解説者4
「ねえ、育ててもらっておいて、なんであいつは別のチームに移ったわけ? そういうの、恩知らずって言うんじゃないの? あ。言うんじゃなかった、です……っけ?」
見たところ、健太と猿渡はひんぱんに声を掛け合っていて、ふたりの間に確執があるとは到底おもえなかった。
それで、なぜ、あえてライバルチームなどに行く必要があるのだろう。
男性が、ふむ、と腕を組んだ。
「打倒健太に燃えておる怜司から口説かれたようだが、よくは分からん。まあ、健太の元に望がおっては、怜司に勝ち目がなかったのはたしかだな。望を横取りされた恨みが健太の側にもあるんで、毎回、黒と赤の対決は白熱するんだ。もしかしたら、望はそういう盛り上がりを狙ったのかもしれんがな」
翔は、豚汁を飲み干し、お椀を下ろす。
「──あいつ、どのくらいすごいの? 強豪校のセレクションに受かるくらい? プロの下部組織でも入れるくらいかな? それとも、U-16代表にだって入れちゃうレベル?」
腕を組んだまま、男性はさあな、と笑った。
「事実は、そのいずれでもない、ということだけだ。才能があっても、監督の言うことを聞かないやつは試合に出してはもらえんだろう。上にいるやつは大概すごいが、すごいやつがみな上に行けるとは限らないのよ、坊主」
分かるような分からないような気分で、翔はあいまいにうなずいておく。
「まあ、あれにその気があれば、どこででもやれるだろうて。現に、望は六チームのすべてに混ざって、さまざまなレベルの大人たちとプレーしておるし、ポジションもキーパー以外はどこでもこなしよるからな」
実はキーパーもこなすとは、どうやら彼は知らないようだ。
翔はゲームを見ていて、ひとつ気づいた。
おそらく、猿渡が球技大会の前半に見せたゴールから飛び出すスタイルは、黄色チームの長身キーパーをお手本にしていたにちがいない、と。
蹴られる危険を省みずにシュートをブロックに行くところなど、そっくりだとおもう。
「あの、黄色のキーパーのひとって、何者なの……デスか?」
「ありゃ、ただの素人だぞ」
えっ、と翔は男性の顔を仰いだ。
「留学生たちを連れてきてプレーさせておるだけだ。キーパーがいなけりゃゲームにならないからあいつがやっておるが、ルールを知っているかもあやしいもんだ」
でも一応、ペナルティエリアを出たらキーパーだろうと手でボールに触れてはならないことぐらいは知っているらしい。
長い足で幾度もボールを弾き返し、猿渡のシュートチャンスをことごとく潰している様は、実にみごとだ。
「ただ、タロウは武道をやっておってな。ボールや接触を恐れず飛び出してくるんで、相手のフォワードにはやっかいなキーパーだろう。望も、タロウからゴールを奪うのにはいつも苦労しておる」
だからこそ、翔を抑えるのにも有効だと踏んだのだろうか。
だとすると、あのいまいましいだけだった前に出るキーパーっぷりも、どことなくほほえましくおもえないではない。
ほら、と男性が指を差す。
「ああして、ゴールを背にしてボールを受ければいいんだが、スピードにのったプレーが得意な望は、動きを止めてボールを受けるということがいまひとつ苦手なんだ。それで、ミドルシュートを狙ったりもしているがの。撃つと分かっていれば相手も撃たせまいとする」
自分なら、そこでキックフェイントを使うな、と翔はおもった。
まるで心を読んだように、男性がにんまりとほほえむ。
「そうやってな、互いに出方を窺い、対策を講じ、観客もその駆け引きを味わうのが、ここでのフットボールの楽しみ方というわけだ」
男性は、翔の肩をポン、と叩いた。
「まあ、楽しんで行くんだな。自分でもプレーしたくなったら、裏に降りて行くといい」




