第29話:第二波、崩壊の予兆
◇◇◇
#1 静寂が砕ける
城壁の外の荒野には、第一波の魔物たちが残した焦げ跡と、飛び散った血痕が生々しく広がっていた。
しかし、戦闘が終わった後の、その後の静けさが異様に重い。
蒼真は、城壁に背を預けて立ち、地平線の彼方を見つめる。風はぴたりと止まったままだ。
蒼真
「……なんで来ないんだ」
静けさが不気味だった。遠くの空気が、まるで熱に揺らぐようにわずかに歪んでいる。
永瑠も刀の柄に手をかけたまま、顔を曇らせた。
永瑠
「……嫌な静けさね。大物が溜まっている気配がする」
ノアは何も言わず、杖を強く握りしめている。その小さな手が、微かに震えているのが蒼真には見えた。
ギルド長が、乾いた声で呟いた。
レイ
「この沈黙は、嵐の目だぜ。気を緩めるな」
◇◇◇
#2 第二波の襲来
警告の直後、城壁の堅い地面が、まるで内部から破られるかのように激しく震え始めた。
遠くの闇が、まるで生き物のように“盛り上がる”。
それは、ただの群れではなく、一つの黒い塊となって城壁へ向かってきていた。
蒼真
「えっ待っ――」
永瑠
「来る!!」
ノアが、震える声で正確な情報を伝える。
ノア
「第二波……接触まで15秒!」
蒼真は叫んだ。第一波では、襲来までに十分な準備時間があったはずだ。
蒼真
「さっき10分あったのに!?」
ノア
「測定不能です!魔物密度が高すぎて解析が追いつきません!」
ドガァァン!!
城壁の真下、地面が裂ける。
そこから黒煙が吹き出し、巨大な魔獣の群れが、壁を埋め尽くすように押し寄せてきた。
レイ
「全軍ッ!!迎撃開始ぃッ!!」
◇◇◇
#3 質の違い
蒼真は、反射的に第一波での戦い方を思い出し、刀を握り直す。
蒼真
「前と同じだ……なら――!」
彼は妖刀〈焔生〉を振り抜き、炎を纏わせた一閃を魔獣の群れに叩き込んだ。
しかし、
魔獣は燃えない。
蒼真
「――は?」
蒼真は驚愕に目を見開く。
永瑠
「……今のは、焔生が通ってない。刀自体は当たったけど、炎が効いてないわ!」
蒼真
「なんでだよ!!」
ノア
「魔力の層が違います!この第二波は……体表に“耐魔術”の膜が張られています!」
蒼真は絶望に顔を歪ませた。
蒼真
「第二波って……ただ数が多いだけじゃなくて、そういう意味かよ!」
◇◇◇
#4 城壁陥落の危機
城壁上は一気にパニックに陥った。
弓兵たちが矢を放つが、魔獣の体表で火花を散らして弾かれてしまう。
騎士団の叫びが響く。
「矢が……止められない!!」
「跳ね返されたぞ!!?」
レイ
「クソッ……第二波は耐性か!!物理攻撃で叩け!叩き落とせ!」
魔物たちは、騎士たちの攻撃を耐え抜きながら、城壁をよじ登り始める。
永瑠が、事態の深刻さに気づき、すぐに跳躍した。
永瑠
「まずい――このままじゃ……城壁が持たない!」
蒼真
「どうすりゃいいんだよ!俺たちの攻撃が効かないのに!」
◇◇◇
#5 ノアの決断
その時、ノアが迷いなく駆け出した。
騎士が慌てて制止する。
「ノア姫!?危険です!」
ノア
「大丈夫、これくらい……!」
彼女は返事もそこそこに、白銀の杖を城壁の堅い石の地面に突き立てる。
杖から溢れ出した強大な魔力が、瞬く間に巨大な魔方陣を城壁全体に展開させた。
ノア
「――《雪白浄火》」
呪文の詠唱と共に、ノアの小さな身体から、蒼白の浄化の光が荒野を照らした。
光が触れた第一列の魔獣の群れは、一瞬で凍てつき、その後、微細な結晶となって音もなく砕け散る。
蒼真は目を疑った。
蒼真
「お前……こんな魔法使えたのかよ……!」
ノアは呼吸を整えながら、冷静に答えた。
ノア
「解析完了です。魔獣が持つ耐魔術の膜は、熱と物理に特化している……弱点は“霊属性”です」
永瑠
「なるほどね……熱の属性じゃないなら、私の斬撃も通るわ」
◇◇◇
#6 反撃
永瑠が、蒼真の肩に強い手を置く。
永瑠
「蒼真」
蒼真
「な、なんだよ」
永瑠は、蒼真の紅い瞳をまっすぐ見つめた。
永瑠
「恐怖も緊張も、今は全部“力”に変えなさい。私たちには時間がない」
蒼真は頷いた。ノアが道を開いた。もう、迷う理由はない。
蒼真
「……ああ」
妖刀〈焔生〉が、蒼真の覚悟に呼応して、以前にも増して激しく唸り、燃え上がった。
蒼真
「いくぞォォォ!!!!」
蒼真の放った炎の刃は、凍結した魔獣の群れを長く伸びながら貫く。
凍結を破り、蒼白の結晶を散らしながら、一筋の炎が次々と魔獣を霧散させた。
蒼真
「決まったああああああッ!!!」
◇◇◇
#7 しかし――わずかな違和感
ノアの魔法と、蒼真、永瑠の連携により、第二波の攻勢はなんとか押し返された。
蒼真は息を切らす。これで終わりか、と思った時、永瑠が険しい顔で空を見上げた。
永瑠
「……変ね」
蒼真
「何が?」
ノアは杖を下ろさず、魔力観測を続けていた。
ノア
「魔物の出現位置……変わってます。第二波の魔物は、東門に集中していたはずが……」
レイ
「変わってる?」
ノアは、観測結果を信じられないといった様子で、言葉を絞り出した。
ノア
「まるで――“呼ばれている”みたいに、城壁の一点に向かって移動しています」
全身を震わせながら呟いた。
ノア
「第三波――来ます」
蒼真
「は、はやっ!もう!?」




