間接キスということについてどのくらい気にするかというのは人それぞれなわけで
「いや、はは。すまないね、ルカ」
私が水筒を下げている理由が自分の発言にあったことを知って、照れ臭そうにしていたクラウス様が口にしたのは、そんな言葉だった。
何がすまないねなのか分からず、瞬きすると、クラウス様は息を吐き出し笑いを抑えて言った。
「その、君が魔女の力を持っているのは理解しているが、関係あるにしても、そう思った場所が場所だろう? 色ボケしているんじゃないかくらい、言われるかもしれないと思っていたんだが、ずいぶん真面目に受け取ってくれたようだから」
その言葉に、私はもう一度ゆっくりと瞬きした。
色ボケ、か。
そんなことは思いもしなかったわけだけれど、言われてみると、そう受け取る可能性もあったのかもしれない。
とはいえ、私自身、なるほどなあと思うだけで、言われてみれば確かにそうだなんてことは思っていない。
ふるふると首を振った。
「別に、クラウス様が謝られるようなことではないと思いますし、この実験で何か影響があるのなら、それはそれでいい気もしますけど」
色ボケ発言については気にもしていない風に、答えてみる。
すると、クラウス様が近づいて頭に手を置かれた。
黙ったまま頭を撫でる手に、私も黙ってそれを受け入れる。
「それで、その実験は、どうやって結果を見るんだ?」
少しの間私の頭を撫でてから、クラウス様は言った。
「ええ。一応私が触らないまま、普段の飲み水と飲み比べてみたらどうかと思っているんですが」
どうでしょう、と見上げると、クラウス様が理解したとばかりに口の端を上げる。
「なるほど。それなら、私がその役をさせてもらっていいかな?」
もちろんそのつもりだったのでうなずくと、エレオノーラさんが私から水筒を外して準備を始める。
「役得だな……」
そう呟いたクラウス様は、エレオノーラさんをじっと見ていたため、果たしてこの試飲とエレオノーラさんの行いと、どちらに役得であることを感じたのかはよく分からない。
つまり、それが私だということを無視して例えるなら、
美少年が下げていた水筒の水を飲むことが役得なのか。
美少年が下げていた水筒を、ばんざいさせて取り外すのが役得なのか。
ということだ。
個人的には、その相手が自分でなければどちらも役得さがあると思う。
そういえば、先ほどの流れを振り返って見ると、エレオノーラさんが私にクラウス様の発言を伝えたことでクラウス様はどうやら恥ずかしい思いをしたわけだけれど、エレオノーラさんが怒られるようなことがなければいいのだけれど。
彼女のおかげで、こうして今まで考察されていなかった魔女の力とやらに関する実験に至ったわけだし。まだどう影響があるのかないのか、分からないとはいえ。
そんなことを考えている間に、クラウス様はソファに座り、私もその向かいに座る。
何となく、隣にくらい座ってもいいのかな、なんていう気持ちもあったのだけれど、とりあえずいつも通りの距離にしておいた。
そしてクラウス様の前にはグラスが二つ。
見た目では、差異はないようだ。
もちろん、私が普段扱っているハーブティーにも、見た目上の何かが表れたりすることはない。
「ふむ、どちらがどうとは、聞かない方がいいんだろうね?」
クラウス様が私を見たので、それはもちろんとうなずいておいた。
ならば、とクラウス様は右のグラスから手に取った。
普通、飲み比べなら、両方のグラスの中身を口にしてから判断するのではないだろうかと思うのだけれど、クラウス様はすぐさま答えた。
「ああ。これが、ルカが下げていた方の水だな。比べる必要もないくらいだ」
え、と驚いていると、グラスを差し出された。
「これだけはっきりしていると、ルカにも分かると思うが」
飲めということのようなので、それを受け取る。
視界の端で、エレオノーラさんがときめく対象を見つけた仕草をしているのは、同じグラスでというところに反応しているのだろうが、まあ、こういうことへの反応は人それぞれではあるまいか。
気にしない、ということにしておいて、受け取ったグラスの水を口に含んだ。




