第八話
ある日、ダンジョンができた。
世界で千個くらいは確認されている、という認識だったが、全国に満遍なくあるわけではないようだ。
日本でも数十はあるし、アメリカともなれば無数にありそうだ。
もちろん、なぜか均等に配置されてはいないようなので、国土に比例しているとも言えないのだろう。
そんなこんなで、俺はネバダ州にあるネリス空軍基地にいる。
正確には敷地内のエリア四十とか五十とかで、八十八ではないそうだ。
ちゃんと聞き取れず、ガイドに聞いても回答に難色を示されたので、雰囲気で理解している。
さて、日本から一緒についてきた自称ガイドは、おそらく自衛隊のダンジョン探索者だ。
名前は自称、秋山さゆり。
現時点の所属は機構だという。
出向か何かだろう。
ショートヘアーで、アスリートのように鍛えられている。
欠点は鋭い眼光だ。
目つきが厳しい。
美人が台無しだが、強烈な男社会である自衛隊で生き抜いていくと、そうなるのかもしれない。
ダンジョンに入っていることは、その挙動で窺い知れた。
ダンジョンに入る自衛隊員は、おそらくベテラン中心の現場隊員と、指揮をする尉官で成り立っているだろう。
今回アサインされているからには、特殊なスキルも持っているはずだ。
とはいえ、俺はさゆりの声が結構ツボに嵌っている。
ちょっとハスキーなのだ。
しかしながら、酒焼けではなく地声とのこと。
横田から一度ハワイに着いたため、なんとか土産屋に行こうと抵抗したが、捕まり、ガミガミ言われてしまった。
困ったことに、その時の声に痺れたのだ。
つい怒られようとしてしまう。
距離を置かせてくれず、スキル発動ができなかったのもあるが、おそらく何かしらの予兆を感じ、逃がしてくれないようだ。
米軍との会話時には、積極的に通訳してくれるので非常にありがたい。
俺は完全に英語がわからないふりに振り切っていた。
ただ、皆がさゆりさゆりと言うもので、俺もさゆりと呼んでしまっている。
日本人かつ社会人として、嫌そうな顔はするが、直接的な文句はない。
このネリス基地では、ありがたいことにリゾートホテルの一室のような空間を与えられている。
ある意味、VIP扱いなのだろう。
とはいえ、到着した昨日は時差で何が何だかわからず、半分寝ていた。
今日、米軍とのMTG、ブリーフィングを経て、明日ダンジョンへ向かう。
「梶さん、時間です」
「はあい」
さゆりに連れられ、会議室へ案内される。
椅子がなんとなく大きく感じる。
日本人としては平均的な体格のつもりだが、ここでは子供のようだ。
『梶さん、紹介しよう。今回のミッションのメンバーだ』
※『』は英語の意。梶の日本語英語は「」で表記。
そう声を上げたのは、初日に挨拶した、このネリス空軍基地に間借りしている『DER』、ダンジョン探査対応局の作戦責任者、マイケル・リーブス中佐だ。
元パイロットとのことで、渋いマッチョなエリートだ。
続いて、どちらかと言うと金融街のエリートのような風貌で、カチッとしたヘアスタイルの男前が挨拶する。
俺より少し年上だろう。
『初めまして、作戦主任のダニエル・ブルックスだ。
日本の驚くべき星とお会いできて光栄だ。
主に作戦の設計、分析を担当している』
ん?
なんとなくナイストゥーミーチューと言ってしまっているが、なんか変なことを言っていないか。
続いて、同じ大男でもユッキーより縦と横が一回り大きい、黒人男性が挨拶する。
『戦術主任として、突入チームの指揮と前衛を担当している、タイラー・キーンだ。
日本のトップチームのリーダーと聞いている。
今回の作戦の提案は君なんだろ?
我々に期待してもらっていい』
なんだかすごそうなことを言っている。
「おい、さゆりちゃん。淡々と翻訳してるけど、なんかちょっと変じゃないか?」
「頭がおかしいのはあなたでしょ。ちゃんとしてよ」
「・・・」
もう、さゆりちゃんからの評価は底をついているらしい。
半笑いでヒゲを生やした、軍人にしては髪を伸ばした細身の若者が続く。
『情報処理も担当している、後衛のイーサン・コールだ
日本人らしく、ぼんやりしているな。
サユリの尻に敷かれてるのか?しっかりしてくれよ?
