第80話:永瑠、数億年の孤独
◇◇◇
時は流れる
白い雪が降っていた。
蒼真の腕に抱かれた永瑠が目を開いたとき、その意識はすでに現実から外れていた。
そこは、数億年の孤独をさまよい続けた魂の記憶の深淵だった。
雪の街。
血の匂いのする城。
燃え上がる戦場。
どの時代にも、永瑠だけが変わらない。
同じ姿のまま、同じ孤独を抱えて、ただそこに立っていた。
「……私は、なにを探していたんだっけ……」
誰にも届かない、永瑠だけの声だった。
彼女は死ねない。
傷は癒え、痛みは薄れ、時間さえ救いにはならない。
終わることだけが許されず、永瑠は何度も膝をついた。
雪に埋もれた廃都で。
血に染まった城の跡で。
炎に包まれ、崩れた大地で。
「……寒い……」
凍えているのは身体ではない。
心だった。
「誰もいない……誰も……」
名前も、目的も、意味も忘れ、彼女はただ“生きてしまう”だけの存在になっていた。
◇◇◇
永遠の命に差した一筋の光
不意に視界が歪んだ。
「……ここ……?」
景色は、神楽高校の教室へと変わる。
その瞬間、永瑠の胸が――初めて痛んだ。
知らないはずなのに。
どうして、こんなにも。
隣の席に座る少年を見た瞬間、永瑠は息を呑んだ。
「……見つけた……」
意味も理由もない。
ただ、永遠の孤独に初めて差し込んだ光だった。
「忘れていた……
私、ずっと……
誰かを……探していた……」
顔は思い出せない。
名前もわからない。
けれど、探し続けていたという痛みだけが、確かに胸に残っている。
「今なら……わかる……
あの時の私……
本当は……」
瞳から、一筋の涙が落ちた。
蒼真と出会い、心が躍る日々を知った。
だから今は、死ぬことが怖い。
雪が溶ける。
止まっていた時間が流れ出す。
世界が反転する。
そして――今。
「蒼真……」
現実へ引き戻される直前、永瑠は小さく呟いた。
「……会いたかった……。
ずっとずっと……探してた……!!」
◇◇◇
愛の反逆の誓言
永瑠は瞳を開き、蒼真を見つめた。
「記憶にはない永遠の命の中で……やっと出会えた。
心が躍る、死ぬのが怖いほど楽しい毎日……
あなたと出会って、私は初めて――生きたいと思った!!」
その言葉は、蒼真の胸の奥深くにまで届いた。
ウィンターとしてアリアを失った痛みと、今ここにある愛が重なり、胸を震わせる。
蒼真は永瑠の顔を両手で包み込み、その瞳を真っ直ぐに見つめた。
「……気が遠くなるほど長い間、孤独だったんだろ」
「……永瑠」
「お前は、これからどうしたいんだ……」
大粒の涙が、永瑠の瞳からあふれ落ちる。
数億年の孤独を突き破るように、彼女は魂の底から叫んだ。
「生きたい!!!!!」
「蒼真と一緒にいたい!!!!!!」
その叫びを聞いた瞬間、蒼真の目からも涙があふれた。
「ずっと一人でいさせて、ごめんな!」
「寂しかったよな!」
「辛かったよな!」
「遅くなって、ごめんな!」
蒼真は永瑠を強く抱きしめ、震える声で言う。
「もう二度と!!
俺がお前を一人になんてさせない!!!
約束する!!!!!」
永瑠はその腕の中で、愛と解放の涙を流し続けた。




