おかしいなあ。いないのかあ? でも前にも似たようなことがあったなあ……」
……なんだか嫌な感じだ。どうも彼はここに二人がいると確信めいたものを持っているらしい。痕跡でもあるのだろうか。まあ、干し肉が落ちているけど。でも、置いていったとか思わないのか。ないか。まずいなあ。五分以上居座られたらさすがにきついんだけど……。
と、袖を引っ張られていることに気づいた。顔を上げると、フロイだった。目が合うと、彼女は干し肉が吊るされている方を指さした。天井に金具が打ち込んであって、そこからロープで吊るされている。
「……?」
なんだというのだろう。彼女を見ると、なにやら慌てた様子でジェスチャーして何かを伝えようとしている。
ここから離れよう、か……?
なぜ? ここにいれば見つからないだろ? まさか天井に張りついてるなんて、誰が思うんだ……?
「ユン、お前は食い意地が張ってるよなあ……」
大声の男は真下から動かない。
「ときどき、今日みたいにお前はいなくなる。でもな、俺はフロイから聞いたぞ……」
僕とユンはフロイをみた。フロイは明後日の方向を見ていた。
「こういうときはいつも、干し肉の上に隠れてるってな!
……うおっ、誰だ、お前!?」
バレた。
え? なんだこの見つかり方。
全然納得いかないんだけど。




