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厨二少女に振り回される毎日が気づけば俺の青春になっていた  作者: あすあす


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六話 歴史の殿堂にて世界を救う魔法を封印する

 春の陽気が消え掛かった朝。今日は課外学習。


 青空の下、校門前にバスが停まっていた。


「はい、四人グループを作って行動してくださいね〜」


 先生の声に、生徒たちが一斉に動き出す。


「あと一人どうするんだ?」

「まぁ、探すしかないよ」

「そうだよなぁ」


 春斗と茜は周囲を見渡して人を見繕おうとする中ゆいは。


「さぁ、この手を取り共に伝説の1ページを刻みたいものはいるか!!」


 いつものゆいワールド全開で人に呼びかけていた。


(……意外ともう埋まってるな)


 そんな時だった。


「もし、足りていないのなら——自分を入れてくれませんか?」


 丁寧な声が後ろからかかる。


 振り向くと、整った身なりで、にこやかな笑顔の糸目の男子が軽く頭を下げていた。


「貴様は沈黙なる知の聖堂の門番!!」

「あの時はどうも小さな勇者さん、水瀬柊一っていいます。よろしくお願いします」

「春斗だ」

「藤原茜でーす。よろしくね」


 軽く会釈を交わしていると、


「我が名は……高橋ゆい‼︎ 神より生命を受け、この世を救わんとする救世主‼︎」

「勇者ではなく救世主様でしたか。よろしくお願いします」


 柊一はゆいワールドにすぐに対応しきっていてすでに場に馴染んでいる。


◆◇◆


 最初に訪れたのは博物館ゾーン。


 ガラスケースの中に並ぶ古い道具や化石を見て、ゆいの目が輝く。


「見よ春斗!この遺物……確実に古代の呪具だ!」

「ただの土器だよ」


 すかさずツッコミが入る。


 すると——


「確かに、これは祭祀に使われていた可能性がありますね」


 柊一が真顔で頷いた。その隣をゆいがキラキラした目で見る。


「ほら見ろ春斗!やはり呪具だ!」

「方向性が違うだけで意味は同じじゃないからな」

「博識だね〜、柊一くん」

「本を読んでいると嫌でも知識は身につくものですよ」


 茜の目線は春斗に向けられる。


「ですって、万年中堅」

「成績は関係ないだろ」

 

 次の展示で大きな牙を持った生物の骨がゆいの目の前に現れた。


「これは封印された魔獣の骨……!」

「おそらく大型哺乳類の骨格標本ですね」

「何を言っている、こんな大きな牙の生き物なんて魔獣しかいない!」

「科学的には違いますが、もしかしたら本当に魔獣だったかもですね」


 春斗は遠い目をする。


「……なんなんだこのコンビ」


 横では茜が肩を震わせて笑っていた。


「ちょっと、相性良すぎない?」

「うむ!貴様、なかなか見どころがあるな!」

「ありがとうございます」


 ゆいと柊一の間に、妙な信頼関係が生まれていた。


◆◇◆


 次に足を踏み入れたのは、美術館ゾーン。


 さっきまでの賑やかさが嘘のように、静かな空気が流れている。


「ゆい、ここも図書室と同じで静かにな」


 春斗はゆいに釘を刺す。ゆいも理解ているようで両手で口を押さえてコクコクと頷く。


 絵画が並ぶ中、ゆいがぴたりと足を止めた。


 大きなキャンバスの前。


 色と光が混ざり合った、不思議で大きな一枚。


 ゆいは、じっとそれを見つめていた。


 何も言わない。


 ただ、見ている。


 しばらくして、小さく呟く。


「……なんか、すごいな」


 釘を刺していたのも合わさって珍しく、言葉が少なかった。


 春斗は、その横顔を少しだけ見る。


(……こういう顔もするんだな)


