労働の話⑭
「はー……、寒いなあ……」
魔剣を打ち始めてから半年が経過した。
来た頃は涼しい場所だったが、最近はもう朝から晩まで「寒い」か「すごく寒い」だ。それでも毎朝リズと一緒に掃除は欠かさない。貯水槽にはった氷を砕いて水をくんで、工房を掃除する。もう、指がかじかんで仕方ない。
でも、最近は少し楽しい。
魔剣を打つことがどういうことなのか、少しずつわかってきたからだ。僕たちが魔剣を打つことに、ダヴィはいまだにいい顔をしていないが、それでもいい。構わない。ただ遺物を叩いて、少しずつ形が変わっていく、強くなっていく、遺物一つ一つそれぞれに違いがある、その感触がある。
それがたまらなく楽しい。
この楽しさをどう例えればいいのかわからない。そもそも僕にはゲーム以外、身体を動かすような趣味がなかった。だから釣りと似ている、とかそういう気の利いたことは言えない。
しいて例えるとなると、うんと子供の頃までさかのぼることになる。粘土や泥で遊んでいるときのような気持ちだろうか。
ハンマーを振るたびに、そんな楽しさを感じている。
一振りごとに、新しい何かをみつけられるような期待をもっている。期待に胸が膨らむ。作っていくうちに理想の魔剣にはならないことが実感できて、絶望していくのだが、次に打つ剣はもっとよくなるという希望も同時に芽生えていく。それが根拠のない自信なんかじゃない、ということもわかっている。自分の中でなにかが育っている、気がする。そんな予感がある。
つまり、とにかく、楽しいのだ。
「グリム、メシだぞ」
「……」
「グリム!」
「んあっ」
リズに耳元で叫ばれて、僕はようやく彼女に気づいた。持っていたハンマーを置く。
「おれたちはメシ食うけど、お前はどうする? 途中か?」
「ううん、僕も行きます。失敗ですから」
「失敗なのか? だったらなんでまだ打ってるんだよ」
「出来の悪い子ほどかわいいっていうでしょ?」
「じゃあ、最後まで面倒見ろよ」
「後で見ます。今は、ご飯の方が大事です」
僕がそういうと、リズは苦笑した。
***
ご飯を食べてから、工房に戻って、また僕は魔剣を打ち続けた。毎日毎日、一心不乱に魔剣を打っている。昨日も今日も明日も、全く同じ。それでいて毎日新しい発見がある。進歩がある。
もちろんシャルロット様のことは忘れていない。
強くならなきゃなあ、とは常々思っている。
でもそれとは関係なく、魔剣づくりは楽しい。
それこそ罪悪感を感じるほどに。
どうしてこんなことになったんだろうなあ、と思うけれど、そんなことはこのハンマーの感触に比べれば些細なことだった。
「早いものだな……」
気づけばダヴィがすぐそばに立って、僕がさっき打った魔剣を手に取っていた。出来の悪いかわいい我が子だ。
「お前がここにきて、半年か」
「正確には、七か月半です」
「……いい出来だ」
「僕としては、不出来です」
「魔剣にとって、一番重要なことはなんだ?」
「……」
僕は少し考えた。
魔剣は、剣であり、魔術をあつかえる武器だ。
だから魔剣にとって重要なのは、刃物としての切れ味だったり、魔術の威力や効率になるだろう。
しかし、それを僕の感覚として、言葉にするなら……。
「純粋さです」
「そうか」
ダヴィは少し笑みを浮かべ、僕の魔剣をそっと置いた。
「ついてこい。話がある」




