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無垢な造物主と、百本の魔剣

「これでどのくらいダンジョンポイント増えるのかな?」


「さぁ……。そもそも、どうして増えたのかすら見当もつかないわ。あたしもダンジョンで生まれた魔物だもの。外の世界のことなんて、何も知らないし」


自分たちが外の世界に送り出した剣が、今この瞬間、どのような事態を引き起こしているのか――彼らに知る術はなかった。


もしかするといつの日かその剣を携えた冒険者が、このダンジョンへ挑み、ジェイの前に現れるかもしれない。


「たくさん貯まったら、もっと美味しいもの食べようね!」


ジェイは楽しそうにかえでに笑いかけた。

かえでが元気を取り戻してくれたことが、何よりも嬉しいのだ。


「ところで、ジェイ。あなたって『何でも』作れるの?」


「うーん……わかんないけど、何でもは無理なんじゃないかな。だって僕、剣のことなんて本当は何も知らないんだもん」


「……ねぇ。さっきの剣って、いわゆる『魔剣』でいいのよね?」


かえでが核心を突く。

その問いへの答え一つで、送り出したものの真価が変わってしまうからだ。


「え、なに?」

ジェイが全く心当たりがなさそうに首を傾げる。


「さっきの深紅の剣。持ち手だって緑に輝いていたし、見た目以上に重かったわ」


力による解放を意味する猛々しき【赤】。

大地に息吹を呼び、生命を増殖させる【緑】。

そして赤を補助し、世界を夕焼け色に染める【オレンジ】。


それらは、この『暁の地溝』に門が開いた時から世界に満ち満ちている、ジェイの濃密な魔力そのものだった。


「ううん。それだけじゃないわ。刀身からまた別の淡い光が漏れ出していた。あれは別の魔力の光でしょう?」


ジェイの魔力が込められているだけでも十分に常軌を逸した魔剣だが、かえでが今問い詰めているのはそういうことではない。その上からさらに重ねられた、世間一般に言うところの『属性の付加』だった。


「うん! あれは普通の剣に、風の属性をちょっと付けたんだ。試しに他にも水とか、火とか、土とか属性を付けていったんだよ。風属性なら淡い緑に、水は淡い青、火は淡い赤って感じに光ってカッコイイよ」


ジェイが「すごいでしょ」と言わんばかりに得意げに答える。


ジェイにとっては、それが「属性付与」だったのかもしれない。

だがそこには、この『暁の地溝』に満ち満ちている彼の濃密な魔力が、ごく当たり前のように様々な属性へと変質して注ぎ込まれていた。


かえでには、剣という器や込められた属性、そのすべてにはっきりとジェイの魔力を感じられた。

手を離れ火や水に変わっているはずなのに、まだ手の内にあるような、属性と魔力の境界が曖昧になっているような……違和感。


(本当に、ただの『属性付与』だなんて、その程度のモノなのかしら……)

かえでは少し腑に落ちない様子ながらも、無理やり自分を納得させるように頷いた。


「ジェイはもっとすごいものも作れるの?」


「作れるとは思うんだけど……。でも、冒険者用の作り方しか知らないから、魔物の素材が必要になるし……。それは、ダンジョンマスターとしてどうなのかなぁって」


ジェイは煮え切らない様子でぼそぼそと答える。


ポイントを払って生み出した魔物を、わざわざ殺してまうなんて。ましてや、それを素材にして武器を鍛えるのは効率が悪いうえに、どこか残酷だ。


「いいわ、いつかポイントに余裕ができたら一度試してみましょう。……それより今は『普通の属性剣?』、あと百本作れるわよね?」


ついさっきまでポイントの無駄遣いにあんなに厳しかったかえでが、一転して、驚くほど大胆な提案を口にした。彼女はぶかぶかの服の上からでも分かるほど堂々と胸を張り、自信に溢れた瞳でジェイを見下ろす。


「えぇっ!? それ、ポイントが全部なくなっちゃうんじゃ……」


その大胆なかえでの決断に、ジェイは思わずたじろいでしまう。


自分の欲する大きな夢には大胆になれるのに、目の前の計算できるリスクには消極的になってしまう。きっと、全部使ったらダンジョンポイントはゼロになって、ご飯だって食べられなくなるとでも考えているのだろう。


