十四話 皆さんの温かさに救われる
部屋のベランダからは綺麗な月が見え、風流のあるししおどしの竹の音が聞こえる。柊一はその二つが思う存分楽しめる椅子に座っていた。
「気が向いたら来いよ」
春斗はその言葉を残し、部屋を去る。
「分かっていますけど」
柊一は立ち上がり、椅子の周りをソワソワしながら歩く。
ふと、月を見ると顔に潮風があたる。
冷たい。でも、その冷たさが今は心地よい。ずっとここに居たいくらいには。
春斗が消えた扉を見るとさまざまな感情が湧いてくる。どうしたらいいかはわからない。だが、今こうした方がいいと思ったから。
柊一はベランダに通じる窓を閉めた。
◇◆◇
「遅い!!」
座卓の上に広がっているお菓子を食べながらゆいは愚痴をこぼし、その目の前では春斗と茜がゲームをしていた。
「柊一君のこと?」
「そうだ!」
ゆいが目を見開き、はっとする。
「もしや、闇の軍勢に襲われて……」
「それは無い」
春斗がゆいの発言をバッサリと切り捨てる。
「終わったら、連絡してみるか」
「そうしよっか」
◇◆◇
旅館の大広間で柊一の考えが止まらない。
自分が来てみんなは本当の意味で歓迎してくれるか。もう、お開きになっていないか。何も無いが、それがむしろ不安になっていく。
「柊一!!」
声に呼ばれ振り向く。その方向には元気に手を振るゆいと茜がいた。
「よかった〜。連絡しても出ないから何事と思ったよ」
「それはすいません」
手元のスマホに目をやるとすごい数の通知がきている。
「さぁ!行こう、柊一!!春斗が追加のお菓子を買ってくるから一緒に食べようじゃないか!!」
ゆいはすごく笑っている。純粋無垢な笑顔。何も裏がないように、それが本心のように。
「今日も疲れてるなら先に休んでもいいよ」
「そうなのか?それなら……」
柊一がベンチから重い腰を上げる。
「せっかくですから。お邪魔しますよ」
ゆいと茜の部屋の前。2人を先頭に扉は開かれる。
自分たちの部屋とは違いベランダではなく露天風呂、そして和室まである。
「なぜか、自分たちの部屋より立派ですね」
「それ、春斗君にも言われた」
和室の中心には座卓がある。
その周りには、座布団が四枚。一枚だけ余っているわけじゃない。
最初から、四人分。
ゆいと茜が現れた春斗の荷物を持ちに行く。その間に柊一は和室の情景に浸る。
「……自分の席もあったんですね」
「柊一?何か言ったか?」
振り返り、皆を見る。
「なんでもありません」
◇◆◇
修学旅行、最終日。
瀬長島。
夕暮れ時。
オレンジ色に染まる海辺には、多くの人が腰を下ろしていた。
「ここで何をするのだ?」
ゆいが首を傾げた、その時。
ゴォォォォッ——!!
頭上を、巨大な飛行機が横切った。
「うわぁ……!」
茜が目を輝かせる。
「翼ある魔獣だ!!」
「飛行機だよ」
「空を征く鋼鉄の巨鳥……!」
「言い方変えただけだろ」
ゆいは空を見上げたまま、目を輝かせていた。
夕焼けの中を飛んでいく飛行機。
それを四人並んで見送る。
「……帰るんだな」
春斗がぽつりと呟いた。
「少し寂しいですね」
柊一が言う。
「いつか、また来れるよ」
茜が笑う。
「うむ!次は沖縄制覇だ!」
「何回攻略する気だよ」
いつものやり取り。
でも。
その何気ない時間が、少しだけ愛おしく思えた。
◇◆◇
帰りの飛行機。
「離陸だ!離陸するぞ!」
「昨日も乗っただろ」
「我が魔術でもここまでは行けないぞ!」
窓際ではしゃぐゆい。
茜はそんなゆいを見ながら笑っている。
柊一は静かに本を閉じた。
やがて。
飛行機は雲の上へ出る。
窓の外には、白い世界が広がっていた。
「……なぁ」
「なんだ?」
ゆいが春斗を見る。
春斗は窓の外へ視線を向けたまま。
「……悪くなかったな」
一瞬。
ゆいは目を丸くした。
そして。
「当然だ!」
胸を張る。
「我ら最強部隊の修学旅行だからな!」
「勝手に部隊にするな」
「否定できてないぞ!」
「してるだろ」
笑い声が上がる。
飛行機は、故郷へ向かって飛んでいく。
楽しかった時間は終わる。
でも。
きっと、終わりじゃない。
春斗は隣を見る。
騒がしい仲間たち。
少し前の自分なら、想像もしなかった景色だった。
「……また、どこか行くか」
ぽつりと漏れた言葉。
「うむ!」
ゆいは即答した。
「次なる魔境へ!」
「今度はどこだよ」
「それはこれから決めるのだ!」
その声に。
春斗は、小さく笑った。
窓の外には、どこまでも空が広がっていた。




