↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/83

第七話 女神様、やっぱりモテるスキルをください(前編)

長くなったので分割しました。内容は以前と同じです。

 頭の奥で、小さな音が鳴った。


 ――ピコン。


 《接続要求を受信しました》


「……接続要求?」


 恐る恐る意識を向ける。


『あー、もしもし?』


 若い女性の声が聞こえた。


 どこかで聞いたことのある声。


「あの……女神様?」


『やっと見つけました』


 声の主は、間違いなく俺をこの世界へ送り込んだ女神だった。


『目が覚めたら、あなたがどこにもいないんですから。焦りましたよ』


「目が覚めたら?」


『こちらの話です。どうやら瞬間移動したせいで、接続が切れてしまったようですね』


 女神でも転送ゲートを使うと人を見失うらしい。


 思ったより頼りない。


『それはさておき、着実にレベルアップしているあなたへ、おすすめの新スキルをご案内に来ました!』


 急に声が明るくなった。


 同時に、視界の中へ色鮮やかな文字が踊り出す。


 《今だけ! 転生者応援キャンペーン実施中!》


「いらない広告が出た」


『まずはこちら! 異性からの好感度を飛躍的に上昇させる――《森羅万象の美女を虜にする王者の魔眼――オール・ガールズ・ラブ・ミー》!』


「いりません」


『人前で緊張しなくなる《千軍万馬を前に微笑む不動心――ノー・モア・アガリショー》!』


「最後だけ日本語じゃないですか」


『初対面でも会話が弾む《沈黙を打ち砕く無限話術――パーフェクト・コミュニケーション》もおすすめです』


 対人関係に偏りすぎている。


『前に言いましたよね。火力より情報が大事だって』


『だから、情報収集に役立ちそうなものを考えたんですよ。格好いい名前でしょう?』


 俺の発言を参考に、わざわざ新作を用意したらしい。


 方向性はともかく、努力だけは認めたい。


「いや、今はいいです」


『えー。せっかく考えたのに』


「今、本当に疲れてるんで。また今度にしてください」


『仕方ありませんね……あれ?』


 女神の声色が変わった。


『その服、何ですか?』


「服?」


 自分の身体を見る。


 荒野で着ていた汚れた服ではない。入浴後、形ばかりの入信の儀式を済ませ、ミリアから渡された生成り色の長衣を着ていた。


 胸元には、《神々の僕》を示す円環状の紋章が縫いつけられている。


「ああ。入信したとき、シスターにもらったんです」


 沈黙。


『……入信?』


「まあ、いろいろあって」


 また沈黙。


 先ほどまでの、通販番組のような明るさが消えていた。


『なにそれ。あんた、宗教入ったの?』


「そういう言い方すんな」


『異世界へ送られて、最初にやることが入信って、キモ』


「お前を信仰してるわけじゃないからな」


『別に聞いてないし』


 明らかに機嫌が悪くなっている。


「何を怒ってるんですか?」


『怒ってませんけど』


「怒ってるだろ」


『それで、その“シスター”って誰?』


「なんでそこに食いつくんだよ」


『別に。会話の流れで聞いただけ』


「ミリアですよ」


『ふーん』


 声の温度が、さらに下がった。


『ミリアね』


「怖い怖い。その言い方やめろ」


『別に、どうでもいいですけど』


「絶対どうでもよくないだろ」


『まあいいや。特にほしいスキルないならこれでー』


「呼んだのはそっち――」


 ――ブツッ。


 一方的に接続を切られた。


 《通信が終了しました》


 しばらく天井を見つめる。


 死後の世界では、神秘的で穏やかな女神に見えた。


 今の会話は、どう考えても女神というより――。


「面倒くさい妹みたいになってる……」


 ◇


 翌朝、俺はミリアに呼び出された。


 連れてこられたのは、小さな礼拝室だった。


 礼拝室には、俺とミリアだけ。


「いくつか、お聞きしてもよろしいですか?」


「やっぱり尋問ですか?」


「お話です」


 ミリアは笑った。


 これまでの経験上、その二つの違いは拘束具の有無くらいしかない。


 俺は女神から与えられた能力について説明した。


 正式名称を口にするのは避けた。


「昨夜は、その女神と再びお話ししました」


「昨夜?」


 ミリアが身を乗り出した。


「どのようなお姿で現れたのですか?」


「姿は見てません。頭の中に声が聞こえてきて」


「神託ですね」


「力を授けると言われました」


「それはどのような?」


「異性にモテる能力です」


「…………」


 ミリアの姿勢が、ゆっくりと元に戻った。


 邪教か?と顔に書いてある。


「ほかには?」


「人前で緊張しなくなる能力です。初対面の相手と会話が弾む能力も」


「それは……」


 ミリアは困ったように眉を寄せた。


「何のために……?」


 言葉を選んでくれたらしい。


「俺も、本当に女神なのか少し怪しくなってきました」


「ですが偽物だと決めつけることもできない。最初のものはともかく、残りの力は悪しき力には思えません。」


「それにもし本物の神託を疑えば、それはまた大きな過ちになります」


「我々の信仰において、神々の御心を理解することは何より重要です」


 ミリアは祭壇の円環を見上げた。


「じゃあ、俺が本当に女神と話しているなら……」


「我々が何世代にもわたって求めてきたものへ、あなたは触れていることになります」


 緑色の瞳が、期待に輝いている。


 だが、完全に信じているわけではなさそうだった。


 神秘的な女神から選ばれた使者。


 そう考えたい気持ちと、俺が頭のおかしい嘘つきかもしれないという疑い。


 その両方が、彼女の中にあるように見えた。


 まあ、女神から通販番組のようにスキルを勧められたと言われても、普通は信じないだろう。


 ◇


 礼拝室を出ると、廊下の向こうから数人の審問官が歩いてきた。


 二人が、一人の男を引きずっている。


 男の法衣は破れ、全身が血と汚れにまみれていた。顔は腫れ上がり、指の何本かが不自然な方向へ曲がっている。


 男が顔を上げた。


「どうか、お慈悲を……!」


「その者は?」


「中央聖堂設備局の技師、オルバンです」


 審問官が答えた。


「頭蓋の内側から、異端の思考機械が発見されました」


 先ほどまで穏やかだったミリアの表情が変わった。


 怒鳴りもしない。


 顔を歪めもしない。


 ただ、その目から温かさだけが消えた。


「オルバン」


 ミリアは静かに男の名を呼んだ。


「あなたも信徒であれば、神々から授かった人の形を、己の都合で変えることが冒涜だとご存じでしょう」


「お許しください……! 私は祈っても、学んでも、人並みにできなかった。神々は私に、あまりにも重い試練をお与えになったのです」


「ですが試練を放棄し、その代わりに神々より授かった姿を差し出した。その罪を抱えたまま、神々の庭へ至ることはできません」


「嫌だ、死にたくない……!」


「魂を清め、主の慈悲を求めなさい。そうすれば、神々の庭で再び巡り会えるでしょう」


 審問官たちが男を連れていく。


 助けを求める声は、廊下の向こうへ消えていった。


 俺は何も言えなかった。


 昨日、子供たちへ笑いかけていたミリア。


 俺を守り、食事と寝床を与えてくれたミリア。


 今の彼女も、同じ人間だ。


 本人は残酷なことをしたつもりなどないのだろう。


 むしろ、男の魂を救ったと信じている。


 そう考えると、ほんの少しだけ怖かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。