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労働の話⑬

「じゃあ、この炉も魔剣アーティファクトってことか、親父!?」

「そうだ。お前、知らなかったのか?」

「知らなかった!」

「そ、そうか……」


 天真爛漫なリズの叫びに、ダヴィはややショックを受けたようだった。


 僕とリズは、早速作った炉で魔剣を鍛えることになった。魔剣を作る工程は、通常の剣を作るのとあまり変わらない。

 通常の剣は、鉄の塊を炉で熱してとにかく叩く。叩いて叩いて、不純物を飛ばして鍛え、冷えてきたら再び熱して、また叩いて鍛え、形を整え、再び熱して鍛え、を繰り返す。鉄を強くしながら、形を整え、少しずつ剣としての完成に近づけていく。


 魔剣の場合は材料と炉が少し違うだけで、行程そのものはほとんど変わらない。鉄のかわりに遺物レリックを熱し、鍛えて鍛えて、形を整えて魔剣にする。

 ただし、炉で燃えているように見えているものは、火ではない。火の魔術というわけでもないらしい。


「遺物を魔力の段階に少しだけ戻す、魔術だ。火に見えるのは、見た目だけだ。粗悪な遺物を昇華もやして、ほぐしの魔術を展開する。そこに遺物をいれることで、魔力に少し戻して鍛えやすくしてるんだ」


 ダヴィは「鍛える」ということをあまり説明しなかった。それはその原理や仕組みについて無知だから、というわけではないと思う。いや、原理とか、科学的・魔術的な理屈は実際知らないかもしれない。

 ただ、「鍛える」ことの実感は持っていると思う。ただ、それについて僕たちに説明したがっていない、ように感じた。


 これはたびたびダヴィに感じた違和感だ。ダヴィは驚くほど言葉を発しない。逆にリズは小鳥の生まれ変わりなのかと思うほどよくしゃべるが……それはまた別の話か。

 とにかくダヴィの口は重い。本当に驚くほどだ。仕事中は終始無言で、食事中もリズが何度も「なんとか言えよ、親父!うまいか!?」とかせっついてようやく「ああ……」とかうめくくらいだ。言葉かどうかも怪しい。それさえせいぜい一日一回だろう。

 仕事については話しはじめると、まあ、それなりに話してくれるが、基本的に自分のことについては話さない。リズが自分のこだわりについて日々いろいろとアピールしてくるのとは対照的だ。

 この家で、誰よりも、抜群に腕があるにもかかわらず、ダヴィは誰よりも無口だった。自分の能力についてひけらかすような雰囲気は、結局僕は後にも先にも一度も見ることがなかった。それどころか、そういう自分の能力の話、感覚の話になると、一層口が重くなるような気配さえ見せた。





 少し時間が前後するのだが、僕はこの家を出ていく時にダヴィに尋ねてみた。「どうして自分の話をしないのか」と。すぐに答えてはくれなかったが、散々粘った結果、返事をもらえた。

 ずばり一言。


「言葉は裏切る」


 意味がわからなかったが、どれだけ質問してもそれ以上の返答はもらえなかった。その言葉の意味も謎のままだ。わからないけれど、ダヴィの言葉が裏切ることは無いと思う。なぜならその意味が僕には理解できなかったから。敵でも味方でもないから、裏切りという概念は成立しない。





 ……まあ、詭弁はおいておいて。

 話を戻そう。

 つまり……、魔剣とはそうやって作るということだ。


「やってみようぜ!」

 リズは期待に目を輝かせて、炉にがんがん遺物をくべている。

「交代で一本ずつ作ろう。おれが最初な。いいよな?」

「いいですよ」


 僕はリズが魔剣を打つのをサポートした。魔術の火にくべるときのハサミであるとか、ハンマーであるとかは必要な時に用意した。リズは汗だくになりながら格闘していた。【火】は、たしかに熱はない。手をかざしても熱くない。しかし、近くにいるといつの間にか熱くなっていて、汗をかいてしまう。ハンマーを打つからではない。僕も汗だくになっているからだ。


「この【火】、なんか怖いな……。なんだこれ」

「遺物を崩壊させて、魔力に還しているみたいですね。そこに崩壊していない遺物を近づけると、流れに乗って魔力に戻ろうとする、って感じでしょうか」

「……なんだって?」

「この炉、よくできてるなあ」


 僕はつくづく感心した。炉の構造とこめられた魔術に、途方もない工夫を感じたからだ。この炉は僕とリズがわちゃわちゃ作ったものだが、形になったのはダヴィのおかげだ。

 魔力の崩壊速度と規模をコントロールするために、ダヴィが乗り越えてきた苦労がみえるようだ。


 リズの最初の一本は「失敗したああああ!」だった。

 もちろん、僕も失敗した。

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