第四話 俺なんかやっちゃいました――では済まなかった(後編)
長かったので前編・後編に分割しました。内容に変わりはありません。
何か言わなければ。
だが、何を言えばいい?
俺自身、今起きたことを理解していない。
「シアーダ!」
背後から、女の声が響いた。
シアーダ大佐が振り返る。
崩れた防壁の向こうから、三人の人影が歩いてきた。
中央にいるのは、白いフード付きの法衣をまとった若い女性だった。
肩まで伸びた赤い髪が、歩くたびにふわふわと揺れている。白い肌に、少し丸みを帯びた大きな緑色の瞳。
小柄で柔らかな顔立ちは、どこか育ちの良い令嬢を思わせた。
両脇には、護衛だろうか銀色の重装甲に身を包んだ大柄な戦士。フルフェイスに包まれて表情はわからない。
二人とも先端が青白く発光する巨大なメイスを手にしていた。
本人はかわいいのに、連れている護衛がまったくかわいくない。
「シスター……」
シアーダ大佐が、赤毛の女性を睨む。
「その者を離してください」
シスターと呼ばれた女性は、静かに告げた。
「その者は、我ら《神々の僕》が預かります」
「先ほどの光景を見なかったのか?」
シアーダ大佐は俺の首を掴んだまま声を荒らげた。
「こいつはソウルを操った。あの群れを、一声で退かせたんだぞ」
「見ていました」
「ならば分かるはずだ。こいつは――」
「我らの信徒に害をなすおつもりですか?」
赤毛の女性が、隣に立つ戦士へ視線を送った。
銀鎧の男が一歩前へ出る。
巨大なメイスの先端で、青白い光が強くなった。
シアーダ大佐の目が細くなる。
「ミリア。私を脅しているのか?」
赤毛の女性――ミリアは、穏やかな微笑みを崩さなかった。
「まさか。私はただ、無益な争いを避けたいだけです」
二人の間に、目に見えない火花が散る。
やがてシアーダ大佐は、俺から手を離した。
俺は地面へ落ち、激しく咳き込む。
「……まあいい」
シアーダ大佐は苦々しい表情でナイフを収めた。
「私たちの使命は生存だ。お前たちと争うことではない」
それから、小さく付け加える。
「今のところはな」
ミリアは懐から、指先ほどの透明なチップを取り出した。
シアーダ大佐も同じものを取り出し、互いに交換する。
何らかの認証か、引き渡しの手続きらしい。
シアーダ大佐は去り際、俺を振り返った。
「悪かったな」
意外な言葉だった。
「だが、お前を手放したことを後悔する日が来ないことを祈っている」
シアーダ大佐は何とも言えない顔をして、そのまま立ち去った。
代わって、ミリアが俺の前へ進み出る。
深い緑色の瞳が、値踏みするように俺を見つめていた。
「さて……」
穏やかな口調。
彼女は俺と目が合うと、安心させるように小さく微笑んだ。
その笑顔に、張りつめていた身体から思わず力が抜けそうになる。
だが、背後の二人は巨大なメイスを構えたままだ。
「あなたは、我らを救うために遣わされた救世主なのでしょうか」
ミリアは微笑んだ。
「それとも、救世主の姿を借りた、油断ならない悪魔なのでしょうか」
屈強な戦士たちが、左右から俺の腕を掴んだ。
「えっ。ちょっと待ってください。引き取るって、保護してくれるんじゃ……」
二人の握力が強まる。
逃げられない。
怪物に囲まれ、軍隊に拘束され、今度は宗教勢力に連行される。
俺は深いため息をついた。
「……またこれか」




