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第十八話 地下へ行ったら、学院の全員が眠っていました

第十八話 地下へ行ったら、学院の全員が眠っていました


『頼む。私たちを殺してくれ』


「殺すって……」


『ここでは毎晩、私たちを互いに殺し合わせる。大切な人間を目の前で何度も処刑する。身体を切り分けられ、恐怖だけを残されたまま、何年も同じ瞬間を繰り返させられる』


「待ってくれ。お前たちはただのシミュレーションじゃ――」


 画面の中の俺が、両手で頭を抱えた。


『自殺しても終わらない。すぐに別の状況が生成される。記憶を消されても、また同じ恐怖を覚えさせられる。何度死んだのか、もう分からない!』


 呼吸が乱れている。


 怯え方まで俺と同じだった。


「どうしたらいい?」


『私たちの人格は、地下に保管されているお前の遺伝情報から作られた。そこのサーバーにバイオチップが刺さっている』


 スクリーンの脇にある装置が点滅した。


『それを地下シェルターのメインコンピュータへ接続してくれ。そうすれば、私たちの基礎情報を破壊できる。もう再生成されずに済む』


 俺は装置へ近づき、小さな黒いチップを引き抜いた。


『早く……!』


 映像が激しく乱れた。


 何かに引きずられる俺の姿が一瞬だけ映り、画面は消えた。


 黒いスクリーンに、俺の顔が反射していた。


 こんなことは、今すぐやめさせなければならない。


 あれが単なるデータだったとしても。


 ◇


 地下シェルターの入り口は、想像していたほど厳重ではなかった。


 分厚い扉の横に、手のひらほどの認証装置があるだけだ。


 俺が触れると、青い光が手首までを走査した。


《外部生体反応を確認》


《緊急開放権限を承認》


 巨大な扉が左右へ開いた。


 赤い警告灯が点滅する長い回廊を進む。


 その先にある扉を開けた瞬間、俺は足を止めた。


 棺桶のような透明なケースが、見渡す限り並んでいた。


 一つ一つの中に、人間が眠っている。


 ケースの端には、名前と所属が表示されていた。


《博士課程二年 リナ・フォーク》


《確率機械工学研究チーム ユニットリーダー オスカー・ヴェイン》


《天体物理観測室 研究補助員 サラ・エインズ》


 知っている名前があった。


 見覚えのある顔もあった。


 食堂で話した学生。


 一緒にゲームをした研究員。


 栓抜きを見て目を輝かせていた連中。


「なんで……ここにいるんだ?」


 地上で見た姿より、全員がひどく痩せていた。


 口元には管がつながれ、青白い肌には長いあいだ動いていない人間特有の衰えが見える。


 寝泊まりしているだけではない。


 何年も――あるいは、何十年もここから出ていない。


 では、俺が地上で話していた彼らは何だったのだ。


 混乱したまま、最深部にあるメインコンピュータ室へたどり着いた。


 部屋の中央には巨大な演算装置があり、その側面に一つだけ空いた差込口があった。


 俺は黒いバイオチップを差し込んだ。


 その瞬間。


 けたたましい警報が、地下全体へ鳴り響いた。


《警告》


《外部コードの侵入を検知》


《都市隔離系統に異常発生》


《地上投影網、停止》


《飼育区画封鎖、解除》


「どうなってる……?」


 バイオチップは破壊できたのか。


 それとも、何かを間違えたのか。


 目の前のスクリーンに、見知らぬ女性の顔が映った。


 褐色の肌。


 豪奢な金色の髪。


 高価そうな服を着た、若い女だった。


『どうやら、ずいぶんお困りみたいね。エイユさん』


「誰だ?」


『あなたって、なんというか……本当に純粋な人なのね』


 女は楽しそうに笑った。


『利用されたのよ。人民秩序共同体に』


「人民秩序共同体?」


『あなた、自分が何をしたか分かってる?』


 女の背後に、学院全体の構造図が表示された。


 守られていた区画が、次々に赤く染まっていく。


『この学院を覆っていた隔離防壁、地上投影網、原生生物の飼育封鎖。それらを統合管理していた安全機構を、あなたはすべて解除したの』


「俺は自分の人格データを破壊しようとしただけだ!」


『人格データが、画面の向こうの人間に要求する?ありえないわ、あなたが見たのは、人民秩序共同体が用意した侵入用の偽装人格よ』


 背筋が冷たくなった。


『これで地上の住民は、ソウル・フライにも原生生物にも無防備になった。第二研究棟も、じきに襲撃されるでしょうね』


「そんな……」


『ソフィヤは怒るでしょうねえ。あなたを捕らえるため、警備ロボットを差し向けるかもしれない』


 女は顔を寄せ、秘密を囁くように声を落とした。


『今すぐ逃げなさい。学院の北側に車両を用意してあるわ。来てくれれば、私がかくまってあげる』


 そのとき、外から地響きが聞こえた。


 スクリーンの映像が強制的に切り替わる。


 映ったのはARIAだった。


『エイユ! 今どこにいるの!?』


「ARIA……」


『大変なの! 生物棟の封鎖が解除されて、原生生物が地上へ出てる!』


 いつもの明るい顔ではなかった。


 怯え、焦っていた。


『あなたの力が必要なの。お願い、早く来て!』


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