 いつもの調子とは違う、静かな表情だった。


◆◇◆


 春斗と柊一が並んで展示を見ている。


「春斗さん、この油絵いつも読んでいる小説の表紙にそっくりと思いませんか」

「確かに。ここのバランスとか色合いとか」

「そうですよね」


 自然な会話。


 無理も、違和感もない。


 その様子を、少し後ろから二人が眺めていた。


「……良かったね、友達できて」


 茜が小さく呟く。


 少しだけ、昔を思い出すような声だった。


「む……我の仲間なのに」


 ゆいが頬を少しだけ膨らませる。


「なにそれ、嫉妬?」

「違う!これは……」


 少し考えたあと、言葉の続きの代わりにゆいは一歩踏み出す。


 そして——


 後ろから、春斗に抱きついた。


「な、なんだ!」

 

 春斗はいきなりの出来事を理解しきれてない。


「すいません。ゆいさんの春斗さんを長々とお借りしてしまって」


 軽く謝罪をする柊一。


「おい、ゆい」


 春斗が振り払おうと体を軽く揺らすが離れる気配がない。


 ゆいは春斗に抱きつきながら言葉を返す。


「いや、春斗とはただの仲間だ」


 まっすぐとした視線が柊一に刺さる。


「そうですか」


 ほんのわずかに、寂しげな笑顔が浮かぶ。それを見たゆいが柊一にも抱きつく。


「柊一も仲間だ!」


 柊一の口元が緩む。


「それはとても嬉しいです」


 笑いあうゆいと柊一を見て、茜がくすくすと笑いながらやってくる。


「みんなもうそろそろ集合時間だよ」

「もちろん、茜も仲間だ」


 ゆいが茜にも抱きつく。


 茜の口がゆるっゆるっになりゆいを抱き返す。


「一生仲間だよ〜、ゆいちゃーん」

「ゆい、そう易々と人に抱きつくな」


 春斗はため息をつきながら注意をする。


 四人の距離は身体的にも気持ち的にもすでにとても近い位置にある気がした。


◆◇◆


 帰りのバスの中。


 ゆいは窓に額をつけながら外を眺めていた。


「今日の探索も、なかなか有意義だったな」

「課外学習だからな」

「しかも、新たな仲間も加わった」


 ちらりと後ろの柊一の方を見る。


「仲間になれて、光栄です」


 淡々と返す柊一。


 そのやり取りに、柊一の隣の茜がまた笑う。


 春斗はその様子を見ながら、小さく息をついた。


(……なんか、増えたな)


 騒がしさも、関係も。


 でも——


 悪くはない、と思った。


◆◇◆


「ゆいさんは素晴らしい魔法がつかえるのですね」

 

 柊一は騒ぐゆいと春斗の後ろ姿を見て呟く。


「ゆいちゃんは魔法使いじゃないよ」

「そうでしょうか」


 目を瞑る。茜はそれを見て不思議に思う。


「いつも一人だった春斗さんの周りに人がたくさんいらっしゃるようになったので」

「確かに」

「図書室での寂しげな背中からは考えられません」

 

 シートの上からゆいが顔を出す。


「二人とも!なんの話をしている!」

「ゆいちゃんがどんな魔法を使えるのか予想してたんだよ」

「そうです。無難に炎の魔法かと、自分は考察しました」


 ゆいのキラキラとした目が向けられ、それに微笑みで返す。


「二人とも我の魔道に興味を示したか!よかろう我が使う魔法は……」

「ゆい、ちゃんと座れ」

 

 何か言おうとしていたがゆいの頭が下がっていった。


「本当にすごい魔法使いだね、ゆいちゃんは」


◇◆◇


 バスが止まり、解散の時間。


「では、また明日」


 柊一が軽く頭を下げる。


「うむ!また会おう!」

「またね〜」

「……おう」


 それぞれ別の方向へ歩き出す。


 夕焼けの中、いつもの三人が並ぶ。


「春斗!明日も我と共に来るがいい!」

「学校だからな」

「当然だ!」


 いつも通りのやり取り。


 でも、少しだけ違う日常。


 それが、ゆっくりと続いていく。

 

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