はじめての迷宮の話②
どうしよう。
今すぐ回れ右して帰るべきだろうか。
ここは廃棄された迷宮だ。ここで採掘しているということは、すなわち密猟しているということだ。
まず、確認すべきは彼も密猟者なのかどうかか……。
「どうかしたか?」
暗闇の奥で彼が首をかしげたのがわかった。僕は愛想笑いを返した。
「あ、いえ、大丈夫です。そちらは、どうですか? いいのは採れてますか?」
「ああ、上々かな」
がらがら、と遺物らしき石のつまったカバンをゆするような音が聞こえた。ほっとした。彼も密猟者らしい。
「ま、ノルマは達成できそうかな。そっちはどうだ?」
……ノルマ?
冷や汗がでたのがわかった。
たとえば、彼は密猟者グループの一員で僕のことを仲間と勘違いしている、とかだろうか。
ここは、とりあえず話を合わせておくか……。
「まあまあ、ぼちぼちかな」
「それにしても、お前、ずいぶん声が若い、っていうか子供っぽいな。いくつだ?」
「い、いくつだっていいだろ」
「よくねえよ。十二歳になってなかったら、採掘は禁止だって、爺様が言ってるだろ」
爺様? 誰だ?
密猟者グループのリーダー、とかだろうか?
「そ、そうでしたっけ……?」
「お前、まさか……」
まずい。怪しいかったか。バレたか?
「親が採掘にでられないから、こっそり来たのか?」
「え?」
「どうしたんだ、ケガか? 病気か? 俺の親父、けっこう階級が上だからさ、ノルマを待ってくれるよう、頼んでやろうか?」
「え、ええと……」
どうしよう。彼が何を言っているのか、まるでわからない。
……いや、ちょっと待てよ。
僕は『彼ら』を知っている。
まだ会ったことは無かったけれど、彼らのことはずっと前から知っている。ゲームに折に触れて登場していたから。
彼らは主に迷宮の中に、隠れるようにして棲んでいる。
それは人目を避けるため、というのもあるけれど。
それならわざわざ迷宮の中でなくてもいい。
ダヴィのように山奥でもいいことだ。
彼らが危険を冒して迷宮に棲むのは、もっと明確で合理的で切実な理由があってのことだ。
迷宮の中までは、天使の目が届かないから。
「俺の親父、導主だからさ。けっこう融通きかせられるんだぜ?」
「き、君の名前は?」
「俺か? 俺はイニチェだ」
目の前の暗闇にいる彼は、シーザー教の信徒……。
つまり、邪教徒だ。




