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第42話:ぶっ壊れた世界

◇◇◇



#1 黒い影が、空ごと落ちてくる


日常が壊れる音

人がいない街

黒く焦げた地面

蒼真の心の空洞


雲の“裏側”に、黒い筋が走っている。

風向きも、温度も、鳥の鳴き声さえも、どこかズレている。


見上げた空に――


亀裂が走った。


ガラスを割るような鋭い音もなく、

空そのものが、静かに“裂けていく”。


蒼真(心の声)

「……来た」


ノアが教室の後ろで立ち上がる。

黄金の瞳が、一瞬で“戦場の目”になる。


ノア

「……観測完了。黒龍、本体接近――高度、急降下」


永瑠は席を蹴って立ち上がり、窓の外を見た。


そこには、

光を吸い込むような “巨大な黒い影” が、

ビル群の上を、地面めがけて落下してくるのが見えた。


蒼真

「な、なんだよアレ……冗談だろ……」


永瑠

「冗談じゃない。――あれが、黒龍」


ノア

「世界が、最後に吐いた“黒い息”です」


蒼真

「言い方が悪魔的なんだよ!!」


だが、そのツッコミでさえ震えていた。

冗談にしては、影が大きすぎた。


黒龍の輪郭が、やがてはっきりする。


無数の瞳孔。

黒煙のような鱗。

翼なのか、ただの“闇の塊”なのか判別できないシルエット。


その口元だけが、異常なほどはっきりしていた。


――世界ごと噛み砕くための顎骨。



◇◇◇



#2 最初のブレスと、ノア


黒龍の巨体が、神楽高校の上空で止まった。


一瞬、時間が止まったような静寂。


次の瞬間――

空気が、逆流した。


ノア

「――来ます。初撃です!」


黒龍の喉奥で、黒い魔力が渦巻く。

ただの火ではない。

光さえ飲み込む、“空白の炎”。


ノアは前に飛び出し、両手を広げる。


ノア

「蒼真さん!永瑠さん!後ろに!」


黄金の魔法陣が幾重にも展開される。

幾千の観測式が重なった、“聖女ノア”本来の結界。


ノア

「――《多層魂環障壁オーバー・オブザーブ・シェル》展開!」


バリアが、校舎全体を包み込むように広がる。


黒龍の口元に、“音のない黒い光”が凝縮され――

次の瞬間、それは放たれた。


ゴ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ――――


音なのか振動なのか分からない、圧の奔流。

空が焼ける。雲が一瞬で蒸発する。

世界が、白と黒だけになった。


ブレスがノアのバリアに直撃する。


ノア

「――っ!」


魔法陣がきしむ。

何十層も重ねた結界が、一瞬で半分以上砕け散る。


ノア

「だ、大丈……夫……っ――」


ひびが走る。

黄金の光が、黒い灼熱に飲まれていく。


ノア

「(……あ、)」


その小さな声は、

“あ、ダメだ”の「あ」。


次の瞬間――


バリアは粉砕され、ノアの体ごと飲み込まれた。


蒼真

「ノアァァァァァァァッ!!!」


光と闇と熱が混ざった奔流の向こう側で、

ノアの姿は、一瞬だけシルエットになり――


