1話 目指せ、おもしれー女!
「はい、確かに受け取りました」
「じゃ、お願いします!」
受付のお姉さんに、少女が元気に言う。
少女の名はロシェ・トラナッテ。先日16歳になったばかりだ。
肩下まで伸ばした髪は栗色。くるんと内向きに曲がった毛先がおしゃれポイントである。
ぱっちりとした大きな目に灯るのは、母親譲りの琥珀色の瞳。鼻筋も通っており、顔の造形は整っているが、まだまだあどけなさが残る。
背は平均よりもちょっと小さめ。
ちょこまかとしているからか、周りからはよく『小動物っぽい』『リスみたい』なんて言われている。
実家は小さな商店を営んでおり、ロシェはそこの看板娘(自称)。
今日は父のお使いで、取引先である大商会――リーチェスタン商会に書類を出しに来ており、ちょうど今、その重大任務を終えたところだ。
さて帰ろう、とロシェは振り返り、入り口に向かっていく。
――キィー。
目の前で入り口の扉が開かれた。
もしかしてわたしのために? なんて思うロシェだが、当然そんなはずもなく、外から人が入ってきた。
(わっ!!)
ロシェの視界に飛び込んできたのは、黒い髪の青年。
肩ほどまで伸びた髪はしっかりと手入れされており、サラサラ。
突き刺すような鋭い目に宿るのは、髪と同じ漆黒の瞳。
くっきりとした目鼻立ちをしており、一言で表せば美形の男性だ。
リーチェスタン商会当主の息子にして次期当主――バーテル・リーチェスタンである。
多くの女性たちの憧れであり、ロシェもまたその一人だった。
想い人の登場に、「わぁ」と顔を明るくさせるロシェの心臓はドキドキ。
しかし、バーテルはそんなロシェに目もくれず、付き人と一緒に隣を通り過ぎると、そのまま奥へと消えていった。
バーテルとは何度も顔を合わせたことがあり、業務的な内容ではあるが話したことだって何度かある。
だが、今の反応を見ると、やはり認識はされていないようだ。
(まあ、そうだよね)
自分は数多ある取引先の、それも取引量もさほど多くない小さな店の娘。
そりゃあ、記憶に残っているわけがない。
頭ではそう思っていても、心は正直なもの。自然と溜め息が出た。
「帰ろ……」
バーテルと会えたことに、テンションが上がったのも束の間。
ロシェはしゅんとしながら帰路についた。
お店に戻ったロシェは看板娘として、閉店まで精一杯働き。
店を閉め、両親と夕飯をとり、入浴も済ませたロシェは、窓から夜の空を眺めていた。
「はーあ」
夕方のバーテルのことを思い出して、おセンチな気分なのだ。
バーテルは大商会の次期当主。対して、自分は小さな商店の一人娘。
まったく釣り合っておらず、結ばれることなどあり得ない。
自分でも重々理解しているが、それでも夢は見ちゃうもの。だって女の子だもの。
だから夕方のは中々堪えた。
その恋が成就することはないと、現実を突きつけられたようで。
「はぁ……」
もう一度大きな溜め息を吐いたところで、
――キラン。
と、空の一部が光った。
「流れ星だ!」
『流れ星が消える前に願い事を三回唱えると叶う』
どこの誰が言い出したのか、まったく根拠のないただの言い伝えだ。
ロシェもかつては『そんなわけないじゃん!』と笑っていたが、今や縋るように願い事をする。
「バーテル様とお近づきになれますように、バーテル様とお近づきになれますように、バーテル様とお近づきになれますようにっ!」
目を開けると、まだ流れ星の軌跡があった。
「やった! 言えた! 女神様、お願いしますね!」
消える前に言い切ることができてとってもいい気分。
ふふっと微笑んでいると、
――ゴッ!
「ぐぎゅ!」
頭に硬い何かが当たった。
「痛っ! え、なっ、なに!?」
ロシェは頭を押さえながら周りを見回す。
ほどなく、足元に見覚えのない物を見つけた。
「本……?」
手に取って確かめてみる。
「『おもしれー女総集編! 愛されヒロイン大集合!』……読めた」
今までに見たことのない文字。
なのに、なぜだか意味を理解することができた。
「それにすっごく綺麗な絵……」
表紙に描かれているのは、可愛い女の子が男の人に抱きかかえられているイラスト。
ロシェは目を奪われた。
こんなにも美麗な絵はこれまでに見たことがない。
一体これはなんなのか。
ロシェは不思議に思いながら、ページをめくった。
「はわぁ……」
読み終えたロシェは愛おしそうに本を胸に抱いた。
本は漫画で、複数の短編が収録されたアンソロジーコミックだった。
タイトルの通り、おもしれー女を題材にしたアンソロジーで、ヒロインやヒーローの見た目や性格、肩書きなどのプロフィールはバラエティ豊か。
しかし、どの作品もヒーローがヒロインに「おもしれー女だ」と言い、そこから恋がスタートするという点だけは共通していた。
「よかったぁ……」
どのお話もとても素敵だった。
今も胸がきゅんきゅんしている。
その上、この漫画にはとても重要な学びがあった。
世の男性は「おもしれー女」が好きなのだということだ。
それこそ、身分の壁を越え、時には平民が王族に見初められることがあるほどに。
「わたしもおもしれー女になれば、バーテル様に……!」
この本はきっと女神様からの贈り物だ。
先ほどの願い事を聞いて、『これを読んで頑張りなさい』とこの恋の指南書を与えてくれたのだ。
見知らぬ文字を読むことができたのも、女神様のおかげなのだろう。
そう信じて疑わないロシェは夜空を見上げる。
「女神様、ありがとうございます。バーテル様を振り向かせるためにわたし、頑張っておもしれー女になります!」
ロシェは胸の前で両手を握ると、ふんすと気合いを入れた。
新作をはじめました!
応援のほど、何卒よろしくお願いいたします!




