第八話:新たな出会い
療養期間を終えて、
柚祈の動きは、指導官たちが目を見張るほどに研ぎ澄まされていた。
シミュレーション訓練の合間。
一人の少女が、柚祈の隣に歩み寄る。
「ね、さっきの動き、どうやるの?」
「……あ、私、一禾。身体系だからさ、反動強いの分かるんだけど、なんで、そんなに倒れないの?」
柚祈は、少しだけ視線を上げた。
「……? 見えたから、動いただけ。反動は……抜けるところが、あるから」
一禾は一瞬きょとんとして、それから、からりと笑った。
「……なるほどね? 感覚派だった……名前は? 何歳?」
「……柚祈。十六」
「え、うそ! 同い年?!嬉しい! 同い年の子、初めて!」
一禾の言葉は、息継ぎをする間もなく続いた。
柚祈にとっては、慣れない温度。
けれど、不思議と不快ではない。
一禾とそのガイドである海は、訓練場でもよく喋り、笑い、ぶつかり合う、賑やかなペアだった。
遠くから、悠人がその様子を見つめている。
表情は読めず、ただ静かに、
二人の少女の境界線を見極めるように。
その日の夜。
夕食のテーブルで、悠人がふと口を開いた。
「今日、話しかけられてたね。なんの話をしてたの?」
問い詰める響きはない。
ただ、今日あった出来事を確認するだけ。
穏やかな、日常のトーンで。
「……名前とか?同い年、だって」
「そう。友達ができて良かったね」
「……そんなんじゃないと思う。ただ、話しただけ」
柚祈にとって、友達という言葉は、あのとき一緒に捨てたものの中にあった。
「そっか」
悠人は深く追及せず、それ以上はその話題に触れなかった。
それからも。
訓練のたびに、一禾は柚祈を見つけて駆け寄ってきた。
最初は、挨拶程度。
やがて、訓練後にお疲れ様と言い合うようになり。
ついには、SNSの連絡先を交換するまでになった。
連絡先を交換した後のとある夜。
ベッドに入った柚祈は自分のスマートフォンを開いた。
一禾から、短いメッセージが届いている。
『明日も同じ訓練だね! がんばろうね!』
柚祈はしばらく、画面を見つめ。
指を動かした。
『うん。』
それだけの、短すぎる返信。
けれど、一禾からはすぐに「!」のついたスタンプが返ってくる。
柚祈は、スマートフォンを伏せ、目を閉じた。
部屋の中は、完璧な静寂。
けれど、壁一枚向こうには、悠人の気配がある。
その存在を感じられる当たり前のこの部屋は、柚祈を、深い眠りへと誘っていった。




