2話 自分なりの方法で
さて、男性はどういった女性を「おもしれー女」と感じるのか。
その分析のため、ロシェはもう一度漫画を読んでいた。
「ふむふむ。なるほど」
結果、その漫画では二つのパターンにわけることができた。
一つは、かなりのナルシストで実際に女性からモテモテなヒーローに対し、そのルックスになびかず冷たく接するというパターン。
『このオレに惚れねえ女なんてはじめてだ! おもしれえ!』となってるらしい。
そしてもう一つは地位が高く、なおかつクールな性格のヒーローに対し、対等に接するというパターン。
畏れから距離を取る者が多い中、その女性だけは臆することなく、グイグイと接してくる。
他の女性と全然違う。それが「おもしろい」となっているようだ。
バーテルは大商会の次期当主。偉い立場にあり、しかも、性格もクール。
後者のヒーロー像は、まさにバーテルそのものだった。
つまり漫画の通りなら、バーテルの攻略法は臆することなくグイグイ接すること。
そうすればおもしれー女と思われ、好意を持ってもらえるはずだ。
だが――。
「うーん……」
ロシェは腕を組み、唸る。
立場を気にせずグイグイ迫る。
自分の感覚ではそれは失礼なことだ。
マイナスな印象を与えてしまうように思え、上手くいく未来が見えなかった。
「でも男の人は違うかも」
女性と男性の感覚は違う。
自分は失礼だと思ったが、男性からしてみればむしろそれがいいのかもしれない。
「お父さんに聞いてみよ」
男心のことは男に聞くのが一番だ。
というわけで、ロシェは部屋を出ると父がいるリビングへ。
「お父さーん!」
「ん、どうした?」
新聞を読んでいた父が顔を上げ、不思議そうにこちらを向く。
「あのね、もしもの話なんだけど、お父さんがすっごく偉い立場の人だったとして、下の立場の女の人が気軽な感じで話しかけてきたらどう思う? 今わたしがお父さんに話しかけてるみたいな感じで」
「はぁ? なんだ急に」
「いいから教えて! 男としてどう思う?」
「……うーん」
父は腕を組み、考える。
突然、訳のわからないことを言われたというのに、真剣に考えてあげるあたり、いい父親である。
「勇気というか、度胸があると感じるかな。いい意味でも、悪い意味でも」
「この女の人面白いなとは思わない?」
「いや、思わんが……なんなんだ、本当」
父は訝しむように目を細める。
それからすぐに、何かに気付いたかのように顔をはっとさせた。
「立場が偉い男……お前、まさかバーテル様に何か変なことしようと考えてるんじゃないだろうな!?」
ロシェがバーテルに恋心を抱いたのはまだほんの幼い頃。
よく『バーテル様と結婚する!』などと口にしては、両親を困らせていた。
10を超えたあたりで、恥じらいというものを身につけてからはそういったことはなくなったが、話す時の態度や視線などから、恋心が変わらず健在であることは知られていたのだろう。
今回もズバリ見透かされてしまった。
「えっ。あ、あー、そ、そんなことないよ?」
ロシェは顔を逸らす。彼女は嘘が下手くそだった。
そんなロシェを見て、父はこれ見よがしに大きく溜め息を吐く。
そしてロシェの両肩を掴み、自分のほうに向き直らせると真剣な顔で言った。
「うちみたいな小さな店、バーテル様の匙加減でどうとでもなるんだ。だから、バーテル様の機嫌を損なうようなことは絶対にするんじゃない。……わかったな?」
「う、うん」
「絶対だぞ」
「わかってるって!」
ロシェはそう言い残して、逃げるようにリビングを出た。
自分の部屋に戻ったロシェはガクンと肩を落とした。
「やっぱりグイグイ行くのはダメかぁ」
漫画を手に取ると、パラパラめくっていく。
「でも他のパターンないし……」
むむむ、とロシェは考える。
おもしれー女を目指すのを諦めるという考えは毛頭なかった。
そしてうーん、うーんと唸りながら必死に頭を働かせ。
やがてピンときた。
「別に方法はなんでもいいじゃん」
ロシェの目標はおもしれー女になることで、バーテルの関心を引くこと。
そのための方法はなんだっていい。
別に漫画のパターンをなぞる必要はないのだ。
――であれば。
「よし!」
ロシェは自分なりの方法でおもしれー女を目指すことにするのだった。




