美少年は着るものを選びませんってことですか
昼食はヒルデガルトと取ることになった。
クラウス様は、昼食会、もしくは昼食兼会合、なのだそうだ。
こういうことはよくあって、流石は領主様だなあと思う。
つまり食事時間も仕事が入って来るし、食事をするのも仕事になるということだ。
クラウス様が領主であるグローセルングは、その中心一帯で温泉が湧いていることもあり、また海も近いことで療養客や観光客が多く、漁業も盛んで内陸に向けての海産物での商売も盛ん、なのだそうだ。
比較的裕福な土地であり、また、領主としてもそれなりに忙しいというわけだ。
その多忙さのおかげで、何だか少し気の緩んだというか、距離を測り間違った私の態度も、変に言及されずにすんだ。
と思う。
そう、あれは、距離を測り間違ったなあと思うのだ。
なんだ、耳打ちしたところから、もたれかかるとか。
そんなの自分でせずに、エレオノーラの視点で見たかった。
というのは、クラウス様がそろそろ出なければとなって離れた時に、エレオノーラがスカートを握りしめてぷるぷると震えているのが見えたからだ。
一見物音も立てずに黙って立っていながら、内心では萌え転がりたい人のありようではないかと思ったところで、自分が何をしていたか気が付いたのだ。
そういうわけなので、クラウス様が昼食会に行ってくれたのは助かった。
わけなのだけれど。
「ねえ、ルカ。午後からダンス用の服を合わせてみない?」
という提案がヒルデガルトからなされたのは、まさしく昼食の真っ最中。私がオムレツを口に運んだ時だった。
「え……、と」
と口ごもったのは、返事の前にオムレツを口に入れてしまうかどうか悩んだせいもあるけれど、今朝話したばかりの服が出来上がっているとは思えなかったからだ。
エレオノーラさんがいかに有能で、裁縫の仕事も抜群だといっても、朝食後はそこそこ私と一緒にいたわけで、もちろんその間に裁縫仕事はしていない。
それで服が一着出来上がっていたら驚きで、布の裁断だって出来ていないのではないだろうか。
ヒルデガルトがスプーンの上のオムレツを口に入れてからでいいとうなずいてくれたので、私はそれをゆっくり咀嚼し、飲みこんでから疑問を口にした。
「合わせると言っても、服は、ええと、まだ、ないのでは?」
壁際に控えているエレオノーラさんを気にして、失礼にならないようにと言葉を考えてみたものの、どう言っても『出来てないだろう』という意味である以上失礼になってしまう。
そんな私の気まずさには気付いていなさそうなヒルデガルトは、つかえ気味な私の言葉に、少しだけ不思議そうな顔をした。
「そうね、新しいのは。でも、お出かけ用の服はエレオノーラがもう用意してくれているそうよ。王城に着て行ってもおかしくないようなものを。ダンスの時に着る服って、要は正装だもの、着てみましょう? それに、ふふ」
何故かものすごくわくわくする、といった風に笑って、ヒルデガルトは一度言葉を途切れさせた。
「ねえ、ルカって、ドレスも似合うと思うの。そっちも着てみましょうよ。ドレスなら私のが小さい頃のものから取ってあるし」
くふん。
うっかり、変な咳き込みをしてしまって、手にしたスプーンが落ちてしまった。
アリだとは思うけど、その提案をしてくるのがヒルデガルトだとは思っていなかったのだ。
うん、正直先生やクラウス様、エレオノーラさんあたりの誰かなら、場合によってはその提案をしてきかねないと思っていた。
ちらりとエレオノーラさんを見ると、ヒルデガルトの言葉に『よし、よくやった』と思っていそうな雰囲気を感じる。気のせいだろうか。それともこれは彼女の差し金なのだろうか。
まあ、趣向としては少年の女装も嫌いではないですし。
ただほんと、自分が体験するというのは、微妙な気分なので、エレオノーラさんと代わりたいと思う。
ただ自分の体が少年とはいえ、意識が前世のままなので、女装という意識もないのでそういう点での抵抗もないのだ。
「……まあ、別に、着ろと言われれば、着ないことはないですが」
無理に断る理由もなく出した答えに、ヒルデガルトとエレオノーラさんがそろって歓声を上げた。
グル、でしたか。




