表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/87

第30話:夜を喰らう牙

◇◇◇



#1 夕暮れ、終わらない地響き


スタンピード第一波の、おびただしい数の魔物の死骸が城壁の下に積み重なり、その上に夕闇が静かに降りてきた。

地獄のような激戦だったが、それはまだ序章に過ぎない。


蒼真は、刀を杖代わりにして息も絶え絶えに座り込み、汗が顎から滴り落ちるのも構わず、空を仰いだ。


蒼真

「……終わった、のか……?」


永瑠は、刀を鞘に収めずに、地平の先を鋭く見据える。


永瑠

「いいえ……まだ続くわ」


地平線の先――まだ黒い波が、静かに蠢いているのが見える。

それは、太陽が沈むのを待っているかのように、密度を増していた。


ノアの顔に緊張が走る。


ノア

「……日没と共に、魔物密度が跳ね上がります。これは観測済みですが……速度が速い」


疲れ切った騎士たちの中から、低いざわめきが広がった。

陽が落ちる。

それは、この世界における最悪の戦況を意味していた。



◇◇◇



#2 永瑠の瞳が変わる


完全に日が落ち、闇がオルド王国の城壁を深い影で包み込んだ瞬間。


永瑠は、静かに、だが深く息をついた。

その瞬間、彼女の瞳が、通常の紅から、血のように濃く、激しい深紅へと輝きを増す。


永瑠

「……来たわね」


蒼真は彼女の異変に気づき、思わず問い返す。


蒼真

「え?」


ノアもまた、空を見上げながら、その状況を静かに宣言した。


ノア

「……夜間戦力、投入です」


遥か遠くから、冷たい夜風に乗って、奇妙な羽音と、身を刺すような寒気が、城壁へと一直線に向かってくる。


兵士が恐怖に顔を引きつらせて叫んだ。


兵士

「な、なんだ……あれは……!」



◇◇◇



#3 夜種、到来


闇の空を切り裂いて飛来したのは、単なる巨大な影ではなかった。

黒く禍々しい翼を持ち、人の形を保ったまま、数十もの影が城壁の上に音もなく降り立つ。


永瑠が、吐き出すようにその種族の名を口にした。


永瑠

「ヴァ…ヴァンパイア……」


全員が人間と同じ……夜風を裂いて静かに着地する。

最前線に立つのは、一際威圧感を放つ男だった。

蒼黒の翼が異様に禍々しい。


吸血種統領は、傲慢な笑みを浮かべた。


吸血種統領

「よぉ……今宵は気持ちの良い夜だな、人間たち……」


指揮を執っていたギルド長が、信じられないものを見るように声を上げる。


レイ

「ヴァンパイア……だとッ!」


蒼真は、その光景に震えた。


蒼真(心の声)

「ひ、人型のモンスター……?……ヴァンパイア……」


夜空の下、異様な静寂に包まれていた。その静寂を破るように、蒼真の目には、その影の姿が次々と捉えられた。


美しい銀髪を持つ者。整った顔立ちをした、人間と見紛うばかりの女。まるで飢えた少年のような痩せた者。


その姿は確かに人間に近かった。


だが――


彼らの瞳だけが、この世のものとは思えないほど異様だった。


暗く、深く、飢えた色。

それは、永遠に満たされることのない渇望を映し出す、獣の眼光。


永瑠

「違う。そいつらは――」


永瑠の低い声が、蒼真の耳元で響いた。

その声は、いつも蒼真に毒づく時の軽口とは違い、凍てつくように冷たかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