第31話:深夜の牙 ― 血戦、王都城壁上
◇◇◇
#1 訪れる混沌と静寂なる記憶
永瑠の口から、隠されていた種族の名が告げられる。
永瑠
「吸血鬼よ」
蒼真は、その重い単語を反芻した。
蒼真
「吸血鬼……って事は……」
ノアの声は、普段の冷静さを失い、わずかに震えていた。
ノア
「観測――魔力値……規格外……。観測の枠を超えています」
城壁を囲むように立ち止まった吸血鬼の一団。その先頭に立つ者が、一歩、ゆっくりと前に出た。
まるで、獲物を観察し、弄ぶかのように、楽しむ仕草。
吸血鬼は、永瑠を一瞥し、鼻で嘲笑した。
吸血鬼
「……同族がいるとはな」
永瑠の細い眉が、ピクリとわずかに動く。
吸血鬼は、さらに皮肉を続けた。
吸血鬼
「血の香りだ。古き夜の同胞よ」
永瑠は、握る手に力を込めた。
永瑠
「同族ではないわ」
吸血鬼
「人間と行動を共にするなど、正気ではない。お前は血を忘れたか?」
◇◇◇
#2 永瑠の言葉(血筋の影)
永瑠は、ゆっくりと鞘から刀を抜き放つ。
闇を凝縮したかのような黒い刃が、夜気を一筋の光で照らした。
永瑠の口調は、感情を抑えつけたように、どこまでも静かだった。
永瑠
「……私はアンタ達とは違う“ネオヴァンパイア”。光を克服した種。愛から生まれた種よ」
その告白に、敵の吸血鬼は高らかに笑う。
城壁に響き渡るその笑い声は、悪意そのものだった。
吸血鬼
「愛だと?吸血鬼に“愛”など存在しない。あるのは渇望と、永遠の飢えだけだ」
永瑠の瞳が、ふとどこか遠い過去を映したように、悲しげに揺れた。
永瑠
「私の母は――優しい人だった」
蒼真は息を呑む。永瑠が、自分の過去について、これほど真剣に語るのを聞くのは初めてだった。
永瑠
「血ではなく、愛で繋がった。だから私は、守るの」
永瑠はそこで、一瞬だけ、本当にほんの少しだけ、隣の蒼真を一瞥した。
永瑠
「人間を」
敵吸血鬼は、永瑠の言葉を鼻で笑い飛ばす。
吸血鬼
「……くだらん。同胞の恥だ」
◇◇◇
#3 蒼真の葛藤
蒼真は、永瑠の真意を理解しつつも、目の前の現実を前にして身体が震えていた。
蒼真(心の声)
「見た目は俺らとほとんど変わらねぇのに、それでも……敵?」
彼の右手に握られた妖刀〈焔生〉は重く、その柄を握る拳はまだ震えている。
永瑠は前を向いたまま、蒼真へ言葉を投げかけた。まるで、彼の心の迷いをすべて見透かしているかのように。
永瑠
「安心して蒼真。こいつらは――人を殺すために存在しているの」
永瑠の声には、過去の苦い経験が滲んでいた。
永瑠
「それは、私が一番よく知ってる」
蒼真は黙り込んだ。反論も、疑問も、一瞬で消え去った。
彼は震える拳を振り払い、強く刃を握り直す。
震えはまだ完全には消えないが、覚悟の色が宿り始めていた。
◇◇◇
#4 戦闘の幕開け
敵吸血鬼が、城壁の闇に向かって、冷酷な命令を下した。
吸血鬼
「狩れ!」
空気が急に重くなり、呼吸が苦しくなる。十の影が、人間が認識できる速度を超えて、一斉に飛び出した。
ノアが叫んだ。その声は、戦闘開始の合図。
ノア
「蒼真さん、永瑠さん!!危険距離です!!回避と反撃を!!」
蒼真は、恐怖を押し殺し、腹の底から声を出す。
蒼真
「くっそ、来やがれ!!」
永瑠は、蒼真に背中を預けながら、静かに、しかし力強く言った。
永瑠
「蒼真、目を逸らさないで。今、逸らしたら一生後悔するわよ」
その声に、蒼真の中に残っていた最後の恐怖が、一瞬だけ消えた。
夜が牙を剥き、血戦の火蓋が切って落とされる。




