幕間:海〜輪郭のない影〜
一禾は、相変わらず騒がしい。
声も大きいし、落ち着きもないが、俺たちの仲は良好だと思っている。
まぁ、少し賑やかすぎるくらいが、俺としてはやりやすい。
そんな一禾に最近初めてセンチネルの友達ができた。
感覚派に見えて、その実、意外と論理的なところがある一禾と。
論理派に見えて、本質的には感覚で生きているような、あの彼女。
正反対の二人なのに、妙に息が合うのだから不思議なものだ。
しかし、困るのは、その彼女のガイドだ。
一言で言えば、ひどく面倒くさい奴。
できればあまり関わりたくないのだが、一禾が彼女と仲良くしている以上、顔を合わせる機会はどうしても増える。
決して嫌いなわけじゃない。ただ、どうしても「分からない」んだ。
これまで何度も話し、同じ空間で過ごしてきた。
それなのに、あいつの輪郭がいまだに少しも掴めていない。
霧の中に立っているような、あるいは底の知れない暗い穴を覗き込んでいるような、得体の知れない恐怖が常にこびり付いている。
そんなある日、訓練の終わりに、一禾と一緒に彼女がやってきた。
どうやら、ピアスが変わったらしい。
彼女の眼と同じ色の宝石が入った、深い紅のピアス。
石の価値は詳しくは分からないが、それが到底、軍の支給品には見えないほど高いことくらいは分かる。
ふと横を見ると、一禾が奇妙な動きをしていた。
彼女の耳元と、あいつのガイド。その二点を目まぐるしく見比べている。
一禾は直感だけはすごいから、何かに気づいてしまったんだろう。
部屋に戻りながら、その「中身」を教えてもらった。
……想像以上だった。聞かなきゃよかった。
夕食の時、一禾は彼女と交わした会話についても教えてくれた。
もう、あの二人の関係性を深掘りするのはやめることにしたらしい。
外から何を言ったところで、あの領域には触れられないと悟ったのだろう。
けれど、一禾は最後にこう言った。
彼女がもし望むなら、その時はいつでも助けるつもりだ、と。
……うちのセンチネルは、なんて強くて、お節介な奴なんだろう。
誇らしいと思うと同時に、鼻の奥が少しだけ熱くなった。
この眩しさが、あの得体の知れない影に飲み込まれてしまわないように。
この子だけは、俺が何としても守らなきゃならない。
それだけは譲れない。




