第70話:竜の巣二日目 ― 涙の理由
◇◇◇
#1 二日目の開始
瀕死28回目。
地底の巨大な空洞に朝日が差し込むことはない。
だが、蒼真の身体は「夜明け」を勝手に覚えていた。
全身を貫く疲労と痛みによって強制的に意識が浮上し、眠ることさえ許されない。
蒼真:
「……っは……はぁ……まだ……身体が……重い……」
すでに肉体は限界を超えている。
Lv. 5の身体が、これほど高密度の死と再生を繰り返せば、魂そのものが擦り切れてもおかしくはない。
だが――それが、永瑠の元へ帰れない理由にはならない。
蒼真:
「……やるぞ…!」
全身が悲鳴を上げる中、蒼真は再び大地を蹴って走り出す。
エンシェントドラゴンは、そのわずかな動きを察知し、ゆったりと尻尾を振りかざした。
咄嗟に、未来予測が示した岩陰へ飛び込む。
ズガァァァァアアアアアアアア!!!
衝撃波だけで、蒼真が隠れた巨大な岩が砕け散る。
蒼真:
「はぁ、はぁ……こんな所で……」
岩陰を飛び出し、再び竜の巨体へ向かって走り続ける。
蒼真:
「……アイツの孤独に比べたら……!」
ズガァ!!
わずかな魔力と判断の遅れ。
尾撃をまともに受け、蒼真は地面を数メートル転がって泉へ這う。
指先が水に触れた瞬間、肉体が再構築される焼けるような痛みが全身を駆け抜けた。
蒼真:
「っ……こんな……もん……なんて事……ねぇんだよ!!」
彼は、血走った目と震える足で立ち上がった。
◇◇◇
#2 永瑠とノア ― 眠れない地上
砦前。
永瑠は、蒼真が落ちてから一睡もしていなかった。
夜通し、穴を覗き込み、何か変化がないか見つめ続けている。
握りすぎた爪が手のひらに食い込み、小さな血が滲んで赤く染まっている。
永瑠:
「……蒼真……返事してよ……」
ノアがポーションとブランケットを片手に、静かに近づく。
ノア:
「永瑠さん……少し休んでください。このままでは、あなたの身体が持ちません」
永瑠は首を横に振る。
永瑠:
「できるわけない……!」
声が震える。
永瑠:
「……だって……あいつ……
絶対、私を一人にしないって……言ってくれたのに……!」
ノアは、永瑠の震える肩にそっと触れた。
ノア:
「蒼真さんは……あなたが思う以上に強いです。彼はきっと……」
永瑠は、ノアの言葉を遮った。
永瑠:
「……言わないで。信じたら……もし違ったら……崩れるから」
ノアは、それ以上何も言えなかった。
信じることは、同時に絶望の淵へ落ちるリスクを背負うことだと知っている。
二人はただ、冷たい風と、蒼真が消えた穴を見つめ続けた。
◇◇◇
#3 孤独の共感と魂の叫び
地底。
瀕死の再生を繰り返し、蒼真は泉の縁にとうとう崩れ落ちた。
もう立ち上がる力さえ残されていない。息は荒く、胸は焼けつくように痛む。
そんな中――ふと、永瑠の顔が浮かんだ。
泣きそうな目で、それでも強がって笑っていた、あの日の永瑠。
蒼真(心の声):
「(……絶対に帰る。永瑠のところに)」
だが頬を伝う熱いものに気づき、蒼真は言葉を失った。
蒼真:
「……なんで……泣いてんだよ……」
止めても止まらない。泉の水に落ちる涙の雫。
震える声で呟く。
蒼真:
「永瑠……」
拳を握り、唇を噛む。
蒼真:
「……お前……こん…な……こんなに苦しかったんだな……」
痛み。
恐怖。
孤独。
助けなんてどこにもいない、暗闇の世界。
蒼真の涙は、泉に落ち、波紋を広げた。
その涙は、身体の痛みからではない。
永瑠の魂の叫びに、心底から寄り添う共感の涙だった。
蒼真:
「たった一人で……
何百年も……何千年も……こんなのに……耐えてたのかよ……」
胸が締めつけられ、吐き出すような嗚咽が漏れる。
これは、負けの涙ではない。
これは、寄り添う涙。
蒼真は震える足で立ち上がった。
蒼真:
「……だったら……立てよ、俺……」
焔生を握りしめる。足は限界を超えて震えている。
それでも――前へ。永瑠の孤独を終わらせるために。
蒼真:
「永瑠の孤独に比べたら……こんなもん……」
そして、全身の魂を絞り出すように叫ぶ。
蒼真:
「どーってこと……ねぇーだろうがよぉ!!!!」
その叫びは、地底全体を激しく震わせた。
エンシェントドラゴンの金色の瞳が、初めてわずかに細まった。
その眼差しは、最早「獲物」を見るものではなく、「覚悟」を測るものに変わっていた。