俺たちの命はあんたに懸かってるんだからな』
『エヴァ・ラミレスよ。私は前衛。よろしく』
そっけなく挨拶する、ラテン系の美女だ。
濃いブルーの髪を後ろで縛っている。
魔法を使えても前衛になるらしい。謎だ。
『最後にレイチェル・モーガンよ。
わたしは研究局からの出向だから、支援担当と思っておいて。新しい発見を期待しているわ。よろしくね。
あら?最前線を走る英雄はシャイなのかしら?』
こちらも白衣の美女。
誰かと違い、まさに本物の金髪とブルーの瞳だ。
ハリウッド女優のようだ。
セレブ感が半端ない。
バチリとしたウインクに、ちょっと照れてしまった。
気を取り直し、今回のアタック予定を整理する。
「ちょっと齟齬もありそうだから、まずはこちらの考えている作戦を話す。そう伝えてくれ」
『まず、梶さんから、梶さんの認識している作戦を伝える。齟齬があれば調整させてほしい』
『承知した』
俺は一気に話し、さゆりが淡々と通訳していく。
『今回の作戦は、ダンジョンの底にたどり着くことを目的としている。
ダンジョンの性質は認識していると思うが、戦えば戦うほど底が遠のく仕組みだ。
できるだけ戦闘を抑え、スピード重視で探索を進める。
そのため、もともと探索の進んでいない過疎のダンジョンをピックアップしているはずだ。
梶さんはそこへ単独で潜入し、映像記録を取り、帰ってくると言っている。
齟齬を確認したい』
俺の作戦を、さゆりが伝えていくにつれて、面々が腕を組み、頭を傾げ、眉をひそめていく。
さゆりも途中で、そうなんですか、と戸惑いながら翻訳していく。
チームアメリカの面々も顔を見合わせたが、代表してリーブス中佐が発言する。
『我々の認識では、アメリカのトップチームである我々と共に、一気にタッチダウンを狙うと思っていた。
一人でダンジョンアタックするのは、我々の中では自殺と同義だ。ドローンでも用意しているのか?』
「やっぱりか。かおりちゃんが仕事をしていないのか、『JSRDO』も真実として受け止めていなかったのか。
もし同行を望むなら、力量の確認が必要だ。
あくまでもスニークの力量だが」
『梶さんは単独予定と『JSRDO』に伝えていたが、おそらく『JSRDO』も皆さん同様、理解できていなかったようです。
同行できる可能性はあるが、スニークミッションのため、皆さんの力量を確認したい』
『それはこちらの要望と同じだ。驚くべき星の力量を、我々も確認したい』
イーサンが口笛を吹く。
エヴァは小声でファッ○ンなんとかと言っている。
「さゆりちゃんよ、あんたも同じ気持ちって顔してるな
軍人ってのは我々一般人からすると過激すぎる。
任侠映画の世界みたいだな。
まあいい。ソフトに伝えてくれ。
安全第一で、お手柔らかにしてくれるなら、どこかのダンジョンにでも行こう。
西部劇みたいに早撃ちとか洒落込んでみればわかるだろう。日本人はダンジョンの外では武力の発揮禁止だからな」
「わかりました・・・」
さゆりは少し考え込む仕草を見せたあと、何かを思いついたのか発言する。
『都合の合うダンジョンがあれば、日本のニンジャスタイルをお見せしよう』
『おー、ニンジャだったのか。それならそうと先に言ってくれ』
急に場が和やかになった。
さゆりちゃんの調整力を褒めるべきか。
何わけわからんこと言っとるんだこのアホが、とつっこむべきか。
俺は戸惑ってしまった。
⸻
今回のリザルト
「味方は誰もいなかったことがわかった」
「多分、日本には無事に帰れない」
とりあえず、のどかにチャットで愚痴ったのは言うまでもない。
かおりちゃんへの土産が無くなったのも言うまでもない。




