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卑劣 〜雷神(ゼウス)vs戦闘神(ニヌルタ)〜

粉砕する雷槌(ミョルニル)が完全に防御され、呆然とする雷音に後ろから容赦無く勝利の剣が襲い掛かる。一瞬のスキを狙われ雷音の左肩に突き刺さってしまう。


「うがあぁぁ!?」


「なぁに呆けっとしてんだよ。この雑魚がよぉ!」



突き刺さった剣を慌てて抜くが雷音の肩からは決して少なくはない量の血が流れ始める。



「はぁ……はぁ……強い……」


「あ?ゴミの分際で俺様のことを弱いなんて思っていたのか?舐めてんのか?」



事実、雷音は三ヶ月前にウォード達に絡まれた時に闘ったウォードの強さを想定していた。

本気を出していないにしろ、そこまで大きな振り幅は無いだろうと勝手に想定してしまった。



更に雷音は神装を纏い、境界にて御伽の連中との闘いで力を付けた。自信を付けたが故にこれならば本気のウォードとも互角以上に戦えると思ってしまっていたのだ。こればかりは雷音の落ち度であった。

だがしかしまだ手札が無いわけではない。



「まだまだ……雷よ我が翼と化せ! 雷光蒼天翔!!」



蒼い雷撃が雷音の身体を包む様に覆っていく。これはAクラスの狼王(フェンリル)のルーフェとの闘いの時に披露した雷音の新たな技であり身体能力を著しく上げる。




「ハッ、雑魚の分際で出し惜しみしてんじゃねぇよ。舐めやがって。オラかかってこい」



先程よりもずっと速くウォードの間合いに踏み込んでいく雷音は拳撃を繰り出していく。その拳は雷を纏い強度も速さも、更には雷を纏うことにより相手を痺れさせる効果もある。

