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第38話:迫る影と過去

◇◇◇



#1 静かな夜、うるさい心臓


その夜、神楽市は妙に静かだった。


ニュースは相変わらず「局地的寒波」「気圧の異常」で濁している。


雪村家・自室。


ベッドの上で仰向けになり、天井を見つめながら、

蒼真は一つ深く息を吐く。


スマホを見れば、クラスのチャットは、

「さっきの停電やばくね?」「空の割れ目撮れたw」


そんな程度の軽いノリで溢れていた。


誰も知らない。

この街の地下深くで、

“何か”が、ゆっくりと息を吸い込んでいることを。


枕元には、布に巻かれた妖刀〈焔生(ほむすび)〉。

視界の端で、その存在が妙に“重く”見える。


蒼真(心の声)

「この刀も、あの永瑠も、ノアも……

 全部まとめて、俺の日常をぶっ壊してくれた張本人だよな……」


そう考えながらも、瞼はじわじわと重くなっていった。


蒼真(心の声)

「……眠い……。世界崩壊カウントダウン中に寝落ちとか、

 主人公としてどうなんだ俺……」


そんな自虐ツッコミを最後に、意識は静かに沈んでいった。



◇◇◇

【夢の中】

◇◇◇



#2 白の虚空、光の騎士


気がつくと、そこは“音のない世界”だった。


真っ白な空間。

上下も、距離も、時間の流れさえもわからない場所。


ただ、足元だけに、うっすらと“雪”の感触がある。


蒼真

「……ここは……」


声を出した瞬間、白の中に、

ひとつの“影”が現れた。


薄い青の外套。

白銀の髪。

静かな瞳。


ウィンター=セラフィス。


見たこともないはずの人物なのに、

蒼真の胸は、なぜか懐かしさで締め付けられた。


ウィンター

「……蒼真。」


穏やかな声だった。

深い冬の夜みたいに冷たくて、なのに暖かい。


蒼真

「……ウィンター、か?」


ウィンター

「あぁ。君の“前の姿”。

 今は君が、その続きを生きてる」


ウィンターは、ふっと目を細める。


ウィンター

「緊張しないでいいよ。

 これは夢だけど、ちゃんと“本物”だから」


蒼真(心の声)

「本物の、前世との通話ってなに?概念が重いんだが……」



◇◇◇



#3 黒い息の話


ウィンター

「──本題から話そうか」


ウィンターが手をかざすと、

白の空間の一部が、ゆっくりと黒く染まっていった。


雲のような、煙のような、

しかしどこか“生き物の呼吸”を連想させる黒。


その黒が渦を巻き、やがて

“巨大な黒い龍の輪郭”のような影になる。


ウィンター

「これは、僕たちの世界で

 黒龍こくりゅうと呼ぶしかなかったもの」


蒼真

「黒龍……」


蒼真はごくりと喉を鳴らした。


ウィンター

「ノアの時代にも、記録は残っていない。

 ルシェルでさえ、姿を見たことがない。

 ただ……世界のあちこちで、『痕跡』だけは見つかっていた」


ウィンターは、黒い影から目を離さないまま続ける。


ウィンター

「ある文明が、突然一夜にして消えた跡。

 “原因不明の焦土”。

 魂の記録がぷつりと断ち切られた空白の時代。

 それを全部、ノアは“ひとつの線”で結んだ」


蒼真

「……それが、こいつか」


ウィンター

「“かもしれない”、だね。

 ノアも、僕たちも、誰も見たことがない。

 でも、世界をずっと観測していたノアは、こう言った」


ウィンターは、記憶をなぞるように、ゆっくり言葉を紡いだ。


ウィンター

『これは、誰かが作った怪物じゃない。

 世界そのものが、苦しみの最後に吐き出した“黒い息”みたいなもの』


蒼真

「……世界そのもの、って」


ウィンター

「地球は、ただの舞台じゃない。

 たぶん、僕らと同じ“生き物”だよ。


 何度も何度も、滅びかけて、

 それでも生き延びようとして──

 最後に、そうやって“形”を持ったんだと推察される」


黒い龍の影が、ズズ、と息を吸い込んだ。

音のない世界なのに、鼓膜が軋むような圧が走る。


ウィンター

「でも、あれはやりすぎた。

 本当は『修正』のために生まれたはずが……

 世界ごと壊しかねない存在になってしまった」


蒼真

「世界を守るために生まれたのに、

 世界を壊すって……」


ウィンター

「矛盾してるだろう?

 だからこそ、ノアですら“観測不能”。

 あまりにも“世界そのもの”に近すぎるからね」


ウィンターは、そこで蒼真をまっすぐ見つめた。


ウィンター

「──そして、今。アクラの門が開かれようとしている……

 その黒い影が、君たちの世界に近づいている」



◇◇◇



#4 ウィンターの“もう一つ”の本題


ウィンターは、黒龍の影から視線を外し、

蒼真の方へゆっくりと向き直った。


ウィンター

「──本題は、もう一つある」


蒼真

「……なんだよ?」


ウィンター

「これは……僕自身の“後悔”の話だ」


ウィンターの目が、わずかに揺れた。


ウィンター

「僕には、戦場で出会った女性がいたんだ」


蒼真

「え、個人的な話題?」


ウィンター

「名前は、もう……誰も覚えていない。姿かたちも、輪廻の中で薄れてしまった。でも……その魂だけは、今でもはっきり覚えている」


蒼真(心の声)

「魂だけ……?」


ウィンターは続ける。


ウィンター

「彼女は雪が嫌いで、でも人を見捨てられなくて……僕に怒鳴りつけながらも、最後まで手を離さなかった」


蒼真(心の声)

(……なんだ、この感覚……?)


ウィンターは、遠くを見るように言った。


ウィンター

「……僕は、守れなかった。

 彼女の未来を。

 彼女の命も。

 彼女の“選択”も」


蒼真

「……なんで俺にそんな話を?」


ウィンターは静かに笑った。


ウィンター

「君は、僕とは違う場所に立っている。

 僕がたどり着けなかった“未来側”にいる。

 だから──君なら、変えられるかもしれない」


蒼真

「何を……?」


ウィンター

「大切な誰かの“未来”を。

 君が失いたくないと思った人の“選択”を。」


蒼真は息をのむ。


蒼真(心の声)

「……なんだよ、その言い方……

 まるで俺が……誰かを……」


ウィンターは最後に、ただ一言だけ残す。


ウィンター

「後悔しないように。

 僕のように……失ってから気づく前に。」


次の瞬間、白い世界は静かに崩れ、

蒼真の意識は現実へ引き戻されていった。



◇◇◇

【現実】

◇◇◇



#5 目覚めと、うるさい朝


ノア

「──蒼真さん。観測完了です」


現実の音が、耳に滑り込んできた。


蒼真は、はっと目を開ける。


視界一面に、

やけに近いノアの顔。


蒼真

「うおあああああああ!?」


ベッドから半分落ちかけて、

布団に絡まりながら派手にのたうつ。


蒼真

「ちょっ、おまっ……!

 近い近い近い近ぃぃぃ!!」


ノア

「大丈夫です。至近距離ゼロ観測モードですから」


ノアは、いつもの満面の笑み。


その後ろで、腕組みをしながら壁にもたれている影。


永瑠

「……騒がしい」




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