労働の話⑪
その日の夕食は、いつもの静かな夕食とは、どこか別の種類の空気の重さがあった。いつもなら、最低でも一言二言の会話くらいはあるのだが、今日はそれすら無かった。
ただ重くはあったのだが、リズもダヴィもちゃんと席について食事をしていた。
「リズ、少し残れ」
食事を終えて、お皿を洗っていると、ダヴィが言った。
リズは顔を上げずに返事した。
「……何の用、親父?」
「いいから残れ」
「わかった」
「それと、グリム、お前は寝ろ」
「あ、あの、僕も残ろうかと……」
なんだか不安だ。二人だけにするとケンカになるかもしれないし……。それにダヴィを焚きつけたのは僕だ。ちょっと責任も感じる。だから―――。
「いいから、寝ろ」
ダヴィは鬼のような形相で僕をにらんだ。僕は気づけば首を縦に振っていた。
「はい、寝ます!」
「うむ」
ダヴィは重々しくうなずいた。
***
ダヴィに寝るよう命令されたものの、気になるものは気になる。僕は屋根裏部屋からこっそりと階段の上まで這い出て、二人の会話を盗み聞きすることにした。
あくまで見守るためだ。興味本位ではない。決して。
「……話ってなんだよ、親父」
リズはイライラした口調で言った。
「ちゃんと仕事しろって説教する気か」
「いや、今日は休みにした。だからいい」
「……」
「お前は……、俺の跡を継ぐつもりなのか」
「なんでそんなこと聞く? おれには才能がないって前に言ってたじゃないか」
「言った覚えはない」
「あるよ! 半年くらい前に言ってた!」
「……あったとして……、いや、今は忘れろ。俺は忘れてるからな」
「めちゃくちゃだぜ、それ……」
「それで、どうだ。お前は本気で職人を目指しているのか」
「……」
リズはそれまで、やや斜に構えて座っていたが、椅子の向きを正して、ダヴィに向き合った。
「ああ。おれは職人になる。親父を超える、立派な魔剣鍛冶師になってみせる」
「そうか」
ダヴィは無表情、無感情な声色でうなずいた。
「わかった」
「……え? それだけ? わかった、って、そんだけ? もっと他になんかないわけ? がんばれ、とか、才能がある、とか。わざわざ聞いといて、それだけなのか?」
「ああ」
ダヴィはもう一度うなずいた。
「それだけだ」
「えー……。なんだよ、それ。なんだろう、あれだ。暖簾に腕枕、だっけ?」
「違うんじゃないか? 糠に金棒だろ」
「絶対にちがう。金棒なんかいれたら糠がなくなるだろ」
「そうか……」
ダヴィは苦笑して、立ち上がった。
「ま、そういうわけだ。明日からもよろしく頼む」
「どういうわけだよ。おれは全然納得してないんだけど……」
「俺は納得した」
「親父には、かなわねえよ」
リズは頭をかいて立ち上がり、ダヴィと握手した。
「まあ……、仕事はするよ。親父を超えなきゃだからな」
「お前には百年早いぞ」
「言ってろ!」
……どうやら大丈夫そうだ。これ以上は見なくていいな。
そう思って部屋に戻ろうとした矢先、
「ところでさっきから、グリムはそこで何をしている?」
とダヴィに呼び止められた。
いつから気づかれてたんだ。
固まっていると、リズのどたどたとした足音が聞こえて、「あっ、本当にいやがる!」と怒ったような声が聞こえた。
「あっ……、あはは……、えーと……、ごめんなさい……」
この後二人にこってりとしぼられたことは、言うまでもない。