しかしウォードはそれを躱し更には盾でガードしても感電する素振りさえも見えなかった。


「そんなもんか?そんなもんかテメェの実力は?ギャハハハ!弱っちぃなぁ!」

「舐っっっめるなぁぁ!」

「なっ!?」


雷音はまだ力を抑えていた。油断したところにフェイントを混ぜウォードの背後に一瞬で移動する。そして拳に力を込めた。


「喰らえぇぇ!雷光閃烈拳!!」


雷を纏った稲妻の如き拳がウォードの背後から襲い掛かる。ガードしようと盾を持ちながら振り向こうとしたが間に合わず雷音の拳はウォードの鳩尾を貫く。


「ぐがっ!?……んだとこの雑魚がぁ!?」


今日初めて見せたウォードの歪んだ表情に雷音はこれを好機と捉え雷光閃烈拳を更に叩き込む。


「もっとだ!もっとやっちまぇ雷音!」


応援をするシュウ達にも熱が入る。劣勢だった雷音に訪れた初の好機だったからだ。


何発叩き込んだのだろうか、雷音は力の限り拳をを打ち込んだ。



「っらあぁぁぁ!」


渾身の一撃を叩き込むと同時に雷音を覆っていた雷は消えてしまった。

雷光蒼天翔は一時的に肉体を強化する代わりに一定時間が経つと身体の自由が効かなくなるという欠点がある。

これでウォードにトドメを刺せなければ逆に危うくなる。


空気をも焼く拳が武舞台に粉塵を巻き起こしウォードの様子は全く見えていない。



そしてその粉塵が完全に消えた後には……立ち上がるウォードの姿が見えた。


「ぐぅ……コイツは俺の計算外だったぜぇ?テメェの拳がここまで効くたぁ思っていなかった」



ゆっくりと立ち上がるウォードだが、再び口角を上げて雷音を見た。



「その様子を見るにテメェのさっきの技は身体に代償を払うみてぇだなぁ?残念だったなぁ倒せなくてよ。千載一遇のチャンスってやつを逃しちまったぞ、おい?」


雷音は片膝をついて、ダメージを与えたはずのウォードを逆に見上げる形になってしまった。

息も切らし、その表情も辛そうだ。




「だけど手応えはあった……お前だって相応のダメージは受けているはずだ」 


「まぁな、そこは否定しねぇ。戻れ正義の剣」



宙を漂う正義の剣はウォードの合図とともに動きを止め今の主であるウォードの元へ還っていった。



「仕方ねぇな、小細工はお終いだぁ。正々堂々実力で白黒(ケリ)付けようぜぇ?」


「望むところだ!行くぞウォード!」



上手く身体が動かなくても、震える足を無理矢理押さえつけながら前へと飛び出す雷音。

ウォードに拳を叩き込みにいく雷音に対しウォードは片手で構えた盾でそれを防ぐと、雷音に顔を近づけた。



「おい、俺の後ろのずっと先の二階席をよく見てみろ」



小さく小さく囁くウォードの声。攻撃する素振りもないウォードの罠かと思いつつも雷音は遥か後方の二階席の壁際を注視してしまう。

何故ならそこには以前雷音を虐げていた連中に囲まれている妹の繭がそこにいたからである。



「まっ………っ!」


「デカイ声出すんじゃねぇよ。お前の妹が恥ずかしい目に遭っちまうぜぇ?」



獲物を品定めするように、舌なめずりをするウォードに雷音は怒りをぶつけようとするが雷音は必死に抑えた。


ウォードが取った手は雷音の唯一無二の家族である繭を人質に取ったことだった。



「まったく俺様の優しい奴隷どもが勝手なことをしたみたいだなぁ」


「お前……っ!」


「おっと勝手に動くなよ。テメェはここから俺のサンドバッグだ。抵抗したら……わかってんだろうな」



雷音の顔面にウォードの拳が叩き込まれた。

雷音の視界には囚われた繭が見えるが、ご丁寧な囲まれて上手く周りの生徒には見えないようになっていた。



「ぐっ……なんでここまでするんだ?」


「決まってんだろ。テメェが気に入らねぇからだよ。ガキの頃から気に入らなかった。家が没落しても諦めねぇで生きてやがる。そんな奴は徹底的に潰してやるのが筋だろうが」



その血走った目はもはや狂気そのものであり、ウォードという人間の執着を表すようだった。



「狂ってる……そんなことで人質まで取るなんて」

「褒め言葉だねぇ。だが俺様には()()()()()()大事なんだよ。

そんな訳でテメェは今から一切の抵抗は許されない。ボロボロになって死ねや」



ウォードは手に持つ盾を投げ捨てゆっくりと雷音に殴りかかる。ガードしようとした矢先ウォードがそっと囁く。


「抵抗するなら妹は無事じゃあ済まねぇぜ」



その言葉に雷音の動きは止まり、周りからは為す術もなく殴られた様に見えるのだった。

更にウォードは手を止めること無く無抵抗の雷音を殴り飛ばす。



「何やってんだよ雷音!なんでそんなの喰らっちまうんだよ!」


「雷音殿は身体能力を上げる技を使っていたでござる……だがあれは諸刃の剣とも言える。もしかするとそのせいで身体が動かせぬのかもしれぬ」


「いや、それにしたっておかしいよ。避ける素振りもない。彼の目はずっと前を向いて――」



雷音の目線のずっと先――魔眼を持つネイルが持つ常人を超えた視力で見える先には猿轡をされ男共に拘束されている少女の姿が見えた。



「成る程ね。どこまでも腐った奴だよ」



隣の空いた椅子を拳で叩きつけるネイルに対して、シュウとリン、更に反対にいるルナとキールが目を点にしてネイルを見ていた。

普段温厚な彼がこんなにも感情を露わにすることは滅多にないからだ。


「ど、どうしたのでござるネイル?」

「そうだぜネイル、びっくりしたじゃねぇか」

「二人共……雷音は人質を取られている」

「人質!?どこにいるんだ!?」

「あそこだよ。壁際に男数人と女の子がいるだろう?」

「何もねぇぞ?」

「某にも見えぬが……」


ネイルの指差す方に居るらしいのだがミンとシュウにはわからないという。しかしネイルが女子の特徴を伝えるとシュウは雷音の妹だとわかる。


「繭ちゃんか。てかなんでネイルだけ見えるんだ?」

「恐らくこの魔眼のおかげだね。神力(ルミナス)も感知しやすいから見えるんだろう」

「出鱈目な眼ぇしてんなぁ。まぁいいや、さっさと助けに行こうぜ」

「……どうやって助ける?ルールでは試合中にここから選手が抜けるのは禁じられている。……いかなる場合においても、だ」


選手達は試合の舞台である舞台とその控えの場所から試合が終わるまで出るのは禁じられている。出た時点で試合は終了し反則負けとなる。

これは不正が行われない為と決闘の最中に逃げ出すと捉えかねない行為だからだ。

その為に両クラスともに身体には異常は無いが気絶した者を外に運べないのだ。


「じゃあどうすんだよ!ここからじゃ何も出来ないだろ。俺が先生達に言ってやるよ」

「いや、待てシュウ殿。それを伝えて彼女を解放させるまでの間に何をするかはわからぬ。下手に刺激を与えれば妹殿が」

「だからって……どうすんだよこのままじゃ雷音も繭ちゃんも」

「一つだけ方法はある。だけどそれは()()()の不利に繋がることだ。だけど今はそれに賭けるしかないね。」


そう、この場所から確実に繭を拉致している者達を寸分違わず射抜ける者が一人だけいたのだ。

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