第九話
ある日、ダンジョンができた。
アメリカにも、もちろんできた。
アメリカのトップチームを紹介された。
本来、世界を救うのは副業探索者の俺ではなく、彼らなのだろう。
今回のミッションを完遂するために、あくまで一人で行くことを選ぶべきか。
世界の平和を選ぶべきか。
庶民たる俺としては、彼らにぜひ頑張ってもらいたい。
ただ、全てをオープンにすることは、ダンジョンと世界とのバランスを崩すことになるかもしれない。
世界への情報発信力が違うのだ。
この先、ニンジャの設定を貫くのもありだ。
まあ、彼らは彼らなりに頑張っており、このダンジョンの設計に気がついているかもしれない。
NDAの都合上、様子を見ながらできることをやるしかないか。
そして俺たちは、ネリス基地の敷地内にあるダンジョンにやってきた。
ダンジョンの入口を前にして、軽いブリーフィングを開始する。
作戦主任のダニエル・ブルックス少佐が口火を切る。
『ここはエリア51の付近にできた、ネリスダンジョンだ
基地内にあることもあり、我々のようなダンジョン専門部隊を中心とした、国軍のトレーニングに活用されている。
今回のターゲットは、ここからほど近い、ユタ州のソルトレイクシティにあるプロボダンジョンだ。
そちらは宗教的な事情もあり、基本アンタッチャブルになっているため、今回の目的に最適だ』
『ネリスダンジョンはどんなところなんだ?』
『ねぇ、そんなことより、梶はどんなニンポーを使うの?魔法と何が違うの?』
ちょっと、さっきまでツンケンしていたエヴァがグイグイ来る。
ニンジャ効果が半端ない。
さゆりも戸惑いながら翻訳してくる。
そのくせ、彼女の目的にも合致しているのか、鋭い目つきの鋭さが増している。
『おいおい、梶も困ってるぜ。ジャパニーズニンジャはシャイなんだ。
どうせダンジョンに入れば見せてくれるさ。
ニンジャなのかクラウンなのか』
イーサンが煽るような話し方で絡む。
『おい、まずは説明だ』
キーン曹長が収める。
この大男はあまり語らないが、このチームでは圧倒的な存在感がある。
ブルックス少佐が続ける。
『ネリスダンジョンでは、主としてアンデッド、ゾンビが出る。残念ながら、リトルグレイではない。
今のところ、幸いにも噛まれた結果ゾンビになった者はいない。ただ、いわゆる毒の成分があり、そのまま亡くなった兵士もいる。気をつけてくれ』
『ポップ頻度はどうだ?』
『頻度?リポップ頻度はステイツで一番多い。
先日周知されたダンジョンのルール、倒した量に比例してモンスターが増え、ダンジョンが深くなるという法則が証明されたダンジョンの一つだ』
キーン曹長が前に出る。
『ここからは、私とイーサン、エヴァが同行する。
入口付近は比較的安全なので、そこまではレイチェルも別の護衛をつけて参加させてほしい』
『承知だ。こちらからは梶さんとわたしが参加する』
お前も来るんかい。
ダンジョンに入る際には、チームアメリカは完全武装になっている。
迷彩のボディスーツにヘルメット。
銃器の装備も完了している。
基本、皆同じようなスタイルだ。
イーサンの主武器だけはショットガンのようだ。
カッコいい。
アメリカ式のダンジョン攻略は、ファンタジーかぶれの日本とは毛色が違うらしい。
俺はいつものガントレットを装備する。
あとはリュックと普段着だ。
さゆりも、自衛隊の戦闘服のグリーンスーツにタクティカルベスト、ヘルメットを装備している。
武装はショートソードを左の腰に二本下げている。
拳銃は右の腰だ。
『カジ、身軽すぎないか?それともインナーに鎖帷子を着てるのか?』
エヴァが俺の体をベタベタ触ってくる。
この距離感がアメリカならではなのか、こいつの問題なのか。
ハニトラなのか。
『布だけだ。特殊な繊維なの?』
シャツを引っ張り確認してくる。
やめろ。
好きになってしまう。
「なんだなんだ。俺に夢中か」
『サユリ、なんて言ってる?』
『ユニ○ロで買ったって』
『オー、世界のユニ○ロね。探索者仕様もあるんだ。武器は持たないのか?手裏剣なのか?』
「武器はないの?ほんとにそのスタイルなのね」
「さすがにそれは聞いてるだろ?まあ、武器なんてあまり意味がないからな」
