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第35話:さよなら異世界、また会う日まで

◇◇◇



#1 薄れる光と予感


オルド王城の、白く輝く回廊。昨日まで感じていた王都を守る魔力の壁や、城壁の堅固さが、どこか遠のいたように感じられる。


ノアが、手に持った観測用の魔道具を凝視し、小さく息を呑んだ。


ノア

「……裂け目の魔力が弱まっています」


永瑠は、その言葉の意味を瞬時に理解した。彼女は紅い瞳を細め、城の最深部、異世界と繋がる場所を見つめる。


永瑠

「閉じ始めたって事?」


ノア

「はい。このままだと……完全に裂け目が消滅し、二度と元の世界へ戻れなくなる可能性があります」


蒼真の胸に、苦いものが沈んだ。戦闘が終わった安堵感も、ノアとの楽しい買い物も、あっという間に過去のものになろうとしていた。



◇◇◇



#2 帰還を決意させる者たち


国王・エリオスと王妃・リサが、静かに回廊に現れた。その顔は真剣だ。


エリオス

「ノアの観測通り、裂け目が閉じようとしている。我々としても、君たちを危険に晒したくはない」


リサ

「その前に帰らないと、戻れなくなってしまうかもしれない。あなた達の世界での生活が、何より大切です」


永瑠は、王妃の言葉に静かに頷いた。彼女には、守るべき現代の日常がある。


蒼真は、笑顔を作ろうとするが、口の端が震えていた。


異世界に来てわずか数日。


地獄を見て、英雄になり、友を得た。

そんな濃密な時間が、終わりを告げようとしている。



◇◇◇



#3 ノアとの別れ


ノアは、まっすぐに蒼真の前に立ち、そっと彼の震える手を握った。


ノア

「蒼真さん……今まで、ありがとうございました。あなたのおかげで、オルド王国の夜明けを見ることができました」


蒼真は、ノアの言葉にぐっと胸が詰まる。


蒼真

「お前……泣くなよ……」


ノアの瞳には、既に大粒の涙が浮かんでいた。

しかし、彼女は王女としての気高さを保ち、涙を拭わずに言った。


ノア

「いつかまた、逢える日を望んでいます。絶対ですよ、蒼真さん」



◇◇◇



#4 裂け目へ


王城の最深部に設置された、白金の魔法陣が最後の輝きを放っている。

その光は明らかに弱まり始めていた。


エリオス

「急ぎなさい!時間が無い!」


永瑠は、自分の刀を背に収め、蒼真の腕を強く引いた。


永瑠

「行くわよ蒼真。次に来る時のために、元気でいなきゃ」


蒼真

「……ああ」


ノアは、溢れる涙をこらえ、二人の背中を力強く押し出した。


ノア

「蒼真さん!!永瑠さん!!」


彼女は、光が二人を包み込む最後の瞬間に、叫んだ。


ノア

「――また絶対、来てください!!プリン、たくさん用意しておきますから!!」



◇◇◇



#5 帰還


光が弾け、蒼真と永瑠の身体は、強烈な力で引き戻されるように浮かび上がった。


永瑠

「ちょ、待って!体勢が!このままじゃ現代で恥ずかしい格好に――」


蒼真

「嫌な予感!!」


空間の捻じれと光の渦の中、二人は抗う術もなく加速する。


そして――


ドォン!!!


轟音と共に、二人は盛大に、現代の住宅街、蒼真の家の玄関前に落下した。


蒼真

「ぐえええええ!!腰が!背中が!」


永瑠は、頭から着地した蒼真の上に乗っかるような体勢で、苦痛の声を上げた。


永瑠

「膝!いったあああ!!体勢を保つって概念、異世界には無いの!?」



◇◇◇



#6 日常へ


ガチャリ、と家のドアが開く。


蒼真の母が、エプロン姿で怪訝な顔をして現れた。

目の前には、土埃と泥と、どこからか付着した血の匂いを纏った二人の高校生が、派手に転がっている。


蒼真の母

「あら、蒼真?朝から何してるのかしら」


蒼真は、その日常の光景に、思わず泣き笑いのような表情になった。


蒼真

「…………ただいま」


永瑠は、泥まみれの服のまま、立ち上がりながら頭を下げた。


永瑠(泥まみれ)

「お邪魔します」


蒼真の母

「いらっしゃい。永瑠さん。朝食は食べたの?」



◇◇◇



#7 始業式


翌日。


戦場と化した異世界とは全く無縁の、日本の学校。

校門の前は、新学期を迎えた賑やかな生徒たちで溢れている。


体育館では、教頭先生の延々と続く説教が始まっていた。


教頭

「えー、今日から新学期です。皆さん、気持ちを新たに――」


蒼真(心の声)

「昨日まで……命を懸けた戦場だったのに。今は教頭先生の話を聞いている。このギャップがすごい」


永瑠が、ぼーっとしている蒼真の脇腹を小突いた。


永瑠

「蒼真、ぼーっとしてると、あの教頭先生の話が延々と頭の中で再生される呪いにかかるわよ」


蒼真

「それは勘弁してくれ!俺の日常をこれ以上壊さないでくれ!」



◇◇◇



#8 それでも、日常は続く


蒼真は深く息を吸い、その空気の匂いを確かめる。


そして、笑った。


蒼真(心の声)

「帰ってきたんだ。確かにこの、平穏な日常に」


その時、隣を歩いていた永瑠が、ぽつりと言った。


永瑠

「また……行くわよね?あいつら、絶対また襲ってくるわ」


蒼真は、ポケットの中で、異世界の匂いが染み付いたハンカチを握りしめた。


蒼真

「……あたり前だろ。約束したんだ。アイツらを助けに、ノアにもプリンを食べさせてやりにな」


永瑠が満足そうに微笑む。


蒼真(心の声)

「また……会おう。絶対、もっと強くなって、また会おう」




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