第5話:机に負けるヴァンパイア
◇◇◇
#1 翌朝の神楽高校 — この空気、平和すぎ問題
翌朝の神楽高校は、何事もなかったかのような平穏に包まれていた。
2年2組の教室には春の柔らかな光が差し込み、生徒たちの賑やかな声が響く。
蒼真は自分の席で昨日の出来事とのギャップに戸惑っていた。
(……この平穏さは何だ!?
昨日の俺、血まみれで妖刀ぶん回してたんだぞ!?
なんで今、数学のプリント配ってんの!?
人類はもっとパニックになれよ!!)
ケン
「おーい蒼真!昨日LINE無視すんなよ〜!」
蒼真
「あっ……ご、ごめん……(妖刀と話してたとは言えない)」
ケン
「まぁいいわ。今日の昼、購買パン争奪戦ね」
蒼真
(平和ァ!!!)
しかし――
ガラッ!
教室の扉が開き、空気が一瞬で凍りつく。
冬崎 永瑠が、濃い寝不足のオーラを纏って教室に入ってきた。
◇◇◇
#2 吸血鬼、朝から人間社会に適応できない
永瑠はゆっくりと、フラつきながら廊下側の自分の席へ向かう。
その時――
ガンッ!!
机の脚に足の小指を強打した。
永瑠
「……ッ……!」
蒼真
(えっ!?吸血鬼、机に負けた!?
夜はモンスター瞬殺したのに!?)
永瑠は平然を装うが、微かに体勢を崩している。
永瑠
(っ……眩しい……なんで太陽ってこんなに暴力的なの……。
朝は嫌い……眠い……血が薄い……
今朝、来るとき転んで右足強打したし……痛い……)
蒼真
(かわいい!?
いや吸血鬼だろ!?
でも歩き方ぎこちないな!?
夜の帝王モードどこ行った!?)
永瑠はようやく席に着くと、
蒼真の方向を一瞬だけ見つめた。
永瑠
「……おはよう、蒼真。」
蒼真
「あ、お、おはよう……」
クラス全員
「えっ!!!???」
ケン
「蒼真……え、え!?転校生と知り合い!?え!?え!?え!?」
女子
「雪村くん……いつのまに……!?」
蒼真
「ち、違う!知り合いとかじゃない!!
いや知り合いだけど!そういう知り合いじゃなくて!いや知り合いではあるんだけど……!」
ケン
「パニックになりすぎだろ。」
永瑠
(……この生き物、かわいい。)
◇◇◇
#3 テスト返却でバレる永瑠の“異常”
1時間目、古文の小テスト返却。
教師
「冬崎、前へ。昨日の転校初日でこの点数……すごいなぁ」
永瑠
「…………?」
永瑠の答案用紙には、見事な100点。古文の時代語すべて完璧だった。
蒼真
(いや読めるのおかしいだろ!?
平安どころか弥生レベルの文章まで分かるって何!?)
永瑠
(……逆に簡単だった。昨日の怪物の断末魔より聞き取りやすい。)
蒼真
(比較対象こわ!!)
ケン
「なぁ蒼真……冬崎さん頭いいのか?」
蒼真
「そ、そう……みたいだな……(不死だから多分、数千年勉強してる)」
◇◇◇
#4 昼休み — 二人のすれ違い、また始まる
永瑠が蒼真の席へ静かに立ち寄る。
教室
「ざわ……ざわ……」
永瑠
「……約束。」
蒼真
「……なに?」
永瑠
「今日、放課後に話すって……
“忘れたら噛む”って……言った。」
蒼真
「覚えてるよ!忘れたら噛むって君が勝手に……!」
永瑠
「じゃあいい。」
そう言うと、蒼真の目の前にあるパンをさっと奪い、去ろうとする。
蒼真
「あっ、それ俺のパン……」
永瑠
「……あなたの魂の気配、血糖値低そう。
血の供給が必要。」
蒼真
「いや食べるなって!!
血糖値関係ないから!!人間界のパン返して!!」
永瑠
「……半分あげる。」
蒼真
「優しいの!?奪ってから優しいの!?どっち!!?」
クラスの女子
「あの二人……なんか……距離近くない?」
ケン
「雪村ァ……お前昨日何があった?」
蒼真
(答えられるわけないだろ!?
昨日の俺は“刀と会話してた”んだぞ!?)
◇◇◇
#5 放課後 — 違和感は、もう笑えない
夕暮れの校舎裏。オレンジ色に染まる空の下、二人は向き合う。
永瑠は静かに言う。
永瑠
「……蒼真。
昨夜の“異変”……今日もまた起こる。」
蒼真
「えっ……今日も?」
永瑠
「空気の流れが変わった。
時空の“裂け目”が広がっている。
……感じない?」
蒼真
「分かるわけないだろ!?」
永瑠
「……私は感じる。冷たい風。血の匂い……。
それに――
“あなたの魂”の色がまた少し変わった。」
蒼真
「俺の魂に色があんの!?
え、なに、今日の私は何色?
赤?黒?ピンク?」
永瑠
「……今日のあなたは、
“蒼”に近い。」
蒼真
「名前!!?」
永瑠
「似合ってる。」
蒼真
(褒められた!?褒められた!?)
永瑠は真剣な瞳で続ける。
永瑠
「いい?蒼真。あなたは……ただの高校生じゃない。でも、“戦士”でもない。その狭間の魂。
だからこそ、私とあなたは——」
突然、風が不自然に止まる。
空気が重く沈み込む。
永瑠
「……来る。」
蒼真
「……また“あれ” が?」
永瑠
「ええ。
今度は……昨日より大きい。」
蒼真
(やば……やばいやばい……
待って、俺、まだ心の準備……
いや、昨日よりデカいって何!?
昨日ので中ボスだろ!?
今日はボスかよ!!)
永瑠は蒼真の手を強く掴んだ。
永瑠
「行くわよ。
あなたは……もう“巻き込まれた”んだから。」
蒼真
「え、ちょ、待っ――」
永瑠
「大丈夫。
あなたが逃げても、私が噛んで連れてくる。」
蒼真
「脅しやめて!!?」
二人は、再び“異変”の中心へ向かって走り出す。




