第九話 決闘裁判、勝っても死刑らしいです(前編)
長くなったので分割しました。内容は以前と同じです。
「何かの間違いです!」
ミリアの声が、警報の鳴り響く聖堂に響いた。
「エイユさんは入域時に検査を受けています。機械式神経接続も、遺伝子改変も確認されませんでした!」
「だが、現に反応が出ている」
パラディンの一人が、赤く光る検査門を示す。
《重大な異端反応を検出》
《対象を隔離してください》
表示は消えない。
俺は両手を上げたまま、必死に訴えた。
「本当に何もしてません! 機械を身体に入れたこともないです!」
少なくとも、覚えている限りでは。
「この装置の故障ではありませんか?」
駆けつけたギデオンが言った。
「従来の検査では何も検出されなかったのでしょう」
「逆ではないか?」
赤い甲冑の男――上級パラディン、ヴェレスティンが、低い声を響かせた。
「従来の装置では見つけられなかった異端を、この新型だけが捉えたとも考えられる」
周囲の視線が、一斉に俺へ集まる。
その可能性を、俺自身も否定できなかった。
女神から与えられた力が、この機械へ反応した可能性もある。
「いったい何事です」
騒ぎを聞きつけ、セヴェリン枢機卿が現れた。
その後ろには、数人の高位聖職者とナディアもいる。
ナディアは新しい検査装置を見ると、驚いたように口元を押さえた。
「そんな……エイユさんが?」
心配そうな表情だった。
しかし、エンパシーを通じて、かすかな感情が流れ込んでくる。
喜び。
期待。
長く待っていた芝居の幕が、ようやく上がったような高揚感。
ナディアはそれを隠し、ミリアの隣へ駆け寄った。
「ミリア、本当にこの方はあなたのご親族なのですか?」
「それは――」
「ロア・アーグの遠縁だと聞きました。ですが、あなたからそのような話を一度も聞いたことがありません」
ミリアが答えに詰まる。
「出身地について尋ねても、エイユさんは何もご存じありませんでした。巡礼の経路も、洗礼を受けた教会も、きちんと説明できない」
ざわめきが広がった。
「そもそも、このエイユという者は何者なのです?」
その問いに答えたのは、ミリアではなかった。
「静粛に」
セヴェリン枢機卿が片手を上げる。
「シスター・ミリアが彼を親族と偽ったことは事実です。しかし、それは私の承認によるものです」
「猊下の?」
「この者の存在を、外部へ知られるわけにはいかなかった」
枢機卿は俺へ視線を向けた。
「エイユには、ソウル・フライを退ける力があります」
今度こそ、聖堂が大きくどよめいた。
「ソウル・フライを?」
「そんなことが可能なのか?」
「まさか、神々の奇跡……」
「いや、魔物を操っているのでは?」
「静粛に!」
セヴェリン枢機卿が再び声を張る。
しかし、ざわめきは収まらない。
人類がいまだ有効な対処法を持たないソウル・フライ。それを俺が一声で退けたという事実は、検査装置の反応以上に彼らを刺激した。
「聖女ともあろう者が身元を偽り、異常者を聖なる家へ招き入れたのですぞ!」
一人の枢機卿がミリアを指さした。
「もし悪魔の手先であったなら、どう責任を取るおつもりか!」
「公にすれば、他勢力に奪われる危険がありました」
セヴェリン枢機卿が反論する。
「ソウル・フライへ干渉できる者です。軍事勢力も学院も、手段を選ばず確保しようとするでしょう」
「だからといって、聖堂内へ隠す理由にはならない!」
「この力が奇跡であれば、彼を外へ渡すことこそ神々への背信です!」
議論が白熱していく。
奇跡。
異端。
救世主。
悪魔。
誰も俺自身を見ていない。
俺の頭越しに、自分たちの信仰の正しさを争っているだけだ。
ナディアはミリアの肩へ手を添え、心配そうに寄り添っていた。
その口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいる。
俺は聞こえないほどの声で唱えた。
「……魂魄を束ねし神経共鳴――ソウル・シナプス・ハーモナイズ」
雑音が消えた。
ナディアの感情が、今までよりも明確な言葉となって流れ込んでくる。
〈ああ、本当に密告どおりだった〉
〈機械と交わり、人の姿を捨てた汚らわしい男〉
〈ミリアも馬鹿な女〉
〈少し優しくされただけで舞い上がって、正体も知らない男を聖堂へ招き入れて〉
〈二人で町を歩いて、甘い菓子を食べて〉
〈きっと、もう花まで散らしたのでしょうね〉
俺は思わずナディアを見た。
彼女もこちらを見ていた。
心配そうに眉を寄せた、慈愛に満ちた表情。
だが、その内側では、高い場所から俺とミリアを見下ろして笑っている。
目が合った瞬間、ナディアの笑みがわずかに深くなった。
俺の腕を、パラディンたちが掴んだ。
「異端審問が終わるまで、対象を拘束する」
「待ってください!」
ミリアが前へ出ようとする。
ヴェレスティンがその間に立った。
「聖女様。これ以上この男をかばえば、あなたにも嫌疑が及びます」
ミリアの足が止まる。
俺は何も言えないまま、地下牢へ連行された。
※今回のミリアのイメージイラストを活動報告に載せました。よければどうぞ。