その輪郭が、細い線になって、

風に散る灰のように、空中に溶けた。


何も残らない。


声も。

衣も。

杖も。


ただ、その場にいた“存在”そのものが、

ごっそり抜け落ちたような、異様な空虚だけが残った。



◇◇◇



#3 ブレスと永瑠


ノアを飲み込んだブレスは、なおも続いていた。


残りのエネルギーが、真っ直ぐに蒼真へ迫る。

避ける余地も、盾も、何もない。


永瑠が、迷いなく前へ出た。


永瑠

「――蒼真、下がって」


蒼真

「は、はぁ!? お前なに――」


永瑠

「私は“不死”。

 必ず守ってあげるから――」


笑った。


それは、今まで見たどの笑顔よりも弱く、

どの笑顔よりも、強かった。


黒龍の二撃目が、空間を焼きながら迫る。


世界が赤と黒に染まり始めた、その刹那――


永瑠は、振り返る。


蒼真だけを見る。

他の誰も見ない。


その瞳は、今にも涙が零れそうなのに、

最後まで落とさない。


笑っている。

泣きそうなのに。

でも笑っている。


“怖がらせたくない”から。


“最後まで守りたい”から。


唇が震え、

息が震え、

声が、たった一言だけこぼれた。


永瑠

「……ごめん」


愛も。

感謝も。

さよならも。

もう一度会いたいも。

本当は言いたい“好き”も。


全部飲み込んで、

たった一言だけ。


その「ごめん」は、

この世界で一番、優しい別れの言葉だった。


ゴ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ――――


ブレスが永瑠を飲み込む。


世界が、赤く反転する。

蒼真の視界には――


永瑠の影だけが、くっきりと浮かんだ。


その影が、

四方へ裂ける。


薄い紙を千切るみたいに、

細い線になって――


線の一つ一つが、

小さな灰になって、舞い上がっていく。


最後まで、

永瑠の視線は蒼真を見ていた。


二人の間の距離だけが、決して埋まらないまま。



◇◇◇



#4 ひとりぼっちの世界


ブレスが終わった時――


神楽市は、形を失っていた。


校舎も。

街路樹も。

ビルも。

道路も。


全てが、“焼け残った影”と、

灰色の粉塵になっていた。


風が吹くたび、

誰かの机だったはずのものが崩れる。


誰かの椅子だったはずのものが砕ける。


誰かの教科書だったはずのものが、

ただの黒い紙屑になる。


そして――

誰かの“命”だったものは、

とっくに跡形もない。


蒼真は、膝をついていた。


皮膚は焼けただれ、

制服は焦げて破れ、

呼吸は肺を刃物で削られるみたいに痛い。


それでも、“生きていた”。


蒼真

「はぁっ、は、はぁっ……っ……!」


喉が焼けていても、叫びたかった。


蒼真

「ノアぁぁぁ!! 永瑠ぅぅぅ!!!!」


返事はない。

声も、気配も、何もない。


あるのは、

どこまでも続く“灰色の静寂”だけ。


蒼真

「……やだ」


心の中で、

子どもみたいな言葉しか出てこない。


蒼真

「やだやだやだやだやだ……!

 なんでだよ……!

