第36話:愉快、通開
◇◇◇
#1 朝の静寂、ただしノアが居ない
神楽市の朝は、戦いの数日後とは思えないほど穏やかだった。
窓から差し込む光は柔らかく、昨夜の激戦の残像を洗い流してくれるようだ。
蒼真は珍しく早起きし、制服のネクタイを締めながら、静かに呟く。
蒼真
「……静かだな」
階下からは、永瑠がトースターでパンを焼く音と、コーヒーの湯気が立ち上る匂いだけが聞こえてくる。
普段なら、この時間にはノアが部屋から飛んで来て、玄関ドアをに破っているか、リビングでプリンを爆食いしているかのどちらかだ。
蒼真
「ノアがいない朝って……妙に平和だな」
リビングに降りると、永瑠がマグカップを両手で温めながらコーヒーを飲んでいた。
永瑠
「……わかる。ここしばらくドア破られてないからね。修理費を請求する必要がなくて清々しいわ」
蒼真は、自分もコーヒーを淹れながら、苦笑した。
蒼真
「あぁ、それも何か、さみしいな……」
永瑠は軽く肩をすくめ、真顔で、この平穏の最大の功績を宣言した。
永瑠
「プリン消費量が三分の一になったのが一番の功績よ。このまま平穏が続けば、うちは財政破綻しないわ」
二人は、束の間の平穏を噛みしめ、いつものように他愛もない朝の時間を過ごしていた。
◇◇◇
#2 引き出しの中の深淵
朝食を終え、学校の準備のため自室に戻った蒼真は、机に向かった。
いつものように、教科書を取り出すために一番上の引き出しを開ける。
ガラッ。
金属が擦れる鈍い音に続き、蒼真の瞳が、引き出しの中の光景を捉えて固まった。
蒼真
「…………え?」
そこは空間ではなく、光の粒子が渦巻く深淵のゲートへと変わっていた。
引き出しの奥は、銀色の光と、紫の魔力が混ざった渦巻きになっており、まるで宇宙の入り口のようだ。
蒼真
「えぇぇ!?」
思考が停止したその瞬間。
ズルッ。
引き出しの中から、無理やり何かを潜り抜けようとする気配があった。そして、制服姿の誰かが、滑り込むようにして、床に転がり落ちてくる。
ノア
「おはようございまァァァァァァす!!」
蒼真
「出たァァァァァァァァァァ!!??なんでだよ!!」
ドタドタという音と共に、永瑠が妖刀の柄に手をかけながら駆け込む。
永瑠
「ちょっと!何の騒ぎ――って、なんでノアが引き出しから出てくんのよ!!」
ノアは満面の笑顔で、まるで学校の朝礼のように敬礼した。
ノア
「観測者、無事帰還しました!蒼真さんの机と、私の“異世界観測倉庫”が、本日ついに――境界完全同期!!」
蒼真&永瑠
「「同期すんな!!」」
二人のツッコミが、異世界から来た王女の、異常な登場によって、見事にシンクロした。
◇◇◇
#3 ノアの四次元ポシェット
ノアは立ち上がると、首から下げた小さなポシェットに手を突っ込んだ。
ノア
「お土産と、研究成果の持ち帰りですよー!」
ノアが取り出したものは、床に次々と積み上げられていく。
ノア
「テレレテッテレー!」
* プリン24個入り×2箱
* 異世界の地図が立体表示される魔法陣パッド
* 異世界の景色が動く壁紙(ホログラム仕様)
* 永瑠用の“魔核バランサー”(※「血の渇き」を抑えるという合法表示の怪しい薬)
蒼真
「うわぁあ、なんか出てきたー!!しかもプリン大量!!」
永瑠は、魔核バランサーと書かれた薬瓶を怪訝そうに見つめる。
永瑠
「その薬……何が入ってるのよ、本当に……?」
ノアは胸を張る。
ノア
「安心してください、異世界安全基準クリア!毒物も呪物も混入率ゼロです!だって、私が作ったんですから!」
