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厨二少女に振り回される毎日が気づけば俺の青春になっていた  作者: あすあす


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9/11

九話 灼熱の時、魔境を夢見たコンチェルト

 ホームルームの時間。


「はい、では来月の修学旅行について説明しますね〜」


 先生の一言で、教室の空気が一気にざわついた。


「沖縄だってよ」「マジか、海じゃん」


 あちこちから期待の声が上がる中——


「……すぅ、我が魔術によって滅びるがいい……」


 一人だけ、机に突っ伏して寝言をつぶやく少女がいた。


(……いつも通り、何してるんだか)


 春斗は横目でゆいを見て、特に起こすこともなく黒板に視線を戻した。


◆◇◆


 放課後。


 四人で並んで帰る道。


「ちゃんと聞いてたか?」


 春斗が何気なく聞く。


「無論だ。完璧に把握している」


 即答。


 嫌な予感しかしない。


「じゃあどこ行くんだよ」「ふふん……魔境だ!」

「それはどこだよ」


 春斗のツッコミに、ゆいは胸を張り、自信ありげな顔を貫く。


「はぁ……沖縄だよ。行くところは」

「おぉ!!沖縄!!南方に存在する常夏の魔境——沖縄……最高だ!!」

「まぁまぁ、楽しいのはこれからだよ〜」「そうですね。準備も含めて、行事ですから」


 茜と柊一が自然にフォローする。


「ということでだ!」


 ゆいがぴたりと足を止める。


「装備を整える必要がある!我の力に相応しい装束をな!」「ただの服買いに行くだけだろ」

「いいね、じゃあみんなで買いに行こっか」「賛成です」


 そのまま、週末に四人で出かけることが決まった。


◆◇◆


 ショッピングモール。


 人の流れと明るい音楽。


 夏本番も近いからか、ショッピングモールはいつも以上に人で溢れていた。


「では我はこの闇に染まりし衣を——」「ダメだ」


 服が陳列しているところからゆいが手に取ったのは、真っ黒でフード付き、やたらと装飾の多い服。


「なんでだ!完璧だろう!」「沖縄でそれ着る気かよ」


 春斗の呆れた声。


 横で、茜が一枚の服を手に取る。


「ゆいちゃん、こっち着てみてよ」


 淡い色のワンピース。ゆいがあまり着ないタイプの服。


「なっ……これは……!」

「絶対似合うよ」


 そう言われて、ゆいは一瞬固まる。


 そして——


「……そ、そうか?」


 少しだけ声が小さくなる。


 数分後。


 試着室から出てきたゆいを見て、茜がぱっと笑う。


「やっぱり似合う!可愛い!」

「そう……なのか……!」


 耳まで真っ赤にしながら、視線を逸らすゆい。


 その様子に、春斗は思わず口元を緩める。


「ほら春斗くんもなんか言ってあげて」「え、俺?」


 急に振られて、一瞬言葉に詰まる。


「……まぁ、いいんじゃないか」


 ぶっきらぼうな一言。


 でも、ゆいはそれを聞いてさらに顔を赤くした。


「そ、そうか……そうに決まってるだろ!!」


 春斗の肩をバシバシとゆいが叩く。


「あれ?柊一くんは何も買わない?」

「無いのは水着だけなので服は大丈夫ですよ」


 柊一は遠い目でゆい達を見る。その目は寂しさもあるが——


「春斗!柊一!貴様らに似合いそうな服を見つけたぞ!」


 笑顔でゆいが服を二着持ってくる。


「ゆい、柊一は買わないみたいだぞ」

「いえ、試着して考えましょう」


 柊一は、ゆいの元へ歩いていく。顔には紛れもなく笑顔が浮かんでいた。


◆◇◆


 水着売り場。


「次はこれだな!」「やっぱ、水着はテンション上がる〜」


 並ぶ色とりどりの水着。


 ゆいはその中からいくつか手に取り、体に当ててみる。


「どうだ!」「いいと思うよ〜」


 フリフリのついた水着を見て、茜が頷く。


 そのやり取りを少し離れた場所から見ていた春斗は——


 その視線に、茜が気づく。


 ほんの一瞬。


 でも確かに見逃さなかった。


 茜は、何も言わずに小さく笑う。


「じゃあこれにしよっか」「うむ!」


 ゆいは嬉しそうに頷いた。


「春斗さんも選びましょう」

「あぁ、そうだな」


 水着を選びながら、春斗はラックを眺める。


「意外と派手な柄とかあるんだな」

「海ですからね。浮かれている人向けです」


 柊一がさらりと言う。


「確かにそうだな」

 

 柊一の意外な発言に春斗は微笑む。

「一応、自分も浮かれてはいますよ」


 本当にわかりづらい。でも本人が言ってる以上本当のことだろう。


 春斗は適当に黒ベースの水着を手に取った。



「春斗さんらしいですね」「無難なだけだ」


 少し離れた場所から、ゆいと茜の笑い声が聞こえてくる。


 騒がしい。


 でも、不思議と嫌じゃない。


「……なんか、修学旅行って感じしてきたな」


 ぽつりと漏れる。


 柊一は、糸目をさらに柔らかく緩めた。


「ええ。きっと、楽しくなりますよ」



◆◇◆


 帰り道。


 夕焼けの中。


 ゆいが紙袋を抱えて歩いている。


「ふふん……この伝説の防具さえあれば、沖縄も攻略したも同然だ!」

「まだ行ってすらないだろ」


 春斗のツッコミ。


 その横顔を、少しだけ見る。


(……楽しそうだな)


 それは、ゆいだけじゃない。


 隣を歩く茜も、後ろの柊一も。


 そして——


「……まぁ、悪くないか」


 小さく呟く。


 その声は、夕焼けの中に溶けていった。


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