第七話
ある日、ダンジョンができた。
なぜできたのか。
誰が作ったのか。
その目的は何か。
終わりはあるのか。
どうすれば無くなるのか。
どこに続いているのか。
わかっているのは、モンスターを倒せば倒すほど、ダンジョンは広がっていくということ。
そして、モンスターも増えていくということ。
おそらく今、一番深く、一番遠くまで進んでいるのは、各国の軍隊。
日本なら自衛隊だろうと思われている。
そして俺は、その先へ進むことを決めていた。
おそらく、のどかもついてきたいと思っている。
今日は本業の打ち合わせ三昧だ。
有給をまとめて取ったため、できることを一気にまとめて処理している。
もちろん引き継ぎもあるし、調整も多い。
コロナ以降、Webミーティングが激増した。
ほんの少し前までは、会議をしようとしたら会議室を押さえないといけなかった。
今では気軽にWebで打ち合わせできるので、なんやかんや会議が多い。
いいのか悪いのか。
効率的なのか、そうでないのかは謎だ。
それはまあいいとしても、頭に来るのは、ミーティングとミーティングに境目がないことだ。
皆、頭がどうにかなってしまったのか、ミーティングはきっちり一時間。
そして、すぐ次のミーティングが始まるのだ。
なので俺はいつも、四十五分で終わるか、十五分から始まるようにしている。
時短が正義だ。
「梶、今度有給まとめて取るって?」
「ああ、夏休み取ってなかったからな」
「季節外れは色々安いよなー。旅費とかも。
うちは子供の夏休みとかじゃないと遠出できないからさー」
「まあな。そういえば、結城は山登りとか行ったことあるか?」
「ん? 富士山は登ったなー。
当時付き合う前のカミさんと、その他数人とで登ったんだけどさ、やっぱ極限に近づいてくると本性が出るじゃんか。
手伝うやつ、自分さえ良ければいいってやつとか。
そこでお互い、なんか気遣うポイントが同じでさ。
それからすぐ付き合い始めたよ」
「馴れ初めとかいいからさ。気をつけることとか、コツとかある?」
「そうだな。互いの気遣いと、あれ良かったよ。
山登り用のストック。あとお菓子。甘納豆とか。それと水だな」
「なるほどね。ありがとう」
「山登りは気をつけろよ。結構危ないからさ。
そういや先輩が言ってたわ。
まだ行けそうって思った時こそ、引き返せって」
「そうなんだ。確かに大事そうだな。
その先輩どうなった?逆に遭難したりして?」
「いや、山は大丈夫だったけど、家庭内別居で熟年離婚濃厚だって」
「どの辺りで、まだ行けそうって思ったのか気になるな」
「割と初めの方かもね」
「まあ、色んな意味で役に立ちそうな話だったわ」
それから数日後。
有給を取った俺は、練馬ダンジョンギルドのプレハブに顔を出した。
「かおりちゃん、お待たせ」
「梶さん、ありがとう。ちょっと片付けるから待ってね」
珍しくお茶も出てきた。
「結局、ターゲットのダンジョンは海外になっちゃったな」
「そうね。日本の機構は、まだ踏ん切れなかったみたい」
「悪いけど、これからアメリカへ向かうことになるわ。
正式なルートはわからないけど、ここの横にヘリポートがあるから、直接横田。多分、ハワイ経由でネバダの方って聞いたわ」
「一応パスポートはあるけど、軍隊に連れていかれるから、よくわからんな。てか、帰ってこれるの? 俺。
ちょっと引っ込みがつかなくなったから、まあいいんだけど、アメリカとは思わんかった」
せめて桜島あたりかと思ってた。甘かった。『JSRDO』舐めてたわ。
「まさかの、のどかちゃん。パスポート切れてるっていうオチもあったしね」
「無茶苦茶キレてたよな。ていうかさ、さすがにアメリカだったら軍人の方がすげーんじゃないの?俺、副業探索者よ?」
「そうなんだけど、個人の魔石納入数、聞かれなかったから言わなかったけど、あなたぶっちぎりの世界一よ」
ブーッとお茶を吹いてしまう。
「いやいや、そんなことある?そもそもランキングとかないって言ってたろ」
「世間的には無いわね」
「有名な探索者もいるだろ?日本でもなんとかっていう」
「日本だと、タレントでもある橘兄妹とかね」
たまにテレビに出てくる奇特な探索者もいる。
功名心が高い人はいる。
ダンジョンインフルエンサーもいる。
ダンジョンチューバーもいる。
のどかも、ちょっとかすっているはずだ。
「梶くん、英語大丈夫なの?」
「まあ、旅行限定程度は。多分。ルームサービス頼んだり、トイレ詰まったら呼べる程度には。
ただ、初めて海外旅行に行った時、コーヒー頼んだらコーラが出てきた。それからもうずっと恐怖で、飛行機ではコーラしか飲めん」
「ふふ、米軍機にコーラあるかしら」
「まあ、なんとかなるよ。持ってくし」
一応、日本政府を通して依頼を受けているので、日本人のガイドもつくらしい。
「ダンジョンまでついてくるかな」
「それはあなたの要望次第だと思う」
やがて外からヘリの爆音が聞こえてくる。
横のヘリポートっていうか、空き地だろう。
このダンジョンや事務所は、大泉インターの脇にある。
元は資産家の大豪邸だったが、全国チェーンのスーパーが買い取り、スーパーを建てようと更地にした。
そして地質調査をしたら土器が出てしまい、長く更地のままとなっていた。
たまたま近隣が事故で大渋滞していて、かつ、インター近くにドンキができて人が集まっていた時に、ダンジョンができたらしい。
そんな吹きさらしの場所に、ヘリが降りた。
一人の自衛隊の制服を着た女性が降り、こちらを手招きする。
「よくわからんが、行ってくるわ」
「はい、気を付けて」
「ああ、あすかによろしく」
「なんでやねん」
まあ携帯は、今や世界中でも通じるしな。
なんとか日本に戻れるよう頑張ろう。
残念ながら、アメリカではめんどくさい目に遭いそうな予感がする。
でもそれ以上に、行け行けと俺のスキルが囁くのだ。
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今回のリザルト
「山登りの格言」
「結城の馴れ初め」
のどかからのチャットがやまないのは言うまでもない。
さすがに可哀想になり、お土産を買っていく約束までしたことも言うまでもない。




