第6話:モンスター、まさかの会話型
◇◇◇
#1 神楽市・外れの河川敷 — 再び裂ける空
夜の河川敷は不気味な静寂に包まれていた。風が完全に止み、川面さえも波立たない。空気が張り詰め、重苦しい圧迫感が二人を包む。
永瑠は蒼真の手をしっかりと掴んだまま、慎重に前進する。
蒼真
(ずっと手つないでるんだが!?
いやこれ戦闘モードだからだよな!?
ちがうよな!?
“噛んで連れてくる”の流れでつないでるだけだよな!?
……手、ちょっと冷たくて柔らかい……いや落ち着け俺!!)
永瑠
(この人間……手汗……多くない?
緊張?それとも……
……あたしの手、冷たすぎた?
“死体みたい”って思われてない?
いや、でも不死だから体温が低いのは当然で……
……気にしてるかな……)
二人の心の声は、一切声に出ない。
(それがまた噛み合わない原因となっていた)
永瑠
「……着いたわ。」
空に――
バキッ!と不気味な音を立てて、“裂け目”が再び出現する。
蒼真
「……でっか……!」
昨日よりも大きな裂け目から、黒い靄が渦を巻きながら漏れ出し、そこに“何か”がゆっくりと形を取り始める。
永瑠
「……昨日の個体より強い。気を抜かないで。」
蒼真
「気を抜いてないって!ずっと緊張してるから!!」
◇◇◇
#2 現れたモンスター、想像と違った
黒い靄が収束し、四足の巨大なモンスターが姿を現した。その身体は岩と黒炎で構成され、目は灼熱の熔岩のように輝いていた。
蒼真
「うわぁ……絶対強いやつ……」
永瑠
「後ろに下がって。」
蒼真
「ま、また君が前に出るの……?
いやでも昨日の強さ見たら確かに頼もしいけど……
机とかに弱いんじゃないの……?」
永瑠
「机は特殊な素材でできてるの。」
蒼真
「なんの説明だよ!」
永瑠は獣の前に立ち、冷たく澄んだ声で宣言した。
永瑠
「……私は冬崎永瑠。魔王ルシェルの血脈。
あなたに問う。あなたは“侵食体”、ただの怪物?
それとも――言葉を話す個体?」
その瞬間。
巨大なモンスターは深い声で静かに口を開いた。
「……ああ、話せるぞ。」
蒼真
「しゃべったぁぁぁぁ!!??」
永瑠
「やっぱり。」
蒼真
「やっぱり!?なんで分かってたんだよ!!」
永瑠
「昨日の個体は思考が浅かった。でも今日は匂いが違う。
“言語”を持つ侵食体は、もっと深い怨念を持つものが多い。」
蒼真
(匂いで判断してたの!?バケモノの言語レベルを!?)
モンスター
「……お前ら、人間ではないな。」
永瑠
「半分正しいわね。」
蒼真
「いや俺は100%人間ですけど!!?」
モンスター
「……では問う。
なぜ光の騎士の魂を――
“人間の器”へ還元した?」
蒼真
「えっ、まって!?
今、なんて言った!?
光の騎士!?
俺!?俺が!?
光の騎士!?
何!?誰!?え!?手続きミス!?転生手続きの手違い!?
なんかの間違いじゃない!!?」
永瑠
「ちょ、ちょっと落ち着いて蒼真。
あなたが光の騎士かどうかは“まだ分からない”わ。」
蒼真
「じゃあ言わせんなよ怪物に!!」
モンスター
「……ふむ。混乱しているな。
だが、我らの“記憶の層”は知っている。
その刀――焔生……。」
永瑠
「……刀の記憶を読んだのね。」
蒼真
「刀ってそんな情報量だったの!?
俺、蔵で普通に触ったけど!?
もっとこう、注意書きとか貼っといてよ!!
“触ると光の騎士になります”とか!!」
モンスター
「……お前たちを試す。」
蒼真
「試験!?今!?この状況で!?
同意書とかいる?契約とかある?
俺今日筆箱忘れてきたんだけど!?」
永瑠
「蒼真。覚悟、決めて。」
蒼真
「君はもうちょっとビビってくれ!!?」
◇◇◇
#3 まさかの「戦闘の前に会話が多い」タイプ
獣は低く唸りながら、意外な提案をした。
モンスター
「戦ってもいいが……まずは“質問”だ。」
蒼真 & 永瑠
「質問!?」
モンスター
「……お前たち、人間の器と吸血鬼の混合体だろう?
我が世界には興味がある。」
蒼真
「なんでお前が興味あるの!?聞く側!?
いや普通モンスターってもっとこう……
『グォォォ!!』とかじゃないの!?
なんでインタビュー形式!?
今、河川敷で記者会見!?
なんで俺とモンスターの距離感そんな近いの!?
お前、絶対ほんとは人間好きだろ!!?」
永瑠
「……蒼真、たぶんこの個体は“知性型”。
戦うより、まず話すことで情報が得られる。」
蒼真
「情報!?
たしかに欲しいけど!!
なんで俺が中ボスと座談会しなきゃいけないんだよ!!」
永瑠
「……大丈夫。護るから。」
蒼真
「急にヒロインするなよ!!照れるだろ!!」
永瑠
(ち、……違う。ただ、あなた、弱いから……)
蒼真
「弱いって言った!?今“弱い”って言ったよね!!?」
モンスター
「……仲が良いな。」
二人
「良くない!!」
◇◇◇
#4 モンスターから提示される“謎”
モンスターはゆっくりと重々しい口調で語り始めた。
モンスター
「……世界は近づきすぎている。
お前たちの次元と、我らの次元が。
このままでは“崩壊”する。」
蒼真
「え、それ重大じゃない!?
いや待って、それ本編レベルの話じゃん!」
永瑠
「続けて。」
モンスター
「……この歪みは、“過去”から来ている。
だが過去の断層は、“記憶”と重なっている。
光の騎士の魂が呼び出されたのも……
ルシェルの血がざわつくのも……
“過去が未来を侵食している”証。」
蒼真
「え……過去が……未来を……?」
永瑠
「……観測でも説明できなかった現象……
あなたなら、理解できるかもしれない。」
蒼真
「いや理解できるわけないだろ!!
昨日までただの高校生だぞ!?
急に“未来と過去の時間戦争”とか出されても困るわ!!」
モンスター
「……では、最後の質問だ。」
蒼真
「まだ質問あるの!?
お前、ほんとにモンスターかよ!!」
モンスター
「光の騎士よ。
“再び戦う覚悟はあるか……?”」
蒼真
「いや、だから俺は光の騎士じゃないって……!」
永瑠は横で静かに蒼真を見上げていた。
永瑠
(……この人間、本当に……光の騎士なの?
でも、昨日の戦い方……刀の光……
魂の揺らぎ……全部……
異世界戦士の剣術だった……)
蒼真
「ああーーーもう!!
分からないけど……
分からないままだけど……
誰かが死ぬのは嫌なんだよ!!
俺だって怖いんだよ!!」
永瑠
(………………)
モンスター
「……その答えで十分だ。」
モンスターは一歩下がり、全身を灼熱の炎で包む。
モンスター
「では、人間の器よ……
“試練”を受けよ。」
蒼真
「結局戦うのかよおおおお!!!」
永瑠
「蒼真……構えなさい。
ここからが本番よ。」
蒼真
「やっぱり戦うんかい!!」
河川敷の空気は震え、獣の巨大な影が二人に迫る。




