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厨二少女に振り回される毎日が気づけば俺の青春になっていた  作者: あすあす


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13/19

十三話 青の世界で君を待つ

 修学旅行一日目の夜。


 旅館での夕食と大浴場を終え、それぞれの部屋へ戻った頃。


——————————


皆の衆!!作戦会議をするそま!!


ok


すいません。今日疲れてしまっ

たので早めに休みます。

三人で楽しんでください。


なら、集まるのは私達の

部屋にしよう‼️


                    ok


柊一くんはおやすみ


                 おやすみ


 世界を救いし英雄がメッセージを削除しました


ゆっくり休むのだぞ!!


お先に失礼します。

——————————


 春斗はスマホをポケットにしまい小さなバックに少しの荷物を詰め始める。


「本当に来ないのか?」

「疲れたので、今日は遠慮します」

 

 いつもの笑顔。


 でも。


「……本当か?」


 春斗が訊ねる。だが、返ってくるのは少しの沈黙だけ。


「皆さんといるのは楽しいんです」


 ぽつりと。


「しかし、自分は本当にあそこにいて居てもいいのか疑問に思ってしまうんです」

「……」

「皆さんの中に自分と言う異物が入ってしまってもいいのか」


 春斗は返事をしない。


「気を使わせてしまっているのではないでしょうか」


 ただ、隣に立つ。


 数分の沈黙。


「……別に」


 重苦しい空気に耐えられず春斗が口を開く。


「来ても来なくてもいいと思う」

「え?」

「無理して来る必要もないし、一人でいたいなら、それでいい」


 ぶっきらぼうな声。


「でも」


 少しだけ視線を逸らす。


「あいつらは待ってるぞ」

「……」

「それにゆいが今まで柊一に言った言葉は全部本心だと思う」


 あいつは間違いなく騒いでいるだろう。


「茜も、たぶんお前の分のお菓子とか用意してる」


 柊一は黙ったままだった。


「だから」


 部屋の扉に手をかける。


「来るかどうかは、お前が決めろ」


 その背中に。


「……ずるいですね」


 柊一の声が一つ。扉は開いたままで、春斗を消していった。


◇◆◇


 二日目。


「じゃあ行くか」

「そうですね」

 

 春斗と柊一が旅館を出る。出入り口の目の前の鯉の池にゆいと茜がいた。


「やっと来たか!!」


 ゆいと茜が2人を見つけ駆けてくる。


「自由行動どこ行く〜?」

「決めてなかったのですか!?」


 柊一が少し驚く。


「ああ、柊一が居ない中決める訳ないだろ!」


 ゆいが当然のように言う。


 柊一が少しだけ目を瞬かせた。


「我らは四人で一つの部隊だからな!」

「勝手に部隊にするなよ」


 春斗が呆れたように返す。


 しかし、ゆいは気にしない。


「まずは水族館だ!海の魔獣達が我らを待っている!」



◇◆◇


 美ら海水族館。


「見ろ!ヒトデが我が手の届く範囲に!」

「触ったらダメだからね」

「こんなに近くにいるのにもどかしいものだ」


 館内へ進む。


 ガラスの向こうを流れる青い世界。


 差し込む光が水面に揺れている。


「おぉ……」


 珍しく、ゆいが言葉を失っていた。


 熱帯魚の群れが目の前を横切る。


 黄色。青。赤。絵の具を溶かしたような色彩が、水の中を自由に泳いでいた。 


「海の中ってこんな感じなんだね。」


 茜が感心したように呟く。


「沖縄周辺は世界でも有数のサンゴ礁地帯ですからね」


 柊一がさらりと説明した。


「つまり海底王国か!」

「そういう解釈もできますね」

「できるのかよ」




 そして。


 巨大な水槽の前で。


「……すごいな」


 ゆいが、ぽつりと呟いた。


 巨大な影が、音もなく頭上を横切った。


 尾びれが一度揺れるたび、水そのものが呼吸しているように見える。


 あまりにも大きくて。


 ガラス越しなのに、一歩後ずさりたくなった。


 まるで空を飛ぶ飛行船。


 ガラス越しに見ているだけなのに、圧倒される。


「なぁ春斗」


 ゆいが視線を前に向けたまま言う。


「なんだ」

「世界って思ったより広いな」


 ぽつりと漏れた言葉。


 春斗は少しだけ目を見開いた。


 ゆいは相変わらず楽しそうだった。


 けれど、その瞳はいつもよりずっと遠くを見ていた。


「……そうだな」


 それだけ返す。


 青い光が四人の顔を照らしていた。


◆◇◆


 海が一望できるテラス席。四人は潮風に当たりながら沖縄料理にありついていた。


「次はどこ行く?」


 茜はスマホを机の上に置き【沖縄 旅行 おすすめ】と検索しスマホをスクロールし続ける。


「ほほいはい、ふひひひふは?」

「食べ終わってからしゃべれ」


 春斗がゆいにツッコミを入れると、柊一の目が少し見開いたように見えた。


「柊一、何か気になったか?」

「えぇ。いや。そこまででも」

「どこらへん?」

 

 少し遠慮気味に柊一は答える。


「いや。皆さんの行きたいところで大丈夫ですよ

」

「行こう!柊一の行きたいところに!!」


 ご飯を飲み込み終えたゆいのまっすぐな目が柊一に突き刺さる。


 少し考えた後、茜のスマホでウェブページにはいる。


「これが気になりました」


 他の三人がスマホを覗き込む。


「お〜。いいね」

「予約厳しくないか?」

「まあ!!行ってみるぞ!!皆で!!」


◇◆◇


 水上のボートでインストラクターの説明を受けながら、春斗は海を見る。


「……意外だな」

「何がですか?」

「こういうの、動くタイプは苦手だと思ったよ」


 柊一は少し考えてから答える。


「そうかもしれません」

「なら、なんでだよ」


 少しの沈黙。


 そして。


「海の中を見てみたかったんです」


 柊一は沖の方を見る。


「本で読んだことはたくさんあります」

「……」

「でも、本で知ることと、自分の目で見ることは違いますから」


 いつもの穏やかな声。


「だから、皆さんと見てみたいと思いました」


 その声にはどこか期待が混じっていた。


「春斗ー!柊一ー!」


 少し先で、ゆいが大きく手を振っていた。


「早く来い!魔海の探索を始めるぞ!」

「置いて行っちゃうよ〜」


 茜も笑っている。


 春斗は、小さく息を吐いた。


「……行くぞ」

「はい」

「せっかく、お前が行きたいって言ったんだからな。楽しむぞ」

「もう楽しんでます!」


 柊一は一瞬だけ目を見開く。


 それから。


「ありがとう、本当に」


 いつもより少しだけ柔らかく笑った。


 そして、その笑顔が見えた瞬間、景色が変わった。


 際限なく続く青の世界。


 水の中では喋れないし、プールで泳ぐよりも不思議な感覚。


「……!」


 魚を見つけたゆいが、全力で指を差す。


「!!」


 次は珊瑚。


 そして。


「!!!」


 何かを見つけるたびに大げさなリアクション。


 声は出ないのに、何を言いたいのか全部伝わる。


 春斗は思わず笑った。


 その隣で茜も笑っている。


 柊一も微笑んでる。


 ゆいは頬を膨らませた。


 水の中では声は届かない。


 それでも、不思議と何を伝えたいのかは全部わかった。


 青い世界の中で、春斗は小さく笑っていた。


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