表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/87

第19話:地獄の夕食会

◇◇◇


#1 嵐のあとの、カレーの匂い


魔王ルシェルが霧となって消え、凍り付いていた神楽市の空気がようやく動き出した。


蒼真、永瑠、ノアの三人は、絶望的な威圧感に打ちのめされ、しばらく玄関前で立ち尽くしていた。


蒼真

「……帰った、よな? あのお義父さん(仮)」


永瑠

「誰がお義父さんよ……。

でも、磁場の痛みが消えたわ。本当に立ち去ったみたい」


ノア

「蒼真さん、心拍数は落ち着きましたが、胃酸の分泌が過剰です。ストレスですね」


蒼真

「当たり前だろ! 世界の終わりとか言われて胃に穴が開かない高校生がいるかよ!」


その時、玄関の扉が「ガラッ」と開いた。


咲夜(母)

「あら、お友達とのお話は終わったのかしら?

さあ、カレーが冷めちゃうわよ。早く入りなさい」


蒼真

「……母さん、外で何が起きてたか、少しは見えた?」


咲夜

「ええ、なんだか凄く背の高い、モデルさんみたいな人が浮いてたわね。

最近のプロジェクションマッピングは凄いわねぇ」


蒼真

「プロジェクションマッピングで街灯がねじ曲がるかよ!!!」


◇◇◇


#2 食卓 ―― 聖女と吸血鬼と、お母さん


咲夜

「あら、お友達はみんな帰っちゃったのかしら。お母さんチョット作りすぎちゃった?」


雪村家の食卓には、湯気を立てる特大盛りのカレーライス40人前が並んでいた。


蒼真

「……母さん、確認していい?」


咲夜

「なあに?」


蒼真

「うち、いつから自衛隊の炊き出し拠点になった?」


永瑠

「鍋のサイズがおかしいのよ。何そのドラム缶みたいなの」


咲夜

「だって今日は“お客様が多そうな気がした”んだもの」


ノア

「“予感”という曖昧な情報源に基づいて、この物量を用意するのは非合理的です」


咲夜

「ノアちゃん、理屈はいいから座りなさい。はい、エプロン取って」


ノア

「……私も配膳要員に組み込まれています?」


蒼真

「諦めろノア。うちの母さんは概念より強い」


#3 帰還 ―― 雪村(父)の帰宅


その瞬間、玄関から轟音のような声が響き渡った。


「ただいまー! 雪村無限幻夢零式最終奥義様が帰還したぞー!!」


ガチャン。


現れたのは、ボロボロの着流しに巨大な「道場の看板」を背負った男。


蒼真の父、雪村 無限幻夢零式最終奥義(父)その人であった。


咲夜

「あなた、おかえりなさい。ちょうど今から40人前のカレーパーティーを始めるところよ」


雪村無限幻夢零式最終奥義(父)

「40人前? 足りるか? 俺は今、銀河を三つほど喰えるくらい腹が減ってるんだが」


蒼真

「……おい、親父、自分の名前をフルネームで叫びながら帰ってきたのか?」


雪村無限幻夢零式最終奥義(父)

「よう蒼真! ガハハ! 相変わらずツッコミのキレが良いな! ……お、今日は賑やかじゃないか」


永瑠

「……な、なにあれ。人間なの? あの人の周りだけ空間の解像度がバグってるんだけど」


ノア

「……警告。個体名:無限幻夢零式最終奥義。私の観測ログに該当するデータがありません。というか、名前が長すぎて演算エラーが出ました。……蒼真さん、あれは本当に血縁者ですか?」


蒼真

「俺が聞きたいよ! 父さん、その名前、また改名したのか!? 前は『健一』だっただろ!」


無限幻夢零式最終奥義

「ああ、先月な。宇宙の真理をちょっと掴んだ気がしたから、市役所で手続きしてきたぞ。……おや?」


そこで、無限幻夢零式最終奥義の視線がピタリと止まった。


部屋の隅に置かれた、禍々しいオーラを放つ妖刀〈焔生〉。


その瞬間、彼の顔から余裕が消え、戦慄が走った。


無限幻夢零式最終奥義

「そ、それは……! 間違いない、蔵の奥深くに封印してあった、爺さんの形見の……!」


蒼真

(ゴクリ……。やっぱりそうなのか。この刀は、雪村家に代々伝わる選ばれし者の……!)


永瑠

(このおじさんが焦るなんて。相当な因縁がある刀なのね……)


無限幻夢零式最終奥義

「……爺さんの形見の『漬物石』の代わりにしてた、古い刀じゃねーか!!」


蒼真

「漬物石ィィィィィ!?」


#4 妖刀の「衝撃の正体」


無限幻夢零式最終奥義

「いやぁ懐かしいな! 爺さんが昔、駅前の骨董品屋で『一番安くて重そうなやつをくれ』って言って、五千円で買ってきたやつだぞ、それ」


永瑠

「ご、五千円……!? 大型モンスターを何体も倒した強力な武器が、五千円!?」


ノア

「解析。購入価格:5,000円。……非常にコスパの良い終末兵器です」


無限幻夢零式最終奥義

「確か、店主が『これを持つ者は破滅する(かもしれないし、しないかもしれない)』とか言ってたな。でも、うちは代々、これを使って茄子や胡瓜を漬けてきたんだ。重さが絶妙でな。おかげで雪村家の漬物は、魔力……じゃなくて塩味がよく染みるんだよ」


蒼真

「……俺、この刀で世界を救わなきゃいけないんだけど。これ、伝説の武器じゃなくて、ただのキッチングッズだったのかよ!」


咲夜

「あら、そういえば最近、漬物が少し酸っぱくなったと思ってたのよね。封印が解けちゃったせいかしら?」


蒼真

「封印って言うな! 賞味期限の問題だよそれ!」


#5 夕食の喧騒


無限幻夢零式最終奥義

「まあいい。五千円だろうがなんだろうが、蒼真がそれを使うって決めたんなら、それはもうお前の『魂』だ。……さあ、飯だ! 咲夜、このカレーに隠し味で『概念』とか混ぜたか? 凄くいい匂いだ!」


蒼真

「(ガックリと肩を落として)……五千円。魔王の娘が欲しがった刀が、五千円……。俺の苦労も、たぶん五千円くらいの価値なんだろうな……」


永瑠

「……蒼真。元気出しなさいよ。私が、その五千円の刀を……5,010円くらいの価値にまで、鍛えてあげるから……」


蒼真

「十円しか増えてねーよ!!」


魔王の再来という絶望的な夜。

雪村家の食卓は、あまりに安上がりな「伝説」と、40人前のカレーの湯気に包まれ、今日も平和に更けていくのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