41✤騎士
夫人は、私たちを晩餐に呼んでくれた。
他の客はいないし、旅の途中なのだから服装は気にしなくていいと配慮してくれたのもありがたい。
「主人が留守でご挨拶できなくて残念です。明日には戻ってくると思うのですが」
そこでふと、何を思ったのかロドリックが急に尋ねる。
「あの、おかしなことをお尋ねしますが、この国で騎士というのはどのような立場なのでしょうか?」
これを訊いた時、夫人は意味がわからないとばかりにきょとんとした。
「騎士ですか? かつてはそういう方々もいたそうですけど、今となっては形ばかりですね」
「騎士団が王様をお守するというようなことはないのですか?」
「ええ。王様は最も強い力を持つ魔法使いですから。むしろ民が王に守られている方です」
ロドリックは何を知りたくなったのだろう。
魔物の討伐に魔法使いだけではなく騎士が当たればいいと考えたのだろうか。
「ちなみに、カーディフという人物を知っていますか?」
この質問にも夫人は首を傾げていた。
「どなたでしょう? ごめんなさい、存じ上げなくて」
「いえ、どうぞお気になさらないでください。おかしなことばかり尋ねてすみません」
そう言って、ロドリックは急ににこりと友好的に微笑んだ。社交場の女性たちに受けの良い、その顔で。
夫人はもともと優しい人らしく、気分を害したりはしなかったようだ。
そんなロドリックの質問の意図に私が気づいたのは、客室に落ち着いてからだった。
「そういえば、あの時……森の中で亡くなっていたのは誰だったのかしら?」
ベッドに腰かけてつぶやくと、サディアスがベッドにダイブして飛び跳ねた。
「何? 何があったの?」
あの時はまだいなかったのだから、わからなくて当然だ。簡単に、サディアスに説明してあげる。
「甲冑を着た騎士のような人の遺体が森にあったの。あの時は必死で深く考えられなかったけれど……」
ロドリックはその騎士の剣を拝借して魔物を倒したのだ。
今になってその意味を考え始めた。
ロドリックは私よりもずっと引っかかっていたのだろう。
「一人みたいだったな。馬に乗ってきて、馬だけ走り去ったのかと思ってたんだが。今となっては騎士団なんてないみたいだし、じゃああの人はいつの時代の人なんだろう?」
「確かに、かなり古典的な装備だったわ。今の騎士ってあんなに重装備じゃないはずよね?」
私たちの国には騎士団があるし、騎士もいる。ただし、もっと軽装だ。あんなフルメイルで動ける人がどれくらいいるだろう。
そこでロドリックはサディアスに目を向けた。
「スターレット王国には騎士がいないなら、あの騎士は俺たちと同じところから来たとか、そんな可能性はないか?」
これを訊いた時、サディアスは口を曲げた。
「そんなの知らないよ。僕がなんでも知ってると思ったら大間違いさ。ぼくは魔法使いの使い魔であって騎士とは縁がないんだからね!」
威張って言われたが、それも仕方がないのだろう。そもそも、サディアスは野良なのだし。
――けれど、何かがずっと私の中で引っかかっている。
それがなんなのか、上手く言葉にできない。
大したことでなければいいと思うのだけれど。
翌朝になって別れる時、夫人は私たちとの別れを惜しんでくれた。
ほんの少ししか接していないけれど、この人はこれまで会った魔法使いの中で一番善良だったと思える。
「あなたがいてくれて苦しむ人が減りました。本当にありがとう、ヴァイオレットさん」
私の手をギュッと握って、心を込めて礼を言ってくれた。それなのに、偽名なのが申し訳ない。
「いいえ、大したことはできないままでごめんなさい。もう襲われる人が出ないといいのですが……」
すると、夫人はそっと微笑んだ。
「余計なお世話だとは思いますが、あなたは無理をし過ぎるところがあるようです。自分は大丈夫だからと言わず、ちゃんとご自分を労わってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
思わず苦笑してしまったら、夫人は私を抱擁し、耳元で柔らかく囁いた。
「大事にしてくれる方がいるのですから、もっと甘えていいのでは? 自分の気持ちに正直になるべき時が来ていると思いませんか?」
「……っ!」
私が動揺した途端に夫人は体を離し、まるで聖母のように微笑んだ。
そんなにも私の心は筒抜けになっているのか。
それとも、夫人が特別鋭いだけなのか。
なんにせよ、ロドリックの顔が見られなかった。夫人のもとを去ってからも、ロドリックの隣を歩く足取りがぎこちない。
「ミシェル、まだ疲れが取れてないんじゃないか?」
そんな心配をされてしまって、慌てて首を振る。
「そんなことないわ。気にしないで」
その言い方では素っ気ないなと自分でも思う。可愛げはどうやったら身に着くのだろう。私には難問だ。




