第71話:60回の死線と“界”の気配
◇◇◇
#1 ダンジョン捜索隊
地上では、永瑠の心配に応えるべく、ギルド長 レイを中心に蒼真の捜索が行われていた。
ノア、数名の熟練冒険者が加わったチームは、ダンジョンの最深部近く、異様な魔素の濃度を放つ大穴の前に立っている。
ギルド長レイ:
「これが、竜の巣か……。
ノア、何か観測できないのか?」
ノアは小さく首を横に振る。
ノア:
「はい。深すぎるのと、魔素が強すぎて観測不能です。
おそらく、この先に通常の空間法則が適用されない領域があります」
永瑠は穴の底を覗き込むように立ち尽くし、きつく拳を握る。
永瑠:
「蒼真……」
レイ:
「どちらにせよ、ここから手を出すのは無理だ。他の道を探すしかない」
戦士:
「地下階層へ、より深く潜るしかないだろうな。どこかで合流できる道があるかもしれない」
レイ:
「よし、ここからは二手に別れて――」
ノアは永瑠の肩にそっと手を置いた。彼女の心臓の鼓動が異常に速いことに気づいている。
ノア:
「永瑠さん……ご心配はわかりますが、今は信じて、いったん体勢を立て直しに行きましょう」
永瑠は何も言わず、ただ穴を見つめるばかりだった。
◇◇◇
#2 地底・60回目の再生
巨大な地底空洞。
淡く光る回復の泉の前で、蒼真はまた倒れていた。
泉の水が自動的に骨を繋ぎ、肉を盛り、魂の傷まで修復する。
これは、今日60回目の再生だった。
蒼真:
「……うぅ……また……死にかけた……」
息を吸うだけで肺が焼ける。全身が鉛のように重い。疲労は回復しない。
エンシェントドラゴンは微動だにせず、ただそこに在る。蒼真が立ち上がろうとするたび、優雅で、それでいて致命的な攻撃をゆったりと繰り出してきた。
蒼真:
「お前……わざと速度を落としてるだろ……舐めんなよ……!」
蒼真の挑発に、ドラゴンは無言のまま応える。巨大な尾が空気を切り裂き、広間全体を揺らす一撃が放たれた。
ドガァァァァン!!
蒼真の身体は地面を激しく転がり、そのまま泉の水面へと滑り落ちていく。
◇◇◇
#3 白き空間と世界意思
泉が身体を修復する最中、極度の疲労が蒼真の意識を底へと引きずり込んだ。
蒼真(心の声):
「(つ、疲れた……もう、何日もまともに寝ていない……)」
徐々に意識は薄れてゆく――。
気づくと、蒼真は真っ白な空間に立っていた。壁も床もない、無限に広がる無の領域。
蒼真:
「こ、ここは……また、あの夢か……ウィンター、いるのか?」
声に応えがあった。
それは、彼が握るはずの愛刀、焔生の声だった。
焔生:
「苦戦しているようだな、雪村 蒼真よ」
蒼真:
「……焔生……か?……なぜお前が……」
焔生:
「今は雪村 蒼真であったな。我はお前の魂の深層に常にいる……」
蒼真は、混乱を覚えながらも問いかける。
蒼真:
「なぁ、焔生。俺に、あのドラゴンは倒せるのか……」
焔生:
「お前にアレは無理だ。その力、その理屈では」
蒼真:
「ハッキリ言うなぁ……」
焔生:
「しかし、お前にはまだ死なれては困るのだよ。お前は世界秩序を守る義務を果たさねばならぬ」
◇◇◇
#4 時空を斬る力
蒼真:
「世界秩序……ってなんだよ」
焔生の声は重厚で、あらゆる時代の記憶を背負っているようだった。
焔生:
「世界の理。この惑星は破滅と再生を繰り返すことで輪廻を保ってきた。それが絶対であり、法則は守られねばならん」
焔生:
「我はその法則を正す為に、世界そのものが生み出した世界の意思だ。」
蒼真:
「法則を正す……」
焔生:
「何億年もの昔、地球の輪廻が行われた時、その法則に従わぬ者が生まれた。新型吸血種。死を拒み、不滅の存在となったバグだ」
蒼真:
「ルシェル……」
焔生:
「奴を打ち倒し、不死というバグを修正することが、お前の責務。」
焔生:
「しかし、今のままでは神竜は倒せぬ。故に、我が力を貸そう」
蒼真:
「力!」
焔生:
「お前は、時空を斬るのだ」
声が響き渡る。
その瞬間、白い空間全体が強い光に包まれ、蒼真の意識は現実へと引き戻されていった。