『武器を使うのは二流なんだって』
エヴァの目がきらりと光った。
『おとなしくしているけど、結構チャレンジャーなのね。我々もトップチームとして、力を見せつけないとね』
『楽しみにしてる』
「おい、俺は何も言ってないぞ」
どうやら練馬ダンジョンに近いレイアウトのようだ。
チームアメリカを先頭に進む。
奥に進むと広場になっていた。
やがて、一体、二体とゾンビが現れる。
『今回はスリーマンセルだ。俺を頂点に構えろ。
アタック!』
キーン曹長が三点バーストでゾンビの頭を吹き飛ばす。
エヴァ、イーサンも発砲する。
誰がどれを狙う、といった基本はルール化されているようだ。
練馬のアリほどは出現しないようだが、間もなく綺麗に掃討し、光の渦を作る。
『クリア』
キーン曹長が警戒し、二人が魔石を回収する。
レイチェルのチームが受け取り、また戦闘に備える。
弾をばら撒きすぎているように思うが、コストは見合っているのか、これ。
弾丸が尽きたらどうなるんだろうか。
まあ、白兵戦もそれなりにはやりそうだ。
スキル的には、音耐性がつくだろうなとは思う。
射撃スキルとか、命中とか、そういう遠距離用のスキルは覚えていそうだ。
俺はリュックから折り畳み傘を出し、リュックをさゆりに渡す。
「ダンジョンは、ハリウッド映画のようなスタンスではクリアできないんじゃないかと思ってる。
ダンジョンのルールを理解して利用しないと、ダンジョンの意思の裏はかけない。
まあ、見本を見せるよ」
「また、ストレートに訳せないことばかり言って」
「さっきから全然ちゃんと翻訳してねーくせによく言うよ」
『梶さんは、時代遅れのガンマンスタイルにがっかりした。
ダンジョン時代に必要な、本物ってやつを教えてやる、と言っています』
「言ってません」
俺はまた眉をひそめる面々を見やり、とはいえ認識を変えさせないとなー、とは思う。
ダンジョン後の反省会では講義の必要がありそうだ。
俺は例のごとく傘を広げた。
「ゾンビには傘だよな」
『ゾンビと言えば傘が想起されるのは、日本だけかな?』
『まあ、それはここでもそうだ。わかってるじゃないか』
少し和んだ。
普通に差していた傘を、くるりと回した。
「そろそろお客様だな」
『そろそろね』
俺は彼らの視線から傘で隠れ、次の瞬間には傘を投げた。
皆の視線が傘を追う。
傘がくるくると舞いながら落ちてくる。
当然、彼らは俺を見失っている。
『か、隠れ身』
『消えた』
「ど、どこ?わからない。見ていたはず」
ゾンビが向かってきているが、俺はその奥から爆音を響かせる。
『奥だ!』
次々と起こる爆発に、彼らは呆然とするしかなかった。
すぐに静寂が訪れる。
カタン、と傘が落ちる。
「っ!」
さゆりが息を呑んだ。
俺が傘の横に立っていたからだ。
「あんたがたはまだ、人間の戦い方の域を出ていない。
人の領域を超えないと、ダンジョンの真理にはたどり着けない。俺はそう思っている」
『!』
チームアメリカは言葉を失っている。
「ごめんなさい。わたし、あんまりアニメとか詳しくなくて・・・。
転○ラとかの話かな?」
「スンってなるだろ。オリジナルじゃい」
「急に厨二っぽくなるから、わたしの役割がおかしくなっちゃう」
「お前こそ急に可愛くなるなよ。んで、またいい感じに通訳してくれよ。
後で皆には、なんとなくレクチャーするつもりだから。
頼むよ」
「もう」
さゆりの険しい目が、少し緩んだ気がした。
こいつも俺のことを疑っていたのだろう。
『えーっと、梶さんは、人類が次の領域に進むためには、ニンポーを極める必要がある。
あなた方はまだまだ強くなれる。
その手伝いをしよう。約束する』
「約束してない。何か約束するって、俺言ったっけ?」
「お願い。約束して」
「事後承諾・・・。
ずるいぞ、急にそんな可愛くしやがって。
ちょっとだけな」
俺は美女には弱いらしい。
⸻
今回のリザルト
「音耐性」
「ハニートラップ」
「魅了耐性発動」
結局、彼らにゾンビをゆっくり動きながらぶん殴る姿を見せたのは言うまでもない。
彼ら自身の奥の手は見せてもらえなかったのも、言うまでもない。




