雇い主に理解があるのはいいこと、なんでしょうか
ダンス用の衣装合わせ。
という名の、美少年着せ替え会。
そりゃあ、楽しいですよね。
そうですよね。
と私が視線を斜め下に向けっぱなしなのは、着せ替えを繰り返されているのが自分だからだだし、ついでに何故かギャラリーが結構いるからだ。
私に衣装合わせを提案してきたヒルデガルトは、まあいい。
そもそもの発端は、彼女のダンスレッスンに私も同席させてもらうという話からだから、別にいい。
メイド長であるエレオノーラさんがいるのもいい。
私が着ている服はほとんど、作成という意味も含めて彼女が用意してくれているわけだし、いい。いいんだ。
そして何故か周りにいる、城内でちらちら見かける程度だったメイドたち。
この辺りからちょっと気分は微妙になってくる。
まあそれでも、エレオノーラさんに『そろそろ彼女たちにもルカ様になれてもらっておかないといけませんから』と言われると、それもそうかと思う。
いつも私の世話をしてくれるエレオノーラさんだが、メイド長だ。私につきっきりになってもらうわけにはいかないのは当然だ。
のだけれど。
「肌がぴちぴちね」
「髪もサラサラのふわっふわっ!」
「可愛い、んん、でも麗しいし、ハンサムと呼ぶには、でもその要素もあり」
「んんー! この距離でもいい香りがする!」
「あの子がクラウス様の、……なのよねぇ?」
「ってことは」
限りなく声を潜めているのは分かるのだけれど、聞えるものは聞こえるんだよ。メイドたちよ。
と言いたくなる会話が耳に入って来る。
まあ正直そっち側に私もいたいので、あれこれ言いたくなる気持ちは分かる。
分かるけれど、どういう顔をしていていいのか分からないのが困るわけだ。
大体、慣れるといっても、遠巻きに盛り上がったテンションで私について言い交している間は、こちらが慣れることが出来ないと思うがどうなのか。
それでも、まだいい。
かなり声を潜めてくれているので、私以外には多分、詳しい内容は聞こえていないし、まあいい。
「いやあ、こうしてみると、男の子か女の子か分かんないよねぇ。まあそういう年齢ではあるけど」
問題は、並ぶメイドの一人が淹れたお茶を飲みながら、椅子に座ってコメントをしているのは、私のこの体を作った錬金術師であるところの、先生だ。
一番この場に関係ない人だと思うのだが、何故いるのか。
「ん? ヒルダが君の着せ替え会をしたいから、今日の勉強時間を割いてくれって言ったから、暇なんだよねぇ」
私の疑問に対する答えに、瞠目する。
暇、とか。
ヒルデガルトの家庭教師でもある先生は、錬金術師である腕も買われてこの城にいるはずなのではなかったのだろうか。
他にもすることはあるんじゃなかろうか。
そんな疑問も湧いて来るわけだけれど、クラウス様からの依頼を受けて私の体を作った際に、一部自分の趣味に走った設計を行ったことも知っているので、いわゆる使用人という立場とは違うのだろう。ということにしておく。
そんな先生のコメントから分かる通り、私は今現在、ヒルダが着ていたというパーティ用ドレスを着せられているところだ。
鏡に映っている姿は、まんま、美少「女」、だ。
それにしてもカツラも被せずに、櫛一本で女の子らしい髪型を演出しきったエレオノーラさんの腕前の素晴らしさよ。
けれど服を脱げば見て分かる、男の子。
服装による性別の区別は所詮文化によるとはいえ、なかなかワクワクするものでもあるかなと。
そのわくわくを、誰かと語るとなると、それがわが身である以上、洒落で済ませられない事態も想像出来てしまうのが、残念だ。
そんなことを考えていると、その洒落で済ませられない事態にそぐうことをひそひそ言い合う声が聞こえてきたので、私はまた視線を伏せた。
「クラウス様、絶対こういう女装とか、お好きよね」
「スカート持ち上げさせたりね」
「え、それを言ったらフェニクス先生もそういうのお好きそうじゃない?」
「いやでも、正直わたしも好きだわ」
「私が衣装係りになれたら、スカートも日々の衣装にいれるわね」
「下着なしで」
聞こえている。
聞こえているんだよ、メイドたちよ。
それにしても、メイドたちは自分たちの主の指向に対して、とても理解があるようだ。エレオノーラさんの教育の賜物なんだろうか。
そのうち、クラウス様がお好きだからとかいって、特殊な服が用意されたりするんだろうか。
そんなことを考えながらも、まだまだ着せ替えは続くのだった。




