第68話:竜の泉と沈黙の地底
◇◇◇
#1 静まり返った湖底
ヤバい。
マジでしくった。
両腕は変な方向に曲がり、肋骨は何本も飛び出している。
重症すぎて痛みすらない。
痛みは麻痺して分からない。目が霞んでいく。
蒼真(心の声):
「(終わった……完全に終わった……
ルシェル倒すとか言ってる場合じゃねぇ……
この異世界って“生き返り”とかあるのか?教会?神父?に頼めばいいのか…?
フェニックスの尻尾……どこ……)」
湖の底で、蒼真の意識はぼんやりしながらも戻っていく。
ザバァ!
何とか水面まで顔を出し、岸へ向かう。
蒼真:
「がはっ……はあっ……はぁっ……!!」
手足は使いものにならず、ほぼ這って岸にしがみつく。
そして――
ビキビキビキ……
折れた骨が勝手に繋がり、肉が盛り、傷が閉じていく。
蒼真:
「……へ?」
胸を触る。
見て分かるレベルで、生命力が戻っていく。
蒼真(心の声):
「(こ、これってまさか……
ドラゴンファンタジーRPGで毎回お世話になる……“回復の泉”……!!
なんて、ご都合主義設定!!!!)」
蒼真:
「生きてたぁぁぁああああ!!!!」
全身が震えながらも、彼は泉を這い上がった。
蒼真:
「外来種の生命力、なめんじゃねぇ……」
洞窟を進むと、巨大な空洞に出る。
蒼真:
「広っ……ここ東京ドーム何個分だよ……」
そこにいる“白く輝く巨大な影”が、蒼真の思考を止めた。
【エンシェントドラゴン:Lv. 12639】
蒼真:
「……え………」
ドラゴンはただ、じっと見下ろしている。
その瞳には敵意ではなく――“審判”の光。
蒼真(心の声):
「(俺……まだLv5だぞ……?…勝てる……わけ……ねぇだろ……)」
次の瞬間。
ドォンッ!!!
“音”ではなく“風圧”だった。
翼でも、爪でもない。
ただ、エンシェントドラゴンがわずかに体勢を変えただけで、蒼真が吹き飛んだ。
ゴォォォォォォォ……!!
空気が地震のように揺れ、突風が蒼真を吹き飛ばす。
蒼真:
「ぐぅ!!こ、こいつ……黒龍が可愛く見えるレベルだぞ!!!」
だが、逃げ道はない。
蒼真:
「……やるしかねぇか……」
蒼真は焔生を握りしめ、震える脚で立つ。
◇◇◇
#2 地上・捜索本部(絶望)
永瑠とノアは、蒼真の捜索協力を得るために砦前まで戻ってきていた。
レイ:
「なに、蒼真が行方不明だと…一体どう言う……」
ノア:
「竜の巣の大穴に落ちてしましました……。」
レイ:
「竜の……巣……それは、不味いな」
冒険者:
「竜の巣って言えば、誰も底を見たことが無い、戻ってきたものもいない……」
永瑠:
「……やだ……やだ……」
永瑠の肩が震え、爪が伸びる。
捜索隊長:
「永瑠さん、危険です!引き返して!」
永瑠:
「私が一人で探しにいくわ!!蒼真が……蒼真が生きてるかもしれないでしょ!!」
すると、ギルド長・レイが永瑠の前に立った。
レイ:
「永瑠」
永瑠:
「なに……!」
レイ:
「“可能性はゼロじゃない”。
死体が上がっていない。それが全てだ」
永瑠は唇を噛む。
永瑠:
「……お願い……蒼真……生きてて……」
その声は震え、血族特有の冷たい光が瞳に浮かんだ。
希望と絶望の狭間で揺れ続けている。
◇◇◇
#3 エンシェントドラゴン(地獄の開幕)
蒼真:
「……出口は見える。けど、アイツが塞いでる……」
ドラゴンが翼を一振りしただけで――
ドォンッ!!
蒼真は壁まで吹っ飛び、
身体が地面を転がり、止まった時には骨が数本折れていた。
蒼真:
「がっ……!」
必死で這い、また泉へ。
泉に触れた瞬間、骨が繋がる。
蒼真:
「……回復の泉じゃなかったら、1分でゲームオーバーだわ……!」
ドラゴンの巨大な爪が影を落とす。
蒼真は咄嗟に跳躍。
アーカ・メモリア!
未来予測が走り、動きが“線”で見える。
蒼真(心の声):
「(速い……けど予測できる!)」
横跳び、滑り込み、斬り込み――
ギィン!!
蒼真:
「……硬ぇぇぇ!」
ドラゴンのHPバーが……1ドットたりとも減らない。
蒼真:
「マジで硬すぎ……!」
ドラゴンは首を傾げ、まるで
「ようやく1ターン目が終わったな」
と言っているかのよう。
蒼真:
「……これ、まだ“試し”だろ、お前……」
ドラゴンが満足げに低く咆哮する。
ゴゴゴ……と地鳴りが響いた。
蒼真:
「はは……嬉しそうにすんなよ……!」
蒼真は何度も死にかけ、何度も復活し、
やっと“瞬間”を掴んだ。
蒼真:
「今だっ!!」
焔生が白い閃光を放ち、
ドラゴンの鱗の隙間をなぞるように斬る。
ギィィィィンッ!!
ドラゴンの巨体が1ミリ揺れた。
蒼真:
「……届いた……!!」
だが同時に――
ドラゴンのHPバーは微動だにしていない。
蒼真:
「全然効いてねぇ……!」
エンシェントドラゴンの瞳が細まり、涼しい顔で見ていた。
蒼真:
「……マジか……」
“本気”はまだ、その向こう側だった。




