第34話:街へお買い物 ― 王都デート編
◇◇◇
#1 買い出しミッション発動
朝食後、昨夜の激戦の緊張感が嘘のように溶け去った王城の一角。
ギルド長レイが、やたらと分厚い紙袋を小脇に抱え、上機嫌に歩いてきた。
レイ
「おぅ!蒼真!昨日はお疲れだったなっ。さっさと休め!そして冒険者登録しろ!」
ノア
「あ、レイさん」
蒼真
「ギルド長さん。ありがとうございます」
レイ
「お前、あんなに強いんだからさ、ウチに登録しろって!もっと激しい戦いが出来るぜ〜!」
蒼真は顔を引き攣らせ、後ずさりする。
蒼真
「あ、いや〜結構ですぅぅぅ!!!明日学校あるんでーっ!!!」
レイ
「なんだ〜、もう帰るのかよ〜、また遊びに来いよな。そんじゃ、いい朝を!」
レイは豪快に笑いながら去っていく。蒼真は、その背中が見えなくなるまで手を振り続けた。
蒼真
「あははは……もう戦いは結構です……」
永瑠が、そんな蒼真の背中をポンと叩き、提案した。
永瑠
「ねぇ、せっかくコッチに来たんだからさ。王都を散策して、買い物でもしようよ」
蒼真
「異世界で買い物か。こんな機会は二度と無いだろうからな」
ノアは、その言葉を聞くや否や、ぱあっと顔を輝かせた。
ノア
「両手に花でデートですね!蒼真さん!」
蒼真
「3人じゃデートとは言わないだろ」
だが、ノアは既に蒼真の腕を掴んで離さない。
その小さな手が、昨夜の戦いの後の不安を訴えているように見え、蒼真の抵抗は無力だった。
ノア
「蒼真さんが、いないとダメなんです」
蒼真
「……はい。分かりました」
永瑠が素早く反応し、蒼真の反対側の腕にぴたりとしがみついた。
永瑠
「あ!ズルい!私も行く!蒼真の護衛は私の担当よ!」
永瑠
「じゃあ行きましょう」
こうして――血生臭い戦闘の翌朝、王都の平和な朝の散策が始まった。
◇◇◇
#2 王都の街並み
市場は活気に満ち、人々の喧騒と馬車の音が響き渡っていた。
露店からは、異世界の工芸品、キラキラと輝く魔道具、見たことのない果物、そして香ばしいパンの匂いが漂ってくる。
蒼真
「すげぇ……本当に異世界なんだな。昨日までは地獄だったのに、今はただの市場だ」
永瑠
「当たり前でしょ。平和を取り戻したんだから」
ノア
「ここは私の生まれた街なんですよ。楽しんでくださいね」
蒼真
「……お前の国、めっちゃ立派だな……」
彼らが歩き進むと、まず妙な看板を掲げた店に行き当たった。
魔道具屋の店主
「いらっしゃい!こちら“記憶再生の鏡”!過去の恥ずかしい記憶を他人に見せられます!酒の席で大盛り上がり!」
蒼真
「なんでそんな需要があるんだよ!?プライバシーの欠片もねぇ!!」
永瑠(小声)
「……ちょっと欲しい。蒼真の黒歴史とか」
蒼真
「聞こえてるぞ!!絶対買うなよ!!」
スライム屋の露店主
「スライム100匹で1ゴールド!掃除に便利ですよ!排水溝もピカピカに!」
蒼真
「掃除って……床にスライムが這ってるの!?シュールすぎるだろ!」
ノア
「私、部屋で50匹飼ってますよ♪水槽に可愛いお家を作ってあげてます」
蒼真
「王女の部屋がスライムだらけってどんな環境だよ!!」
転生者専用アイテム屋の看板
「転生日本人向け!醤油・味噌・カップラーメンあります!故郷の味!」
蒼真
「マジかよ……!」(目が輝く)
永瑠
「蒼真、めっちゃ食いついてる……あんなボロボロの看板なのに」
ノア
「カップラーメンって何ですか?魔法の道具ですか?」
蒼真
「これは……神の食べ物……(拝むように)……俺の世界の叡智だよ」
魔導パンツ屋の店員
「こちら“破れても即再生するパンツ”です!耐久度無限!冒険者に大人気!」
蒼真
「異世界ってなんでパンツに命かけてるんだ……!」
永瑠
「買う?戦闘中に便利じゃない?」
蒼真
「買わねぇよ!!絶対買わねぇ!!」
蒼真は、脱力して呟いた。
蒼真
「……お前の国、めっちゃ変だな……」
◇◇◇
#3 王女の極秘ミッション
ひと通り買い物を終え、蒼真の精神が異世界の奇抜さに疲れ果てた頃――。
ノアが急に真剣な顔になる。その表情は、第三波の襲来を告げた時と同じくらい、深刻だった。
ノア
「蒼真さん、永瑠さん……ご案内したい場所があるんです」
永瑠
「なんか深刻そうだけど。新しい敵の本拠地?」
ノア
「いいえ。とても重要です。国を、いえ、世界を揺るがすかもしれない場所です」
蒼真も緊張する。
昨夜の戦いを越えた今、ノアが真剣になるなら、それは本当に危急の事態かもしれない。
ノアに案内され、三人は王城の一角にある、人気のない地下へと向かった。
王城地下倉庫。
ノアは重厚な扉の前に立ち、厳重なロックを解除した。
ノア
「開きます」
扉を開けた瞬間、**ヒュオォォォ!**と冷気がドバーッと吹き出す。
永瑠
「寒っ!?ここは冷凍庫!?」
ノアは誇らしげに答える。
ノア
「温度管理は完璧です!内部は、プリンの最高の味を引き出すために、常に3℃に保たれています!」
蒼真
「王城の地下に国家予算級の冷蔵庫作ってる王女って何!?」
ノアに連れられ、奥へ進むと、蒼真は絶句した。
永瑠
「……なにこれ」
そこには、巨大な倉庫いっぱいに、壁一面、棚一面、箱、箱、箱。すべてがプリンの箱で埋め尽くされていた。
そして、その中央には、巨大な柱のように、無数のプリンが積み上げられた「緊急用プリン塔(高さ10m)」がそびえ立っていた。
蒼真は膝から崩れ落ちた。
ノアは誇らしく胸を張る。
ノア
「――プリン倉庫です!!」
蒼真
「プリン倉庫ぅ!!??」
永瑠
「え、何この量……」
ノアは、そのプリン塔を見上げながら、遠い目をする。
ノア
「蒼真さん達の世界で初めてプリンを食べて以来――私は悟りました。」
蒼真
「ゴクリ…」
ノア
「プリンは世界を救います!」
蒼真
「救うかーーーーーーーーっ!!」
◇◇◇
#4 王都デートの締めくくり
王城に戻る道すがら、蒼真は、自分の腕に抱きつく二人を見下ろした。
永瑠の護衛としての鋭い目つきも、ノアの過剰な優しさも、今はただの日常の光景だ。
蒼真
「異世界に来てまで買い物デートとか、なんか変な気分だったけど……」
永瑠
「……悪くないわね。あなたが私に護られてる感じがして」
ノア
「プリンも買えましたし、完璧です!」
蒼真
「プリンしか頭にない王女ってどうなのっ!?」
深く溜息をつきながらも、どこか安心したように笑った。




