十七話 知識を持ちて抗う戦争。終幕への道標。
期末テストが終わってから数日。
教室では緊張と不安の中で答案用紙が返却され始めていた。
「はい、次。高橋」
「……!」
先生から答案を受け取ったゆいは、まるで処刑宣告を受けるかのような顔をしていた。
そして、ガチコチに固まった歩き方をしながら自分の席へ戻る。
「…………」
「どうだった?」
隣で固まったままのゆいに春斗が聞く。
「…………」
「おい」
「……まだ、見ていない」
「もう答案、裏返しにして置いてあるだろ」
「今の我には、封印を解く力はない」
「そんなの裏返すだけだろ」
ゆいの机に裏向きのまま置かれた答案用紙。それを春斗がゆっくり答案をひっくり返す。
「ちょ……ちょっ」
右下に書かれている数字は。
31。
ゆいはしばらく答案を見つめる。
「赤点ではない!」
「おお」
思わず春斗の口から声が漏れる。
決して褒められた点数ではない。だが、前回は赤点だったことを考えれば、確かに大きな進歩だ。
「……前より上がってるな」
「……!」
ゆいが顔を上げる。
「本当か?」
「本当だよ」
「……」
ゆいは答案をもう一度見る。
そして、少しだけ口元を緩めた。
「ふっ……やはり我の才能が開花したようだな」
「勉強したからだろ」
「それもまた才能の一つ!」
「そうかもな」
そう言いながら、春斗も少しだけ笑ってい
◇◆◇
放課後。
いつもの場所には、春斗、ゆい、茜、そして柊一が集まっていた。
「皆さん、テストはいかがでしたか?」
「私はまあまあかな」
茜が答える。
「春斗くんはどうだった?」
「悪くもなく、よくもなかった」
「ゆいはちゃんは……」
「勝利だ!」
ゆいが点数をまとめられた紙の帯を机に叩きつける。
「おぉ、前回よりかなり上がっていますし、赤点もありません」
「目標達成だね!」
「そうだろう!」
「努力の結果ですね」
ゆいの笑顔が止まる。
満足そうに頷くゆい。
春斗はそんな様子を見ながら、ふと思った。
少し前までなら、こいつはテストが返ってきたところで、こんなふうに皆と話していただろうか。
他の人の点数を見せてもらって。
頑張ったことを話して。
誰かの点数を賞賛して。
「……変わったな」
「何がだ?」
ゆいがポカンとする。
「いや」
春斗は首を横に振った。
「何でもない」
◇◆◇
しばらくすると、茜が時計を見る。
「そういえばさ」
「ん?どうしたのだ?」
「もうすぐ夏休みだよね」
「夏休み!」
ゆいの目が輝き、体が前のめりになる。
「ついに来るか……!」
「そうなんだよ。せっかくだし何かしたいよね」
「賛成だ!」
女子組二人で共鳴してる。
「海!」
「この前行ったばかりじゃないですよ」
「ならば山だ!」
「暑そうだな」
小説を読んでいた春斗が即答する。
「ならば祭り!」
「それいいね!」
「夏祭りだ!」
ゆいが椅子の上に立ち上がる。
柊一もページをめくる手を止めて頷く。
「予定が合えば、皆さんで行くのも楽しそうですね」
「だろう!」
ゆいが嬉しそうに笑う。
春斗は三人を眺める。
学校が終われば、しばらく会わなくなる。
――そう思っていた。
けれど今は。
「ここの街の海沿いで夏祭りがあるらしいぞ」
机の上に夏祭りのページを開いたスマホを置く。
「おお!」
「それいいじゃん!」
ゆいと茜が興味津々にスマホを覗き込む。
「別にそこまで喜ぶことじゃないだろ」
「我々の部隊は夏を征くのだ!」
「まだ何も決まってないけどね」
茜が笑いながら言う。
四人の声が、放課後の教室に響いていた。
もうすぐ、夏休みが始まる。
そして――
四人の夏も、始まろうとしていた。




