第9話:時をかける聖女
◇◇◇
#1 夜明け前、神楽市 — “異常な揺れ”
永瑠に追い回されていた蒼真は、息を切らしながら公園のベンチに倒れ込んでいた。
蒼真
「つ、疲れた……
殺されかけた……
吸血されかけた……
なんで俺の人生こんな急にハードモード……」
永瑠(隣に座る)
「……落ち着いた?」
蒼真
「いや無理だよ!?
落ち着ける要素どこ!?」
永瑠
「ちゃんと我慢したでしょう。ほめて。」
蒼真
「ヒロインが言うセリフじゃないよそれェ!!!」
永瑠は無表情のまま、蒼真の腕をちらりと見る。
永瑠
(……まだ美味しそう……)
蒼真
「見てるーーー!!血管見てるぅーー!!」
永瑠
「大丈夫。ほんの少しだけなら——」
蒼真
「ほんの少しが命取りなんだよ!!」
そんな騒ぎの最中。
ズゥゥゥゥン……!
大地が震えた。まるで巨大な鐘が地球ごと鳴らされたような、低く重い音。
蒼真
「な、何!?地震!?またモンスター!?」
永瑠
「……違う。これは——」
空に“光の柱”が立ち、その中心から、ゆっくりと一人の少女が降りてきた。
◇◇◇
#2 “聖女ノア” 現代に降臨
少女が地面に降り立つと、空気が水のように揺れた。
白銀の髪。雪のように純白のローブ。瞳は天空のように淡い青。
蒼真
(す……すご……神様……?
いや、なんかゲームのラスボスみたい……
いや違う、なんか透明感ヤバ……天使……?)
ノアは二人を見て、小さく微笑む。その笑顔だけで、周囲の光が柔らかに輝き出すようだった。
ノア
「お二人とも無事でよかったです。
時空の歪みの中心に居たので、心配しました。」
蒼真
「あ、あなたは……えっと……その……」
ノア
「あちら側の聖女です〜。
数億年前の世界から来させていただきました。」
蒼真
「……えっ?数億年前?」
ノア
「はい。向こう側から来ました。でも、“現代”のことは、ほとんど分かりません。」
蒼真
(向こう側?……あれ、でもなんかスキルが……反応して……!?)
永瑠はノアを睨むように見つめる。
永瑠
「で、何しに来たの。この街は“あなたの時代の未来”よ。あなたが見えていない“歪み”がここで起きてる。」
ノア
「だから来たんです。私の観測の“外側”で何が起きているのか、確認するために。」
永瑠
「……癪に障る喋り方ね。」
ノア
「なんだか、不機嫌そうですね。」
永瑠
「別に。血が足りないだけ。」
蒼真
「えっと……、会話が怖いんですけど!?!?」
永瑠
「言ったでしょ、私は不死よ。
そして、あの異世界は、過去のものよ。」
◇◇◇
#3 ノア、蒼真を見る
ノアはゆっくりと蒼真に近づき、その瞳は心の奥を覗くような深い青を帯びていた。
ノア
「……あなたが、雪村蒼真さんですね。」
蒼真
「は、はい……
(なんかこの子……空気が綺麗すぎて息苦しい……
天使かよ……いやマジで何者……)」
ノアは歩み寄り、蒼真の胸の前にそっと手をかざした。
永瑠
「触らないで。」
ノア
「大丈夫です。少しだけ“視る”だけ。」
蒼真
「み、視るって何——」
ノアの瞳が淡く光った。
ノア
「やっぱり……あなたの魂……“光の騎士”の核……まだ眠っています。」
永瑠の表情がわずかに曇った。
永瑠
(……やっぱり。でも……本人に伝えるのは……早い……)
蒼真
「俺の中に……光の騎士って一体……?」
ノアは優しく微笑む。
ノア
「心配しないでください。
あなたは、まだ“ただの高校生”です。
……今のところは。」
蒼真
「今のところ!?
ちょ、今のところって何!?」
永瑠
「そのうち思い出すわよ。嫌でも。」
蒼真
「いやァ、丁重にお断りいたしますぅぅーーーー!!!」
◇◇◇
#4 三者会合 — とんでもない事実だけ増える会議
ノア
「蒼真さん。
まずお伝えしなければいけないことがあります。」
蒼真
「な、なに……?」
ノア
「昨夜現れた獣“インヴェーダー”は、
あなたたち二人の“力”を確認しに来た存在です。」
蒼真
「え、あいつスカウトじゃなくて面接官だったの……?」
永瑠
「どんな面接よ。死にかけたわよ。」
ノア
「そしてもう一つ。
あなたたちが倒したのは……
“前触れ”にすぎません。」
永瑠
「……来るのね。“あれ”が。」
ノア
「ええ。
時空の裂け目の本体——
“世界の再崩壊の因子“プロト・アドラ”が。」
蒼真
「名前からして絶対ヤバいじゃん!!!!」
ノア
「おそらく数日以内に再出現します。
その時、わたしたち三人で対処する必要があります。」
永瑠
「なんで三人なのよ。」
ノア
「でも、このままでは——
蒼真さんが死にます。」
蒼真
「イヤアァァアアァァァァアア!!!」
永瑠
「……まぁ否定はできないわね。」
蒼真
「ヒロインぅぅぅぅ!!?」
ノア
「大丈夫です。
私が未来補正をかけますので。」
蒼真
「補正って言い方やめて……
俺の命をパラメータみたいに言わないで……」
ノア
「蒼真さんは、まだ“本来の力”を使っていません。
……その力が完全に開いた時、
あなたは世界の因果の“中心”に立ちます。」
蒼真
「説明の最低行が全部怖いんだよ!!!!」
永瑠
(……本当に、全部は言わないのねノア……
言ったら……彼は逃げ出すでしょうし。)
ノア
「では、準備を整えてください。
“あれ”が来る前に。」
蒼真
「ちょっと待って!?何も準備できてないよ!?俺明日学校あるんだけど!?」
永瑠
「学校より命が優先でしょ。」
蒼真
「正論パンチが痛い!!」
ノア
「では行きましょう、お二人とも。」
三人の運命は、ここからひとつの線へ収束していく。




