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労働の話⑯

 庭に出ると、リズと鉢合わせした。

「二人してどうしたんだよ。仕事は?」

「もういい頃合いだと思ってな」

「頃合い? あれ、首輪、外したのか? じゃあ……」

「ああ、もう芝居はいらんぞ」

「そうか! もう演技いらねえんだな!」


 リズは近づいてきて、僕の頭を力いっぱいなでまわした。

 なにが演技だ。なにも変わらないじゃないか。


「よかったなあ、グリム。よかったな!」

「ちょ、ちょっと、痛いですよ……」

「お前の先生は、お前の味方だったろ!」

 ふと見ると、リズは泣いていた。泣きながら満面の笑みで、ぐしゃぐしゃになでている。

「……よかったな!」

「はい!」

「……二人とも、こっちだ」


 ダヴィは僕たちがじゃれている間に、簡単なまとを作っていた。


「グリム、そこから魔術を撃ってみろ」

「よし! ファイアボー……」

「やめろ! 森の中で火の魔術なんか使うな!」

「え。ええっと、じゃあ、ウォーターボール」


 水で球を作って飛ばした。的に無事に当たった。

 ……でも、こんなのはラグラン先生と学んでいた時からできていた。特になにかが進歩したような感覚もない。

 当たり前にできていたことが、当たり前にできるだけだ。

 腕が落ちていないことを確認ということだろうか。


 顔を上げると、ダヴィと目があった。

 ダヴィは僕が納得していないことに気づいたのか、一瞬目を開いた後、にやっと笑った。


「グリム、もう一度やってみろ。ただし、撃つ前に少し待て」

「はい」

「球を大きくしてみろ」

「はい」

「回転させる」

「はい」

「速度を上げて」

「はい」

「表面と内部で回転方向を変える」

「はい」

「さらに層を五つに分離して」

「はい」

「層のそれぞれで回転方向を変える」

「はい」

「回転を保ちつつ、各層をドーナツ形に変形」

「はい」

「一層と三層を凍らせる」

「はい」

「二、四、五層の水の粘性を変更。はちみつ並みに」

「はい」

「こんなものでいいだろう。撃て」

「はい」


 撃った。なんだかよくわからない、天球儀のおばけのような水の球が的に当たり、割れた。

 ダヴィはそれをみて、満足げにうなずいている。


「まあ、いいだろう」

「あの……」

「どうした?」

「これが、なんだと……」

「お前、いまのをここに来る前にできたか?」


 そう言われてようやく僕はハッとした。

 さっきと同じ球を手のひらの上で再現する。難なくできた。同じことが、ここに来た時にできたはずもない。

 なぜできたのか?

 簡単な話だ。普段、魔剣を作るときは今よりはるかに繊細で緻密な魔術を使っているから、簡単だった。

 例えるなら、三角関数について頭を悩ませているところに、足し算の問題を出されたようなものか。


「魔術はそれで十分だろう。もっとすごいことがしたいなら、精進すればいい。そのやり方も、今のお前ならわかるだろ」

「はい」

「剣術も同じだ。教える必要はない。わかるな?」

「はい」


 僕はうなずいた。この半年、ダヴィから、言葉でなにかを教わるようなことは一度もなかった。ただ、その仕事ぶりや道具、彼が作った魔剣、そういったものに触れさせてもらえた。

 それが全てだ。

 絶対的な達人の技術と姿勢に触れることができた。

 かけがえのない経験だった。


「お前は一人前だ。お前はもう、一人でやっていける。誰からも教わらず、自分一人で成長できるだけの精神と能力を手に入れた」

「……はい」

「……よく頑張った」


 ダヴィは僕の頭をなでてくれた。

 その手は力強かったが、柔らかかった。普段、ハンマーを振り下ろしているとは思えないほどに。


「胸を張って帰るがいい」

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