 なんで、あいつらが……

 なんで、俺だけ……!」


何かを殴りたかった。

けれど、殴るものがもう、どこにもなかった。


世界が、空っぽだ。


蒼真

「……返せよ」


掠れた声が、風に紛れる。


蒼真

「返せよ……

 俺の日常も、

 教室も、

 ケンも、

 ノアも、

 永瑠も……

 全部、全部、全部……!」


胸の奥で、何かが軋む。


心臓じゃない。

もっと深い場所――

魂の、一番核の部分。


そこに刻まれていた“記憶”が、

激しく震え始める。



◇◇◇



#5 脳味噌が震え始める


世界の音が消えた。


代わりに、

頭の中に、“洪水”が流れ込んでくる。


――異世界の戦場。

――雪原での決死行。

――燃える城。

――泣きながら剣を振るう自分。

――崩れ落ちる女の背中。

――掴めなかった手。


ウィンターの記憶。


数百年、数千年分の戦いと喪失と後悔が、

一気に“今”の蒼真に重なる。


蒼真

「っ……あ、あああ……!!」


脳味噌が焼けるような痛み。

視界の端が白く染まり、

時間の流れがねじ曲がる。


黒龍が、ゆっくりとこちらを振り向く。

その動きさえ、スローモーションに見える。


蒼真のユニークスキルが発動する。

《アーカ・メモリア:臨界突破》


未来の“可能性”が、

数えきれないほど同時に視界に浮かぶ。


* 黒龍に再度ブレスを撃たれ、完全消滅する未来。

* 逃げるが追いつかれ、踏み潰される未来。

* 何もせず、ただ泣きながら終わる未来。


そのどれもが、“ほぼ確定”の運命。


でも――

その中に、たった一つだけ。


「黒龍を殺す未来」 がある。


蒼真

「……あるじゃねえか」


涙で滲んだ視界の中で、

蒼真は、歯を食いしばる。


蒼真

「脳味噌、震えっぱなしだ……

 運命だか何だか知らねえけどよ……」


拳を握る。

柄を握る。

骨が軋むまで、強く。


蒼真

「――そんなもん、俺が全部ぶっ壊してやるよ」


黒龍が口を開く。

完全にトドメを刺すための三撃目。


だが、その瞬間――

蒼真の足は、もう動いていた。


未来予測が、“脳と筋肉を直結”させる。

一歩進む前に、一歩進んだあとの情報が見える。


* どこに足を置けば、ブレスの“死角”ギリギリを抜けられるか。

* どのタイミングで跳べば、あの顎の下に潜り込めるか。

* どの角度で刃を振れば、黒龍の“唯一の核”に届くか。


蒼真

「――うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


叫びながら走る。

涙も、怒りも、悲鳴も、全部まとめて。


脳味噌が常に震えている。

心臓も肺も足も、悲鳴を上げている。


それでも、

止まらない。


蒼真

「ノアの分も!

 永瑠の分も!

 クラスのみんなの分も!

 この街の分も!

 過去の俺たち全部まとめて――」


焔生が、真紅に燃え上がる。

炎じゃない。

積み上がった記憶と後悔が、

刀身の中で“圧縮された光”になる。


蒼真

「――てめえ!黒龍……ぜってぇ……ぶっ殺す……!!!!」


だが、その意志だけは、荒々しく、魂に刻まれた。


黒龍のブレスが、

蒼真の頭上すれすれを掠める。


髪が焼ける。

皮膚が裂ける。

視界が真っ白になる。


それでも、足は止まらない。


未来予測が、“唯一の一点”を示した。


黒龍の胸元。

心臓でも脳でもない、“歪んだ因果が結びついた核”。


そこを斬れば――

この世界を焼いた黒い息は、ここで終わる。


蒼真

「――焔生(ほむすび)ッ!!」


刀が振り下ろされる。


黒龍の巨大な影。

焼けただれた地面。

崩れた校舎。

灰になった誰か。


全てが静止する中――


焔生(ほむすび)だけが、

真っ直ぐに、世界の“宿命の線”を斬り裂いた。


蒼真

「うあああああああああああああ!!!」


ズーーーーーーーーーン………


音にならない音が、世界を貫いた。


黒龍の体に、

一本の亀裂が走る。


次の瞬間、

それは音もなく崩れ落ち、

黒い粉塵となって、空へ消えていった。


黒龍は――

この“世界線”から、完全に消えた。



◇◇◇



#6 壊れてしまった今と、次の一手


静寂。


風の音だけが、世界に残される。


黒龍は消えた。

世界を破壊するはずの“黒い息”は、ここで途切れた。


……だが。


神楽市は戻ってこない。

ノアもいない。

永瑠もいない。


灰色の荒野の中心で、

蒼真だけが、膝をついて震えていた。


蒼真

「はっ……はぁ……っ……!」


黒龍は消え去った……


それでも――

何一つ、取り戻せていない。


蒼真(心の声)

「こんなの……勝ちじゃねえだろ……」


脳内には、まだアーカ・メモリアの残響が残っている。


未来の断片。

過去の断片。

選ばなかった可能性たち。


その奥の、もっと深いところ。


――まだ、“どこか”に手を伸ばせる感覚。


蒼真

「……ウィンター」


声にならない呼びかけ。


その瞬間、

焔生の刀身が、微かに震えた。


まだ、終わっていない。

黒龍を倒しても、

“やるべきこと”は終わっていない。


世界を守ることと、

 あいつらを失わないことは、同じじゃない。


蒼真は、焼けた喉を無理やり動かした。


蒼真

「……なぁ、ウィンター……

 もし、まだ……手があるならさ……」


震える拳で、焔生の柄を殴りつける。


蒼真

「俺は――

 この“結果”ごとぶっ壊してやるよ……」


その言葉に応えるように、

焔生の奥底で何かが“カチリ”と噛み合った。


今はただ、

膝をついたまま、

灰色の世界で、声にならない嗚咽だけが響いていた。




これまでのオープニング主題歌、「恋のメガラバ」でしたが、黒龍編からは「ぶっ生き返す」に変更されました。(妄想)


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