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第18話:闇王降臨-父と娘と器

◇◇◇



#1 破れた夜空と、確定された運命


空が裂けた。

次の瞬間――世界の温度そのものが一段階、落ちた。


シィィィィィィィン……


蒼真

「(やば……息、吸うだけで肺が凍る……!)」


永瑠の体が、本能的に震えた。

震えているのは恐怖ではない。


“遺伝の記憶(Blood Echo)”

――闇王の血が、主の帰還を告げている。


永瑠

「……ルシェル……!」


影はゆっくりと降り立つ。

歩くだけで、街灯の光が歪み、影が伸びる。


その男は、静かに微笑んだ。


ネオヴァンパイア

ルシェル=ノワール。

闇王であり、“永瑠の父”。


ルシェル

「永瑠。ずいぶん大きくなった。」


永瑠(固まる)

「…………」


ノア(震える声)

「異界魔力……とんでもない……ッ。

わたし、こんな数値……見たこと……」


蒼真

(な、何だよ、この圧力……!!

“強い”とかじゃない……

“存在そのものが反則”みたいな……!!)


ルシェルは柔らかく微笑む。

その顔は、驚くほど優しい――

しかし“底”に何もない。虚無の笑顔。



◇◇◇



#2 ルシェルの「始まりの言葉」


ルシェルは、永瑠の頬にそっと触れた。


永瑠(眉を寄せる)

「……どうして……今頃……?」


ルシェル

「迎えに来たんだよ、永瑠。

もう“役割”は終わった。

君はもう……自由だ。」


永瑠

「役割……?」


ノア

「(ッ……この人……“娘”を……)」


蒼真

(役割……?何だよそれ……

娘に言う台詞じゃねぇ……!)


ルシェルはゆっくり蒼真を見る。


その瞳は、深淵。

見ているだけで魂が引きずられそうになる。


ルシェル

「そして――

君は“ウィンターの器”か。」


蒼真

「っ……!」


ノア

「蒼真さん、目を合わせないで!!

魂を引かれます!!」


蒼真

(やばい……!視界が、暗く……

音も消えて……体が……沈む……!)


永瑠は本能的に蒼真の腕を掴んだ。


永瑠

「……やめて!!」


ルシェル

「手荒なことはしたくないんだがね。

ただ確かめているだけだよ。

――そこの少年が、本当に“あの騎士”なのか。」


蒼真

(……あの騎士……?

ウィンター……のことか……?)



◇◇◇



#3 永瑠の拒絶


永瑠は父の手を強く払いのけた。


永瑠

「わたしは……行かない。

貴方のところには、戻らない。」


ルシェル

(微笑したまま一瞬で空気が変わる)

「永瑠。“拒絶”とは……誰に教わった?」


永瑠

「……人間に教わった。」


蒼真

「(俺か!?俺なのか!?)」


ノア

「(多分あなたです……)」


ルシェル

「……なるほどね。人間は、“感情”という呪いを植えつける……。厄介だ。」


永瑠

「くっ……」


ルシェルは手を伸ばす。


永瑠(後ずさり)

「来ないで!!」


ルシェル

「永瑠、これは命令ではないよ。

私の“願い”だ。」


永瑠の瞳が揺れる。

その言葉には、魂を刺すほどの真実味があった。


蒼真

「(ずりぃよ……そんな言い方……

娘が揺れるに決まってんだろ……)」


ノア

「蒼真さん……何とかしないと……!」


蒼真

「(無理だろこの状況!!闇王だぞ!?

俺ただの高校生!!)」


しかし――永瑠は言った。


永瑠

「わたしには……“守りたいもの”がある。」


蒼真

「え?」


永瑠

「だから戻らない。」

「蒼真たちといる道を……選ぶ。」


蒼真

(うおおおおお!?!?

俺ら!?!?

俺“ら”に入ってる!?!?

ちょっと嬉しい!!)


ノア

(恋ですか……?これは……恋……?)


永瑠(耳が少し赤い)

「……うるさい。」



◇◇◇



#4 闇王の宣告


ルシェルはやっと表情を変えた。


微笑が消えた瞬間、世界の空気が“死んだ”。


ルシェル

「恋……。まぁ、良い……。しかし、後悔することになるぞ、永瑠。」


永瑠

「……?」


ルシェル

「お前のその感情は、自分を苦しめる結果となる。……不死の者に“執着”は猛毒だ。

輪廻を外れた我らの魂に、成長も変化もない。ただ、永劫の時をなぞるだけだというのに。」


永瑠

「どういう意味よ……。」


ルシェルは永瑠から視線を外し、蒼真をじっと見つめた。


その瞳の奥には、冷徹な観察眼と、ほんの僅かな――飢えたような“期待”が混じっていた。


ルシェル

「ウィンターの器よ。今の君はまだ、中身が伴っていない。だが、面白いな。

……その未熟な魂が、私の娘に毒を

……いや、“毒に抗う力”を植え付けたというのか。」


蒼真

「っ……!俺は、毒なんて……!」


ルシェル

「いや、いい。

……君ならあるいは、この退屈な永劫の連鎖を断ち切れるのかもしれん。

かつての宿敵さえ成し得なかった、“終わり”という救済を。」


ノア

「(ッ……!この人、まさか蒼真さんに……自分たちを殺せと言っているの……!?)」


ルシェルは静かに霧となって溶け始めた。


ルシェル

「君が本物の“騎士”へと成るのを待つとしよう。

……もし成れなかった時は、私が直々に、この街ごと君たちを終わらせてあげるよ。」


永瑠

「待ちなさい、ルシェル!!」


永瑠の叫びは、霧の向こう側に吸い込まれた。

不気味なほどの静寂が、神楽市に戻ってくる。

空の裂け目が閉じ、不自然な寒さが和らいでいく。


◇◇◇


#5 呆然とする三人


蒼真

「……行っちまった。

何なんだよ、あの人……。

倒しに来たんじゃなかったのかよ。」


ノア

「……“期待”されていましたね。蒼真さんが、自分たちを終わらせることを。」


蒼真

「救済だか何だか知らねぇけど……。

勝手に期待して、勝手に去るなよ……!

俺、まだ高校生なんだぞ!?」


永瑠(震える手で自分の胸を抑える)

「……父は、狂っているわ。

変化のない永遠を恐れて、すべてを無に帰そうとしている。」


蒼真

「永瑠……。」


永瑠

「……でも、蒼真。私は……。」


蒼真

「わかってる。

……あんな奴の言いなりになんてさせない。

俺が……その“期待”以上の結末を叩きつけてやるよ。」


ノア

「蒼真さん……かっこいい……!

今の言葉、心拍数150越えの覚悟を感じました!」


蒼真

「だから数字で言うなって!!」


永瑠

「……。

……ありがと、蒼真。」


夜風が吹く。


神楽市の平和は、嵐の前の静けさへと変わっていった。



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