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超を付けてもただの水!?

「いっしょに食べよう」


あのすべての始まりの日――右も左も分からない神々の領域で、かえでに小さな手を引かれて門をくぐった。あの時とは真逆に今度はジェイが、かえでの手をぐいと引っ張って同じ食卓に就かせた。

子どものころに好きだった素朴なメニューが並び、それを二人で一緒に頬張ると、どこか懐かしい温かさが胸に広がる。


食卓は「おいしいね」「うん!」という幸せな言葉で満たされた。


お腹がいっぱいになると、今度は二人揃って「ふわぁ」と大きな欠伸が止まらなくなる。

そのまま二人暖かな草原に丸まり、重なるようにしてすやすやと寝息を立て始めた。


それからしばらくして、ジェイが先に目を覚ます。

――隣にかえでがいることに安心したのか、彼はまた心地よい眠りへと沈んでいく。



「ちょっと! いつまで寝てるの、そろそろ起きなさいよ」

かえでがまだ夢の中にいるジェイの肩をぐいぐいとゆすり起こした。


「ほら、お寝坊マスター! ダンジョンポイントを見てみなさい。今度こそ、私の言った通り絶対に大量に増えているはずだから!」


かえではふさふさの赤い尻尾をパタパタと誇らしげに揺らし、これ以上ないほどのドヤ顔で胸を張る。


あの大盤振る舞いでポイントを完全にゼロに使い切った日から数日。「ジェイが一度眠りに落ちると、進んだ時間に応じたダンジョンポイントが増える」という奇妙な法則に、かえではいち早く気づいていた。昨日も一昨日も、ジェイがひと眠りするたびにポイントが微増していたのだ。


今日は確証を得るために、あえてのんびりと眠って過ごしてみたその答え合わせの瞬間だった。


「いまのダンジョンポイント、いくつ?」


ジェイがまだ眠そうに目をこすりながら、寝ぼけ眼で門を見上げる。

主の問いかけに応じるように、門の上空へ鮮やかな炎の文字がゆらりと浮かび上がった。


『現在のダンジョンポイントは71です』


「おおおっ!」

「これ、ものすごぉーく順調よ、ジェイ!」


二人は顔を見合わせ、喜びを爆発させた。

今までの微増とはワケが違う、見たこともない「71」という急増っぷりだ。検証は大成功だった。


特にかえでは、まるでもう願いが叶ったかのように嬉しそうだ。


「ほら見なさい! 私の読み通りじゃない!」と、まだ眠そうに目をこするジェイの肩を揺らしながら、子供のようにはしゃいでいる。


「さっそく、ダンジョンらしく魔物の召喚なんてどうかしら?」


かえでが胸を張って強気にツンと主張する。


かえでの提案はもっともだったが、ジェイの反応は鈍い。

ダンジョンポイントを管理して、ただ効率的に魔物を並べるだけの「運営」には、あまり面白味を感じていないみたいだ。


「えー。そんなの面白くないよ。それなら……スライムとか作りたいな」


ジェイがわかりやすくむくれて声をあげる。


「それは無理よ。この『暁の地溝』の門から召喚できるのは、虫か獣人に属する魔物だけなんだから」


かえでは呆れたように首を振る。


「それに、スライムなんて何の役にも立たないんだから。そんなのにポイントを使うなんて、もったいないわ」

かえでは腰に手を当て、小さな人差し指をチッチッと振って見せた。


「でも、()()()()()()()()()


「面白ければいいってわけじゃないの! 冒険者にとって『魅力的な報酬』か、命を脅かす『毒』にならないと意味がないんだから」


二人の議論は平行線だった。

ジェイは「スライム」という響きにどこかゲーム的なロマンを感じているようだが、かえではどこまでも現実的だ。


「う〜ん。やっぱりスライムがいいよ」

「だから、門からは召喚できないって言ってるでしょ」


「じゃあ……作るなら? 剣みたいにさ」

「そんなこと、できるのかしら……」


大人になるのは簡単だ。それは、諦めてしまうだけでいい。

明日を信じるのは、子供の特権なんだ。


「ここではなんでも叶うよ。――スライムを作りたいです!」


ジェイが言葉を紡ぐ。その瞬間、門の上空に再び光る炎の文字が刻まれた。


『ダンジョンポイント50を消費し、固有能力【スライム錬成】を付与します。本能力は再取得不可となります。作成する属性、又は、タイプを選択してください』


「ふふーん! じゃあ、普通に水で……『ごふっ!?』」


ジェイの後頭部に、かえでの鋭いツッコミが炸裂した。

ジェイは前のめりによろけ、後頭部を両手で押さえながら涙目になる。


「叩くことないじゃん! 痛いよぉ!」


「そうでもしないと、今この瞬間に『ただの動く水溜まり』が誕生していたわよ!」


「なんでさ! いいじゃん、普通の水スライム!」

「そんなの何の役にも立たないって言ってるでしょッ!!」


「……じゃあ、『超水スライム』でお願いします!」

「『超』を付けたところで、それはただの水よッ!!」


二人の不毛な言い争いを余所に、ジェイの紡いだ言葉をそのまま受け取った門が、虚空へ冷徹な炎の文字を刻み込んだ。


『選択を承認。属性――【超純水】』


「もう、選択されちゃってるし……ジェイのばかッ!! 知らないッ!」


かえでは顔を覆わんばかりに包帯を両手で押さえ、ぷいっと顔を背けてしまった。


貴重な50ポイントを支払い、二度と手に入らない固有の枠を「ただの水」を覚えるために使ってしまった絶望感。

彼女のふさふさした赤い尻尾も、今はショックで力なく地面に垂れ下がっている。


(次回へ続く)

読んでいただきありがとうございました!

せっかく貯まった貴重なポイントを、かえでちゃんの猛反対を押し切って「スライム」に全ツッパしてしまった第9話。

「超」を付けただけのただの水スライムのつもりなのに、システムが無慈悲に【超純水】と承認してしまった瞬間の、かえでちゃんの絶望とツッコミが書いていて本当に楽しい回でした。

「この主従の不毛な言い争いが好き!」「かえでちゃんの尻尾が可愛い!」と思ってくださったら、

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次回第10話も、このままジェイくん側の続きをお届けします。

ついに姿を現す「超純水スライム」は、一体どんなおかしなことになっているのか……?

第10話もお楽しみに!

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