第79話:永瑠、記憶の扉
◇◇◇
#1 揺らぐ時空、沈む呼吸
蒼真:
「永瑠!!」
蒼真は、崩れ落ちる永瑠の元へ駆け寄り、その身体を抱き上げた。
永瑠の全身から力が抜け、呼吸が浅く沈む。
そのとき、蒼真の魂の記録“アーカ・メモリア”と、永瑠の身体の異質なエネルギーが、接触した。
――永瑠の魂の器の奥深くへ、ウィンターの記憶が、堰を切ったように激しく流れ込む。
◇◇◇
#2 魂の記録
突然、世界が砕け、視界は蒼白な雪原へと切り替わった。
雪が、ゆっくりと、しかし容赦なく舞い降りる。
赤い血飛沫が、青白い雪の上に鮮やかなコントラストを描いて散る。
時間が、止まったように感じられた。
声が聞こえる。遠い過去の声。
アリア:
「ウィンター……生きて……また、逢えるから……」
血を吐き出しながらも、アリアと名乗る女性は、慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。
その顔は、永瑠の面影を持つ、別人の顔。
ウィンター:
「アリア……やめろ……やめてくれ……!!」
ウィンターの悲鳴が喉でつかえる。
彼女は微笑んで、まるで雪が崩れるように静かに、ウィンターの腕の中で、朽ち果てた………
ウィンター:
「アリアぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
膝をつき、絶叫するウィンター。
その手が握りしめるのは、ただの雪ではなく、愛する者の身体と血に染まった雪だった。
◇◇◇
#3 数億年の回帰
永瑠:
「……ウィ……ン……ター……?」
永瑠が、雪原で見たその名を言葉にした瞬間、幻影の世界が砕け散り、意識は激しく現実に引き戻された。
蒼真:
「永瑠!!」
蒼真の声が、遠くから響く。
永瑠の身体は、蒼真の腕に強く抱きしめられていた。
蒼真:
「永瑠!しっかりしろ!!」
永瑠の瞳が激しく震え、その目尻から、一筋の温かい涙がつぅっとこぼれる。
永瑠:
「……っ……蒼真……」
その涙は、数億年分の痛みと喪失を含んでいた。
永瑠:
「あなた……ずっと……」
蒼真は言葉を失う。
永瑠:
「……会いたかった……!!」
「何度、生まれ変わっても……探していた……」
永瑠の言葉を聞いた瞬間、蒼真の胸の奥で、夢の中で見た激しい痛みの残滓が走った。
それは、アリアを失ったウィンターの魂の悲鳴。
蒼真:
「それ、は……アリアの……記憶……」
気づけば蒼真の頬も濡れていた。
二人はまだ、すべてを思い出してはいない。
だが――
二人の魂だけは覚えていた……。
光の騎士とネオヴァンパイアの血を引く娘が、数億年の輪廻の果てに、かつての愛の記憶を共有し、再び巡り会ったことを――




