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副業ダンジョン探索者  作者: hosopen
出向編
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49/50

会社の異変

 そのモンスターの死骸を見た時、地下資源開発機構の理事長である菅原は、思わずうめき声を上げた。何故か不快感が湧いてくるのだ。


 研究局理事の酒井とスタッフとして、鈴木、氷室がいる。解剖前に検分している。


 防衛局からは統括の水野と、特戦隊から班長の御厨と秋山さゆりが参加している。


「御厨さん、こういったモンスターは見たことがありますか?」


 水野が敬語で話しかける。御厨とは出向元の階級は大幅に異なるものの、御厨の方が年長であること、現場の叩き上げで、最前線の英雄の一人であるため、尊重されていて、参加者は当然のこととして受け止めている。


「水野一佐、自分は見たことがありません。不思議とダンジョンには、我々の認知下にあるモンスターしか出てきていないんです」


 御厨は横の秋山さゆりを見て、目線で促す。


「自分も見たことはありません。これ、私見ですけど、どっちかというとエイリアン寄りじゃないですか?」


 さゆりは特戦隊にいながらも、梶のパーティメンバーとしても活動している。もちろん監視の意味もある。


 さゆりは目つきを厳しくして、見極めようとする。スキルの詳細は開示されていないが、見つめたものの性質を読み取ることができる。


「生きていないとあまりわからないんですが、モンスターのように魔石ではできていないように思います。もっとも、解剖しないとわかりませんが・・・。本当にモンスターなのかしら・・・」


 先程から検分している鈴木が氷室に話しかける。


「氷室さん。これ、金属ですよね」


「ああ。梶からの動画も見たが、金属の外殻としか思えん。あいつもそう言っていた。体液を吐きかけてきたり、生命体でもある。不思議だ」


「梶さんは他に何か言ってましたか?」


「いや、弁償がどうだかで愚痴を言っていただけだな。バカだな、あいつ。ふふ」


 氷室の嬉しそうな姿を見て、鈴木は呆れ半分、頑張ってほしいという応援の気持ちだった。こういう時に義理の弟として、梶になんとかしてやってほしいと思うのだ。通達次第だが・・・。


「氷室君、梶さんは怪我などはないのかい?」


 菅原が尋ねる。


「理事長、あいつの体は地球上の物質では傷をつけられません。そしてこのモンスターも同様でした。大丈夫だそうです。もはや傷つけたい場合は、精神的な攻撃をするしかありませんよ」


「いや、応援している側だからね、私たち」


「いずれにせよ、これはここの機関だけで検査しきれません。民間も含めてプロジェクトを組んで進めましょう。素材研究のチームと生化学チームに分けたいです」


 酒井の申し出を菅原は了承する。


「こういった新しいことは、ほとんど梶さんから始まるな。アメリカや各国からも派遣要請がひっきりなしだ」


「梶さんは副業と言い張ってますからね・・・。遠出はNGだと前に言ってましたよ」


 さゆりが肩をすくめる。


「散々言ってるのに、仕事はやめないようです」


 ◆


「そういえばまた練馬ダンジョンなくなったらしいじゃん」


 梶が経費の処理を社内ワークフロー(社内手続き)のシステムで処理していると、同期の営業課長の結城が話しかけてきた。


「それがどうした」


「どうせまたお前だろ? だいたい世間を騒がしているのはお前発信だもんな」


 はからずも機構の菅原理事長と同じことを結城も言った。


「流行の最先端を走ってるからな。トップランナーはつらいわ」


「いやいや、マッチポンプだろ、お前の場合は」


「うっせー」


「おいおい、また社内のゴシップを運んできてやったのに、つれないな」


「お、なんだ?」


 結城が声をひそめて話し出す。


「どうやら俺の営業力もあり、お前の所の機構とうまくいっていて、お偉いさん同士で打ち合わせしているらしくってさ、大きな案件になりそうなんだ」


「いい話じゃないか。俺的パンダ効果もあるだろうから、いい流れじゃないか」


「それがさ、この間結構な成果を出した山田姉さんがパイプ役に抜擢されそうでさ」


 山田は梶と結城の先輩社員で、若手の頃二人は世話になった女傑のため、頭が上がらない存在だ。


「お前も広報は向いてないから、現場寄りな仕事ができるといいな」


「いや、広報もなかなか深いぜ。最近は動画でのアピールも必要だから、この間サブリミナル効果でやばいやつ仕込んだわ」


「あほか。まあいいや、また今度教授のところ遊びに行こうぜ」


 結城に軽く梶がパンチする仕草をする。


「おっとっと、危ない危ない。週末家族で牧場に行かなきゃいけないんだ。じゃあな」


 おどけて結城が去っていく。父親風をいつも吹かしていくので、梶はいつものことながらニヤリとしてしまう。結城なりの気遣いなのだ。


「梶、今いいか?」


 直属の上司の課長、中野から声がかかる。


「はい? どうしました」


「ちょっとミーティングルーム取ってくれるか? 相談があるんだ」


 グループウェアのスケジュールから会議室を取る。


「第三会議室が空いてました。お願いします」


 ノートPCを持ち、梶たちは会議室へ向かう。歩きながら中野が言う。


「広報も慣れてきたな。このあいだ社長も同行して支社へ行ったろ? 段取りがスムーズで感心してたぞ。さすが営業でトップセールスだっただけあるなって」


 梶の予感スキルがガンガンと鳴り響く。面倒ごとが確定だ。スキルがなくてもわかるくらい、あからさまな雑談だった。


 会議室に入ると中野が言う。


「梶、喜べ」


 これ絶対嬉しくないやつじゃん、と梶は心の中でつぶやく。


「お前、来月からダンジョンに出向な」


「へ?」


「ん? お前ダンジョン好きだろ? 毎日行ってるし」


「ダンジョン、機構ですか?」


「当たり前だろ」


 梶は普段から何とも思っていなかったが、今日は無神経な言葉に苛立ってしまった。


 お前をダンジョンに出向させてやろうか、と顔が語っていたようで、中野はさっと話を切り上げた。


「んじゃ、来週人事から出向の説明あるから、よろしくな」


 さっと中野は引き上げていった。


 梶は社内チャットで結城に連絡する。


『俺じゃねぇか』


 即レスが来る。


『あ。やっぱり? 広報も持て余してたからなー』


『え? 俺、広報からも持て余されてたの・・・』


『リアル地雷だもんな、お前www』


『しかし、どんな顔して行けばいいんだ?』


『いつも通り、さらっと行けよ。職員が三度見ぐらいするんじゃねえか?』


『うーん。アウェイ』


『ファーラウェイ』


 梶は翌週、人事から出向のレクチャーを受けた。在籍出向だが、勤務形態は出向先である地下資源開発機構の規定に従う。


 バタバタと引き継ぎを終えて、ついに地下資源開発機構へと出向することになった。


 主な担当は地下資源開発機構との共同開発で、ダンジョン内で活動を補助する自律型のダンジョンマニピュレーター、ロボットの開発だった。


 梶はそこでユーザー目線での要件定義、仕様作成を担う。


 科学は驚きの速さで進歩しているようだ。

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