永瑠
「その基準、あなたが言うと余計に信用できないわよ……」
◇◇◇
#4 異世界制御アイテム《観測安定枕》
ノアはポシェットの底をまさぐり、金色のふわふわクッションを取り出した。
ノア
「蒼真さん!これです!引き出しゲートの安定を図るため、これを抱いて深呼吸して!」
蒼真
「ぬいぐるみかよ!!」
永瑠は、そのクッションを抱える蒼真の姿を一瞥し、真面目な顔でぽつりと言った。
永瑠(小声)
「……似合ってるわよ」
蒼真
「黙れ!!」
だが、抱いた瞬間、蒼真の魂光がスッと落ち着くのを感じた。
蒼真
「……落ち着く……なんだこれ……」
ノアは満足そうに微笑む。
ノア
「異世界の『魂静音素材』でできてます!魂を撫でて落ち着かせる効果があるんですよ!」
永瑠(小声)
「魂を撫でるって概念、初めて聞いたわ……物理的なのか、精神的なのかすら分からん」
ノア
「永瑠さんの呟き、愛情と分類!」
永瑠
「違うわよ!!ただの戸惑いよ!!」
◇◇◇
#5 日常に戻る三人(もう戻れない)
永瑠
「……騒ぎは落ち着いたし、そろそろ学校行こ。遅刻するわ」
蒼真
「その前にこの引き出し閉じたいんだけど……」
ノアは引き出しを指差し、まるで新機能を紹介するかのように言った。
ノア
「では今日は特別に、この引き出しから学校に直通で――」
蒼真
「行かねぇよ!!!テレポートで登校なんて、日常の破壊だ!!」
永瑠は深くため息をつき、ノアを見る。
永瑠
「ノア……なんか猫型ロボット化してるわよ……。」
ノアは、その言葉を完全に無視して、引き出しからプリンを取り出す。
ノア
「はい、朝のプリン補充!」
蒼真
「毎回何か取り出すな!!ていうか、なんで俺の引き出しと繋がってんだよ!!」
ノアは再び、真顔で「設定」を説明した。
ノア
「蒼真さんが“未来を守る意志”を確定したので、異世界側の境界が“信頼リンク”として安定したんですよ!あなたの家が、もう一つの世界への入り口となったのです!」
永瑠
「そんな設定、勝手に増やさないで。聞いてないわよ」
ノア
「観測完了!二人ともツッコミ安定です!これからもこの境界、有効活用させていただきます!」
蒼真
「誰がツッコミ安定だ!!」
異世界から帰還した三人の騒がしい日常は――またひとつ、新たな形で進化を遂げたのだった。
くりむぞんえんど 番外編
ナレーション
もはや完全にプリン専用四次元ポケットである。
公式名称変更決定。
【旧】四次元ポシェット
↓
【新】四次元プリン倉庫 (通称:プリンゲート)
使用実績(最近30日間)
・プリン取り出し回数:8,492回
・異世界アイテム取り出し回数:0回
・戦闘時プリン補給率:100%
・永瑠の 「またプリン!?」 発言回数:2,847回
・蒼真の 「もうプリンで世界救えるだろ」 発言回数:1回 (※その直後、自分でプリンを食べて黙った)
ノア公式コメント
「観測完了~♪
現在、プリン倉庫の容量は宇宙の3分の1に達しました。
このままではブラックホールプリンへ進化します。」
永瑠 「…………もう諦めた。」
蒼真 「俺も諦めた。」
ナレーション
結論。
もはや、ただのプリン入れである。
……だが、それでいい。
プリンがあれば、永瑠は笑う。
プリンがあれば、ノアは観測する。
プリンがあれば、蒼真はツッコミ続けられる。
つまり――
プリンこそが、最強の四次元アイテムだった。
これからも、
世界はプリンで少しだけ平和になる。
プリンゲート、永遠なれ。




