4話 いざ実践!
三日後。
ロシェはリーチェスタン商会近くの大広場に立っていた。
毎月二回、リーチェスタン商会は卸先の商店を集め、仕入れた商品の説明などを行っている。
その説明をバーテルが担当していると、以前父から聞いた。
その説明会が開かれるのが今日だ。
会場に向かう途中、バーテルはこの広場を通るはず。
だからここで待っていれば会えるに違いないと、ロシェは考えている。
(まだかなまだかな)
そわそわしながら、辺りをきょろきょろ。
「わっ!」
すると思惑通り、バーテルが広場に現れた。
こちらに向かって歩いてくる。
(や、やるぞ!)
大きく深呼吸して、胸のドキドキを落ち着かせると、バーテルに向かって歩いていく。
20メートル、15メートル、10メートル。
どんどん距離が近付いていき、残り5メートルになったところで、ロシェは地面をチェック。
すぐ先に小さな段差があった。
(よし)
気合いを入れ、いざ実践。
家でしたように、段差に足をかけると全体重を乗せる。
重心が傾き、身体が前に倒れていく。
それに逆らわず待つこと0.4秒。
地面への激突を避けるためにもう片方の足を出そうとした瞬間、肩を掴まれたような感覚。
さらに下から上へと流れていた景色が止まった。
「え?」
一体何が起きたのか。
不思議に思いながら顔を上げると、目の前にバーテルの顔があった。
ロシェはぱちぱちと目を瞬く。
「あ、あわわわ……」
バーテルが自分を支えてくれたのだろう。
状況を理解した瞬間、ロシェは一気に顔を赤くした。
「大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい! あ、ありがとうごりゃあす!」
しどろもどろになりながらもなんとか答えると、バーテルはロシェを立たせ、
「気をつけろよ」
そう言い残して去っていく。
その背中をずっと目で追い、やがて姿が見えなくなったところで。
「きゃーーー!!」
バーテル様が助けてくれた!
バーテル様のお顔をあんなにも近くで見られた!
バーテル様に触ってもらえた!
すごくいい匂いだった!
喜びがあふれて止まらない。
それを表現するように、ロシェはぴょんぴょん跳ねる。
周囲から寄せられる視線もお構いなしだ。
そんな幸せ真っ只中のロシェだが、肝心なことを思い出してはっとした。
「バーテル様、笑ってなかった……」
目の前で転んでみせたにもかかわらず、先日見たカップルの男性のような笑みは引き出せなかった。
つまりは失敗ということだ。
「ああぁぁ〜」
ロシェは萎れるようにその場でへたり込む。
先ほどまでの喜びはどこへやら、その表情は絶望にまみれていた。
(何がダメだったんだろ……)
転び方は完璧だった。
その証拠にバーテルは助けてくれた。
わざと転んだことに気付いていたなら、わざわざ助けたりしないだろう。
それなのになぜ。
ロシェは必死に考えるが、理由はわからず。
はぁ、と大きく息を吐いて項垂れる。
しかし、五分もするとロシェは顔を上げ、首を左右にぶんぶんと振った。
まるで頭の中から、何かを追い出すように。
そして立ち上がると、胸の前で両手を握る。
「よし! 別の方法を考えよう!」
ロシェは気合いを新たにするのだった。