今そうならなくても、必ずそうなるのであれば、未来を変えるには今決断するしかない。


「ジェイ。返事は『はい』よ」


「は、はひっ! ……えっと、剣百本分の鉄をください!」


その言葉に応じるように、門の上空へ鮮やかな炎の文字がゆらりと浮かび上がった 。


『鉄鉱石200kg(コスト60)を生成します』


目の前に鉄鉱石が小山のように積み上がった。そして大事なダンジョンポイントは、この瞬間ゼロになった。


生み出された大量の鉄鉱石は、ジェイの意志に従うかのようにその一部だけが足元へと移動する。そして、かえでの目の前で、ふわりと宙に浮き上がった。

炎のような赤の幾何学模様がそれを包み込み、飴細工のように「どろり」と溶けて、鮮やかなオレンジ色に染まっていく。


「すごいわね……本当に、こんな風にできていくのね」


一度コツを掴んだジェイの作業は早かった。

次々とジェイの魔力を宿した属性剣が量産されていく。


「……少なくとも、ただの鉄塊からは完全に変異しているわね」


剣が形を成していく様子を一心に見つめながら、かえでが低く呟いた。

作られていく過程ですら、もはやただの鉄塊とは思えないほどの威圧感を放っていた。


「ジェイ! やっぱりこれ、本物の『魔剣』よ!」


「え、本物の? なにかえで? あとちょっとだから、先に終わらせちゃうね」


ジェイは仕上げと言わんばかりにさらなる属性を剣に込めた。

剣は魔力に応じた輝きを放ち、最後に太陽が地平に沈むような刻印が刻まれ、完成する。


できあがったばかりの剣と、平然としているジェイの顔を、かえでは交互に見つめた。そして信じられないものを見たと言わんばかりに深い溜息をつく。


「属性を込める前から、すでに魔力で鍛え上げられていたわよ。あなたが『普通の剣』って言うから、もっと泥臭い鍛冶師のような作り方をしているのかと思っていたわ」


ジェイの頭の中には、たくさんの「???」が浮かんでいるようだった。


「えっ? ……普通、こうやって作るものでしょ?」


あたかもそれが世界の理であると疑わない、純粋な問い。


ジェイは本物の鍛冶師という存在を知らない。

頭の中にあるのはゲームの錬成エフェクトのように、思い描いたイメージを一瞬でそのまま形にすることだけなのだ。

「知らない」という無垢さが、この世界においては既存の法則を飛び越える異常な製造方法になっていた。


「…………ダンジョンマスターの知識には、勝てないわね」


少しの沈黙の後、かえでは自分を納得させるように答えた。


彼女もまた、幼体という器のせいで知らないことも多い。

あの神の間で見た高位の魔物たちは、主から与えられたポイントに応じて、膨大な知性や情報を持って生まれてきている。進化すれば、より高次元の知識を引き出せるのだろう。


ジェイがポイントをケチった――あるいは、あり得ない無茶なオーダーをしたせいで、彼と共に手探りで歩む道を選ばされたのだ。


「まぁね! 学校では僕が一番だったんだから!」

「……ダンジョンマスターの学校なんてものがあるのね」


――二人の会話は、やはりどこか噛み合っていない。


けれど、お互いが納得しているのなら、それはそれで正解なのだろう。


そこには、ジェイを頼れる(あるじ)と認めどこか安堵した様子のかえでと、彼女に認められたことで自分の「殻」を破り、創造の楽しさに目覚め始めたジェイの姿があった。



「学校……」


かえでの頭のどこかで、『ガヤガヤとした教室』や『教壇からの景色』のような、身に覚えのない記憶の残像が浮かんできた。


けれど彼女は、それを幼体ゆえ取り出せない情報だと思い込み、すぐに思考の隅へと追いやるのだった。

進化の先に眠る、かえでちゃんの高次元の知識の行方も気になるところです……!

「この二人の勘違いコンビを応援したい!」「百本のやらかしの続きが読みたい!」と思ってくださったら、

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次回、第8話もお楽しみに!

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